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うちの委員長が一番です
しおりを挟むその日の昼休み、風紀委員は全員が風紀室に呼び出された。
十中八九、転校生の件だろう。
コンコン
「失礼します」
昼休みに入ってすぐ、俺は昼食を諦めて風紀室へと向かった。
重い扉を開くと、室内では風紀委員長の神宮寺奏が仕事をしている。
どうやら、俺は二番目の到着のようだ。
「お疲れ様です、奏さん」
「ああ、佐倉、わざわざ来てもらって悪いな」
「いえ、大丈夫ですよ。呼ばれなくても僕から報告に行っていたと思いますし……転校生には、もう会われましたか?」
俺の問いに、奏さんは苦々しい顔で頷く。
「天城と一緒にいるところに遭遇したよ。少し話したが……あれは厄介そうだな」
どうやら、奏さんも転校生の非常識っぷりを目の当たりにして、危機感を抱いていたらしい。
ていうかあの転校生、まさか奏さんにまで失礼なことしてないよな?
奏さんはなんだかんだで優しいから、失礼なことをされても怒ったりはしない気がする。
でも奏さんが許しても俺が許さないからな!!!
「そうですね……至る所で騒ぎが起きるでしょうし、風紀も忙しくなりますね……」
そう、たとえ転校生が自分自身に関わりのない人物だったとしても、風紀委員である以上は見て見ぬフリはできないのだ。
なんならむしろ、起きる騒ぎの責任が、すべて風紀に押し付けられる可能性すらあるからな。
ほんと、風紀委員会まじでブラックすぎる。奏さんがいなかったら一瞬で辞めてるわ!
「理事長から直々に依頼までいただいてしまったことだし、転校生の不始末は俺達で片付けねばならないだろう」
「理事長から……って、それいつの話ですか?」
「今朝だな。学校が始まる前に風紀室へ行ったら、依頼状が届けられていたんだ」
今日?
風紀になんの連絡もなく転校生を寄越しておいて、責任全部丸投げ?
しかも当日に報告とかナメてんの?
「……理事長はずいぶんと世間知らずな方なのですね」
にこり、と微笑んだ俺の言葉に毒が含まれていると気づいたのか、奏さんは、まあ落ち着け、と俺を窘める。
いやいや、奏さん、これはブチ切れてもいい案件ですよ。
「理事長の家は俺の家とあまり仲がよくないからな……。俺の個人的な確執で風紀の皆に迷惑をかけてしまって、本当に申し訳ない」
「奏さんが謝ることじゃありません。
家同士の問題が色々と複雑なのは分かりますが、公私混同にも程があるでしょう……理事長は社会人としての自覚がないのでしょうか?」
どうしよう、口から嫌味が飛び出すのを止められない。
別に罪悪感とかは全くないが、これでは優等生もクソもないな、と思う。
敬語でキレるのって難しそうだと思ってたけど、案外スラスラ罵倒できるんだな。
鳳凰学園の理事長、鳳晴信。
20代の若さで、理事長を務めるこの男は、その優秀さで各方面から信頼を得ている。
見た目もデキる男、という感じで、イケメンなので何気に生徒からの人気も高い。
が、しかし。俺はそんな理事長のことが大っ嫌いである。
というのも、俺はそもそもこの学園自体が嫌いなので、理事長を尊敬する気持ちもないのだ。
こんな頭おかしい学校を運営してる人間を尊敬できるわけないだろ。
さらに加えて、理事長はなぜか風紀に対して嫌がらせじみたことを仕掛けてくる。
何でも、奏さんが風紀委員長になったことが気に食わないため、あわよくば失墜させようとしているのだとか。
「名家と呼ばれる家にはしがらみが多いものだ。いちいち気にしていたらやっていけない」
「奏さん……本当に、無理しないでくださいね」
「俺はもう慣れたから心配するな。それより、佐倉の方がそういう諍いに巻き込まれそうで心配なんだが」
「僕はその辺りよく分からないのですが……一応、気をつけてみます」
中流階級の家の出である俺にはいまいちピンとこないが、トップレベルの名家の間では、常に熾烈な派閥争いが行われているらしい。
中でも大きく対立しているのが、天城家と神宮寺家、つまり天城先輩の家と、奏さんの家なのだそうだ。
二人が昔からライバル的関係であったことは知っていたが、思っていたより根深い問題なんだな……。
そして、理事長の家、鳳家は天城派閥の中でも力のある家だ。
そうなると、鳳凰学園も天城派閥なのかと思えるが、そこはさすがに教育機関。神宮寺派閥の生徒も歓迎しており、中立の立場をとっている。
お互いに今の均衡状態を崩さないようにしようねー、という暗黙の了解があるらしい。
みんな平和なフリをしながら、水面下では相手をいつ蹴落とそうかと睨み合っているのか……。
お金持ち怖い。
「ともかく、どんなに理不尽だろうが俺たちの仕事に変わりはない。
……それに、できませんと泣きつくのも癪だしな。こうなったら、最後まで転校生の面倒を見てやるさ」
好戦的な笑みを浮かべた奏さんは、男の俺でも見とれてしまうくらいカッコよかった。
普段は『氷の君』と呼ばれるくらいに冷静で表情を動かさないけれど、時たま見せる感情的な姿は意外と熱い人なのだ。
他の生徒が知らない奏さんをいっぱい知ってるんだからな。
どうだ、羨ましいだろ!
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