月夜の恋

はなおくら

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新しい恋

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 某国の中の、小さな村があった。ここには、この村を治める領主がおり、毎年暑い夏の夜には、伝統的な祭りが開かれていた。

 その中に一人の少女がいる、名前はアビー。

 栗色の髪に、緑色の瞳をした彼女は、初めて来た祭りに胸を躍らせていた。

「兄さま!早く来てください!」

「待ちなさいアビー、そんなに急がなくても大丈夫だよ。」

 アビーはソワソワしていた。早く見て回らないと祭りが終わってしまうのではないかと、止める兄カルンの言葉も聞こえていなかった。

「すごい!人がたくさんとても面白いものも売っているのね!」

 そう言って、歳の離れた兄の手を引きながら祭りを見て回った。

 しばらく見て回った後、広場では領主の挨拶が行われようとしていた。

 兄に背負われ会場に目を向けると、ある青年に目がいった。

 そこには、黒い髪に黒い目をした青年が立っていた。領主様と何やら話をしており、アビーはドキドキしていた。

「兄さま…あの黒髪の方は誰?」

 そうアビーが問うと、

「あの方は、領主様の息子のケロウ様だよ。歳は…確か18歳だったかな…。」

「そうなのね!」

 アビーの気持ちはときめいていた。ケロウとは、10歳差の年齢であったがそんな事気にもしていなかった。

 領主の挨拶の合間も、アビーはケロウの方をちらちら見ていた。すると見られている事が分かったのかケロウの方から笑顔を、向けれられた。

 アビーは、とっさに兄の背に隠れた。そして兄にだけ聞こえる声で、

「私…ケロウ様と結婚するの…」

 そう言って頬を赤らめた。

 しかし兄のカルンは苦笑いを浮かべていた。

「皆が、集まってくれた事感謝する。そして嬉しい知らせがある。我が息子の婚約が決まった。」

 領主はそう言って、息子ケロウに手を差し出した。ケロウ自身も頬を赤らめながら、村人に手を振っていた。

 周りの観客からは、祝いの言葉で盛り上がっていた。

「そんな…兄さま…どうしよう…。」

 アビーは泣きそうな顔で兄を見た。兄のカルンはこの事を既に知っており、苦笑いしていたが、

「こういう時でも、好きな人であれば祝福してあげなさい。」

 と言って泣いているアビーの頭を撫で続けた。

 それから10年の月日が流れた。お祭りではしゃいでいた小さな少女も、大人になった。

 アビーには、もう決めている働き口があった。領主のお城で働く事である。既に働く許可ももらっていた。

 アビーには領主のお城で働きたい理由があった。

 今では、領主の息子だったケロウが、3年前から後を継ぎ、同時に結婚した。

 だが彼の幸せは長く続かなかった。結婚相手が、2年前に病で亡くなり、彼はひどく落胆してしまっていた。

 それから領主の屋敷から村へ出てくる事がなくなったのだった。

 アビーは、告げるつもりはないが、いまだに想いを寄せていた。

 彼を、遠くからでも支えていられるようにと。







 

 

 
 

 
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