月夜の恋

はなおくら

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謙虚に

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 アビーは、夢のような心地でいた。しかし、大変なのはこれからだった。

 パーティーといえばダンスだ。平民の出のアビーは本格的にダンスなど踊った事がなかった。

 時間がなかったので、ハンスから基本のダンスのみを、みっちりと教え込まれた。
「アビー、いいですか?1 23.123」

「はい…足下がまだ慣れなくて…。」

 最初こそぎこちなく、ハンスの足を踏んだりとしていたが、いつのまにか意識すれば違和感なく踊れる様になっていた。

 ダンスはまだまだ、だがアビーは心底楽しかった。

 まるで自分がお姫様になった気分で、余裕ないながらも、楽しんでいた。

 ハンスとのダンスで、音楽が止まった時、入口からケロウが顔を出していた。

「頑張ってるね。この短期間でここまでできるなんてすごいじゃないか。」

「恐れ入ります。ハンス様の教え方が上手なだけです。」

「いえいえ、アビー様は筋がいいので、わたしも教えがいがあるのです。」

「なるほど、では…」

 そう言って、アビーの前にかしずき、手を差し伸べて、言った…。

「アビー嬢、よければ私と一曲。」

 ケロウは、おどけて見せた。

「旦那様、よろしいのですか?皆さんが褒めてくださっていますが私はまだまだです。」

 そう言って断ろうとしたが、ケロウがアビーの手を取り、強引にダンスを踊り出した。

「力を抜いて、今は練習じゃない自分らしく踊ってごらん。」

 アビーの方の力が抜けた。そして言われた通りに踊る。

 ケロウと踊れることに、胸が高鳴りどうにかなりそうにもなったが、自然と頬が緩んでしまう。

 目の前でケロウが微笑み、手と手が重なり今だけは一つになっているかと思うほどに。

「ケロウ様。私今とても楽しいです!」

 心からの笑顔をケロウに向ける。

「…っ……それはよかった。」

 ケロウ自身もここ最近自分の変化に戸惑っている。

 アビーの姿や笑顔を見ると、胸が躍り、目で追ってしまっている自分がいる事に気がついていた。

 しかしケロウの中で、カーラという最愛の妻が亡くなった時もう誰も、愛せない、愛さないと思っていた。

 今もその気持ちは、変わらない。心の内に気づかない様にと、自分にセーブを掛け、ダンスの曲が終わるとそっとアビーから離れた。

「…旦那様?」

「すまない、そろそろ時間が来たみたいだ。後はハンスに任せるから頑張りなさい。」

 そう言って、部屋を後にした。

「旦那様……。」

 アビーはそう呟くと、魔法が解けた様な気がした。今の今まで彼が手を握り、自分に微笑み掛けてくれていた。

しかし、お伽話のお姫様の様に、手に残った温もりを頬に当て、幸せに浸った。

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