月夜の恋

夢の人

　一つ問題が解決したおかげか、アビーの気持ちは晴れ晴れだった。

　ケナが言っていた。扉の前でノックをするとハンスの声が聞こえてきた。

「どうぞ。」

　中に入るとハンスが待っていた。

「お疲れ様です。アビー、急に呼び立てて申し訳ない。貴方には旦那様の付き人として、簡単なダンスを覚えて頂こうと思います。お客様も見えてる事ですしね。」

　そう言ってハンスは、さっそく手を差し伸べた。

　アビーも戸惑いながらも、手を伸ばす。

　そうして、ハンスの指導が始まった。今回は、前教わった数々の種類ではなく一つなので楽だった。

「はい…1  2  3  1  2  3…。」

　教え方がわかりやすい為、アビーは、あっという間にステップを覚えた。

　たまに足元を見ないとおぼつかないが、気持ちはワクワクする。

　コツをつかんでくると、面白いもので夢中になって踊った。

(パーティーの時には踊れなくて、残念だったけど、もし踊れるなら旦那様と踊りたい。)

　ハンスと踊ってはいるが、アビーは頭の中でケロウと踊るシミュレーションを立てていた。

　ダンスもそろそろと言う頃、コンコンっと戸の叩く音がした。

　しばらくして、ケナが入ってきた。

「どうだい？ダンスは決まったかい?」

　そう言ってからかいながら、声をかけてきた。アビーは満面の笑みを向けながら口を開いた。

「とても楽しいです。前のように何曲も覚えなくていいですし、一曲だけなのでとても楽しめました！」

「ええ…アビーは、とても教えがいがあります。私も楽しかったですよ。」

　そう言ってハンスも、満足気だった。ケナはうんうんとうなずく。

「それは良かった。アビーは次は私についてきてもらえるかい?」

「はい…わかりました!」

　アビーは不思議に思ったが、ハンスにお礼を言いケナについて行った。

　ケナについて行き部屋に入ると、アレアとリリーが待っていた。

「待ってたのよアビー!さぁさっそくおめかししましょう!リリーお願いね!」

「かしこまりました。」

　アレアが声をかけるとリリーが、アビーを椅子に座らせる。

何がなんだかわからない様子のアビーに、周りは微笑むだけだった。

「また後でね!アビー!」

　ケナはアビーの返事も待たずに、部屋を出た。アレアは、アビーを鏡越しで見つめると、ニンマリと笑って言った。

「アビー!楽しみにしててね！リリーはすごいわよ!」

　そう言ってリリーを見つめるとリリーは照れながら言った。

「大袈裟ですよ…ですが今回は張り切らせていただきます。アビーさんびっくりするわよ。」
　
　そう言って、リリーはアビーを磨いていく。アビーは、こんな事をしてもらっていいのだろうかと悩みはしたが、リリーに綺麗にしてもらえることに、くすぐったさを覚えていた。

　リリーの技術は飛び抜けていた。驚くアビーにアレアは言った。

「驚いた?リリーは手先が器用なのよ。これでケロウ様も、いちころね!」

　耳元でささやかれ、アビーは赤面する。

「アレア様…私はそんな…使用人と主人がそんな関係になるなど、旦那様が恥をかきます…。」

　アビーがそういうと、アレアは歯痒い気持ちになっていた。

「そんな事ケロウ様は気にしないわ！今日の貴方は、お姫様よ！……最後にこれは私からの贈り物気に入ってくれると嬉しいわ。」

　そう言ってアレアのそばに控えていた使用人達が、クローゼットを開けると、白いドレスが出てきた。

　白いドレスの中に、黒色の薔薇か刺繍されておりとてもエレガンスだ。

「……素敵…。」

　アビーはこんな素敵なものを用意してくれたアレアに涙が出るほど嬉しくかった。そしてアレアを抱きしめお礼を言った。

　アレアも抱きしめ返すと、

「ケロウ様の顔が楽しみね！じゃあ私はダンの所へいくわ。後でね!」

　そう言って部屋を出て行った。残ったリリーは、アビーにドレスを着せて最後の仕上げを始めた。