月夜の恋

はなおくら

文字の大きさ
上 下
45 / 53

待ち人

しおりを挟む
「アビー嬢、こちらの用件を呑んでもらい感謝する。そなたには、王太子の侍女として支えてもらいたい。」

「かしこまりました。誠心誠意務めさせていただきます。」

 アビーはかしずいた。そして謁見が終わり王太子との面会が行われた。

 部屋へと案内され、中に入ると街での雰囲気を少し残しているが、王太子の威厳を持ったハリソンが立っていた。

「他の者は席を外してくれ。」

 そういうとハリソンの周りの人間が部屋を出ていく。

 かしずいたまま動かないアビーに声をかけた。

「アビー、久しぶりだね。顔を上げてくれ。」

 そう言われて、アビーは顔を上げた。ハリソンに聞きたい事は山ほどあった。だが王太子となった彼に無礼な事をする事はできない。

 顔に出ていたのかハリソンはアビーに言った。

「アビー、今は二人だけだ。街であったように普通にしてくれ。」

 そういわれてアビーはハリソンの言葉に甘える事にした。

「聞きたい事が山ほどあるの…。何故私がここにいる事になったの?」

 そう聞くとハリソンは、アビーを椅子に座らせ自分も座る。テーブルには既にお茶が用意されていた。

「まず落ち着くためにお茶でも飲んでくれ。」

「ありがとうございます…。」

 アビーはハリソンの言葉を待った。

「君がここに滞在する事になったのは私のわがままだ。」

「えっ…?」

 どういう事なのか全くわからない。

「私は君を愛してる。出会った時からずっと…。そして街で話をする様になってからより一層…。」

 アビー驚愕した。ハリソンに助けられた事もあり感謝はしても、恋心は芽生えなかったからだ。

「君が、ケロウ伯爵と恋仲なのはわかっていた…。だがどうか僕を見て欲しい。」

 アビーは懇願するハリソンに戸惑っていた。しかし片思いを、続ける胸の痛みは嫌というほどわかっていた。だからこそはっきりと話そうと口を開いた。

「ハリソン…あなたの気持ちはありがたいわ…私の事を思ってくれて…。でもね、私はケロウ様を愛しています。それにあなたはとても大切な友人よ。だからこそ…ごめんなさい…。」

 アビーは、自分が振っておいて苦しい気持ちになった。

 だがハリソンは納得しなかった。

「いやだ…こんな事認めたくない。今まで見守るつもりでいたが、もう我慢なんてできない。君がそういうなら…。」

 ハリソンが呟くや否や、部屋の外から兵士が出てきた。

「彼女を部屋から出すな。私以外の者は絶対に入れないように見張っておけ。」

 そう言ってアビーは何も返せないまま連行されていった。

(ハリソン…何故なの?お願いだから目を覚まして…。)

 言いたいことも言えずアビーはただ引きずられて行くしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

処理中です...