上 下
11 / 30

11話 行き先は

しおりを挟む
 その坊主は突然この店にやって来た。

「ここで働かせて貰えませんか?」

 ここは貿易の町パウテ、貿易商の中でも一二を争う幅広い物を取り扱い、平民はもちろんギルドや太客のお貴族様や王族との関わりもある。

 金勘定の出来ねぇガキなんぞ御免だと追っ払おうとすると、なおも食いついてきた。

「数ヶ月__いや数日でもいいんです、働かせてください」

「おいおい、幾らいいとこの坊っちゃんでも実際に働くとなりゃあそんじょそこらのお勉強とは違うんだよ! 他をあたりな」

「では、試しに私にここで取り扱う商品の勘定をさせてください 万に一つでも間違えたら諦めます、お手間をお掛けしますがよろしくお願いします」

 そのガキンチョの心意気だけは褒めるに値するもので、ならばそこまで言うならとわざと商人でも難しい計算や販売のいろはの基礎をやらせてみた。

 それをあのガキはものともせずに、一つ残らずそつなくこなして見せやがった!

 あれは俺でもド肝を抜かれたね。

 あれだけ出来る商人なんざ、俺たち歴戦のプロですら早々いねぇ。

「……生意気なんだよ、クソガキ」

 しばらく前に旅立ったあのガキをふと思い出し、悪態の中に混じる隠れた本音を閉ざして次の客の元へと向かった__





######




「__はぁ!!? 今朝旅立った!!?!」

 マルク達は駆ける酒場亭を出るや否や、街の宿屋に次々と足を運び昨日出会った少年の情報を聞き込みに行った。

 昼を過ぎ、昼食を取りながら4件目の宿__囁く切り株亭の女将に声を張り上げた。

 ニコニコと人の良い笑顔を向ける女将に行き場のない憤りを感じるが、流石に理不尽なので感情を押し込んだ。

 すると、いままでずっと黙りだったヴィクトールが話しに加わる。

「行き先は」

「あらぁ? そういえば、聞き忘れたわね」

 のんびりと「まぁ、そのうち戻ってくるわよ。 うふふ」っと笑う彼女が憎たらしい。

 マルクは少しふて腐れながら口に食事を運ぶ。

「お兄さん方が食べでるやつも、昨日あの子が採ってきてくれたモロック草を使ってるのよ? どう、美味しいでしょう?」

「ああ」

 ヴィクトールは女将の言葉に少しだけ反応を示し、心なしか先程よりじっくりと味わって食べている。

「なぁ、ヴィクトール。 これ普通にギルドでそれっぽいやつ炙り出した方が早くないか? なんせ俺同等かそれ以上だろ、数が限られてるならある程度予測出来るだろ」

「…………アンタら、S持ちか」

 奥からずっしりとした体格の男が俺らの前にそびえ立つ。

 俺もヴィクトールもデカイが、こいつも中々デケェな。

 だが、この女将さんの言葉ですごく気分の下がってる俺はその言葉に反応することもなく視線だけで続きを促した。

「…………S持ちがなぜ、坊を探す」

「あ? アンタに関係あんのかよ」

 マルクは少し苛立たしげに言うと、普段は無口で必要以上に話しをするタイプではないネテオが、この時ばかりは堂々と述べた。

「…………俺が坊の父親だからだ」

「ブーーーーーーッッッ ゴホッゴホッ ア"ァッ!?!? んっだって!!?!?」

「あら、あなた気が早いわよ? あの子が石を持ってこないとまだ完全な親子にはなれないわ」

「なに?」

 そこでピクリと反応を示したヴィクトールは宿の亭主夫妻の様子を伺う。

 普通獣人同士の番が血の繋がり以外で養子を組むことは滅多にない。

 あったとしてもそれはとてもイレギュラーで、子どもに何かしら特別能力に優れていて家に利益があると判断した貴族が養子縁組をするか、女児の場合は良い胎にるよう教育を施される。

 そのまま貴族の子女として迎え入れられるか、一般家庭に嫁ぐか、または春を売る職に就くことだろう。

 貴族でもない一般庶民がなんの意味もなしに養子を__それも、男児を迎え入れるなどあり得ない。

 なによりあの少年は外見は幼く見えたが、案外中身は成人を迎える年頃なのではないか?

