月夜の恋

はなおくら

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抱擁

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 ケロウはアビーの一言になんら文句もなかった。逆に自分が言葉にして伝えていなかった事に申し訳なさがあるほどだ。

「すみません、こんな事言う事じゃ無いですがどうしても気になってしまって…。」

 アビーは涙目になりながらケロウを見つめた。

 ケロウはアビーを大丈夫だと言う意味で抱きしめ口を開いた。

「不安にさせてすまない。まずどこから話せばいいか…。」

 ケロウは考えた末幼少の頃から話し出した。

「アビーも聞いてるかもしれないが、私とカーラは幼馴染みだった。その時はお互い信頼できる友達としか考えていなかったよ。」

「……。」

 アビーは複雑な気持ちでケロウの話を聞く。その様子にクスッと笑いケロウは話を続けた。

「思春期に入り、その時くらいだと思うお互いを意識し出したのは、そこから結婚して本当に幸せだった……。」

「ケロウ様……?」

 アビーはケロウの顔を伺う。

「彼女が病で亡くなり、目の前が真っ暗になり人とも合わなくなり、もう誰とも恋をする事はないだろうと思っていた。」

 アビーは涙が流れた。穏やかに見守れると思っても本人からの言葉はショックでしかなかった。

「だがきみが現れて考えが変わった。最初は一介の使用人でしかなかったのに、いつのまにか目で追うようになってた。驚いたよ…。」

 そう言って真面目にアビーを見つめる。

「きみのおかげだ…こんなに幸せなのは…。過去の事はどうにもできない…カーラの事は今も大切な思い出として残っているし、だからといって君を順番のように思ってない。今…いやこれからも君と生きていきたい…。都合が良すぎるだろうか…。」

 ケロウの表情に、アビーは誠意を感じていた。今この瞬間今までのわだかまりが消えていく感覚がした。

 するとまた頬から涙が溢れ出す。その涙をケロウは、手で拭ってくれる。

「ケロウ様…あなたを愛しています。どうかいつまでもそばに置いてください。」

「当たり前だよ。きみが迷っていたとしても離すつもりはない。」

 そう言ってアビーの顔を持ち上げ、瞳をのぞき込みキスを落とした。

 アビーは、涙が止まらぬままキスを受け入れていた。

 どれくらいそうしていたのか…いつのまにか日が沈み辺りは、道を照らす光だけが見えていた。

「きみといると時間を忘れてしまうな…帰ろう…。」

 そう言って片手を差し出したケロウにアビーは迷わず繋ぐ。

 馬車までの道を2人寄り添って歩く。夜の寒い道ではあるが2人の心は、穏やかなひだまりのような暖かさに包まれていた。
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