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ここは王道学園なので

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寮の自室に帰ってきて、制服を脱いでラフな服に着替えて、ようやく一息つくことができた。

俺の部屋にあるのは、ベッドと勉強机、クローゼットくらいだろうか。
あまり物を持たないタイプなので、結構スペースが余っている。
だが、庶民派の俺はそれくらいシンプルな方が落ち着けて過ごしやすいのだ。

特にこの学園は内装がどこもかしこも豪華なので、自分の部屋でぐらいは目を休ませたい。

ここが唯一の心休まる場所。俺のオアシス。
そのオアシスに……。


「……なんでお前がいるんだよ!」

「いやー、伊織と喋りたくてさ!」


なぜか、この一人で落ち着けるはずの自室に、にこにこと笑うやたらと元気な男────黒柳が居座っていた。


「いや、俺とお前さっきまで喋ってただろ!なんなら数分前に扉の前で別れたばっかだわ!」


そうだ。俺はつい先程、黒柳と寮に帰って来て、隣の部屋のこいつと扉の前で『さようなら』『またな!』というやり取りをしたはずだ。
そこから10分も経っていないというのに、なぜお前はここにいるんだ。


「えー、だって学校の『佐倉』と喋っても面白くないし。俺は伊織と喋りたいんだもん」


(口をとがらすな!頬をふくらますな!180越えてる男が『だもん』とか言うな気持ち悪……くねえな。くそ!これだからイケメンは!)


黒柳が言う学校の『佐倉』とは、優等生を演じている時の俺のことを指している。
黒柳とは中学からの友人なので、俺が本当はどういう性格か知っているため、猫を被っている時の俺が気に入らないらしい。
まあ、俺はやめないけどね。自分の身が一番かわいいし。


「にしたって、少しは間を空けるとかさぁ……」

「……俺が来て、迷惑だったか……?」

「うっ」


だから!!!
目をうるうるさせるな上目づかいするなぁぁ!!




ーーーーー




「あー、そういえば来るって言ってたな、転校生」


今日の昼休みに俺の身に降りかかったことを全て話したら、黒柳はあっけらかんとそう言い放った。


「知ってたんなら、教えろよ……」

「ごめんごめん、初日に会長が案内するだけだから、俺には関係ない話だと思って忘れてたわ!」

「お前な……」


さすがに能天気すぎないか?
俺はお前がちゃんと生徒会でやっていけてるのか心配だよ……。


「でもさ、転校生って言ったって一年生だろ?一ヶ月遅れの新入生みたいなもんじゃん。そんなに気にしなくてよくないか?」

「お前、四月に新入生が入ってきた時の学園の荒れようを忘れたのか?ここは内部進学ばっかりだから、余所者は目立つんだよ。
転校生なんて、全校生徒の注目が一人に集まるんだから、大荒れ間違いなしだろ」

「えー、そうか?別に転校生が普通の奴だったらそんなに目立ったりしないと思うけど……」

「甘い!!」


思わずカッと目を見開いて叫ぶ。


「こんな普通じゃない学園に、普通じゃない時期に転校してくるヤツだぞ?普通なわけないだろ!」

「お、おう……」

「『王道学園』でも『季節外れの転校生』は主人公になりがちらしいし……これはもう、ダウトだ!!」

「王道学園……って、詩織さんの言ってたやつか!」


ハッとしたように目を見開いた。
事の重大さに気づいてくれたようで何よりだ。


「姉さんの言うことを信じたくはないけど、この学園はまじで『王道学園』っぽいからなー。
たぶん、主人公のことも本当な気がするんだよ」

「びーえる?の王道学園って意味わかんなかったけど、実際入ってみたらほんとに詩織さんの言う通りだったもんな。結構、信ぴょう性は高い」

「そうなんだよ……信じたくないけど!」


いくら腐女子である姉が『鳳凰学園はBL王道学園だ!』と言い張ったところで、俺はあんまり信じる気はなかった。
だって、生徒のほとんどがホモとか、やたらと顔面偏差値の高い生徒会とか、エッチなハプニングが起きる学校行事とか、そんなのが本当に存在してるわけないだろ。普通に考えて。

ところが、鳳凰学園はまじでそんな学園だった。姉さんが言ったことは全て現実になって、俺の身に振りかかってきたのだ。
黒柳には、笑い話として姉さんの『王道学園』発言を話していたが、入学して一週間もすれば、二人とも姉さんの発言を笑えなくなった。

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