 冒険者としての登録は何歳からでも出来るが、12歳以下だと仮登録で保護者又はギルトや国の預かりとなる。

 成人は18だが、あの少年は見た目だけなら精々13~15辺りがいいとこだろう。

 だが、あの落ち着きようや言葉の節々に伺える教育の良さだと高等教育を受けていても過言ではない様子だ。

「ふふふっ、名のある冒険者さんが不思議に思うのも無理はないわね。 でも、私たちは単純にあの子を我が子のように思えて仕方ないのよ……ね? あなた」

「………………あぁ、そうだな」





 食事を終え、ヴィクトールは静かに店を出ていく。俺も慌てて喉に押し込み、アイツの後を追った。

「なぁ、ヴィクトールどうするんだ? こんなの異例だらけだ……あの様子だとあのボンボン、他にもなにか持ってるぜ?」

 ヴィクトールは黙り込み、唸るように言葉を漏らした。

「各国のギルドと王に報告を」

 マルクは一瞬息を飲んだ。

 それは、つまり____





 元ガウル王国月食の騎士団の団長、現代騎士の異能でSSSランクの冒険者の一人ヴィクトール・ロペス・クヴェルグ__通称黒銀は、あの少年を我が国の国王引いては世界が求める謎に包まれた同じSSSランクの冒険者、ローイズ・ウィリアンと決定付け、大々的な捜索に拍車をかけるのであった____
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

邪悪な魔術師の成れの果て

きりか
BL
邪悪な魔術師を倒し、歓喜に打ち震える人々のなか、サシャの足元には戦地に似つかわしくない赤子が…。その赤子は、倒したハズの魔術師と同じ瞳。邪悪な魔術師(攻)と、育ての親となったサシャ(受)のお話。 すみません!エチシーンが苦手で逃げてしまいました。 それでもよかったら、お暇つぶしに読んでくださいませ。

嫌われ者の僕

みるきぃ
BL
学園イチの嫌われ者で、イジメにあっている佐藤あおい。気が弱くてネガティブな性格な上、容姿は瓶底眼鏡で地味。しかし本当の素顔は、幼なじみで人気者の新條ゆうが知っていて誰にも見せつけないようにしていた。学園生活で、あおいの健気な優しさに皆、惹かれていき…⁈ 学園イチの嫌われ者が総愛される話。 嫌われからの愛されです。ヤンデレ注意。 ※他サイトで書いていたものを修正してこちらで書いてます。

婚約破棄されたので暗殺される前に国を出ます。

なつめ猫
ファンタジー
公爵家令嬢のアリーシャは、我儘で傲慢な妹のアンネに婚約者であるカイル王太子を寝取られ学院卒業パーティの席で婚約破棄されてしまう。 そして失意の内に王都を去ったアリーシャは行方不明になってしまう。 そんなアリーシャをラッセル王国は、総力を挙げて捜索するが何の成果も得られずに頓挫してしまうのであった。 彼女――、アリーシャには王国の重鎮しか知らない才能があった。 それは、世界でも稀な大魔導士と、世界で唯一の聖女としての力が備わっていた事であった。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

嫌われ変異番の俺が幸せになるまで

深凪雪花
BL
 候爵令息フィルリート・ザエノスは、王太子から婚約破棄されたことをきっかけに前世(お花屋で働いていた椿山香介)としての記憶を思い出す。そしてそれが原因なのか、義兄ユージスの『運命の番』に変異してしまった。  即結婚することになるが、記憶を取り戻す前のフィルリートはユージスのことを散々見下していたため、ユージスからの好感度はマイナススタート。冷たくされるが、子どもが欲しいだけのフィルリートは気にせず自由気ままに過ごす。  しかし人格の代わったフィルリートをユージスは次第に溺愛するようになり……? ※★は性描写ありです。

拝啓、可愛い妹へ。お兄ちゃんはそれなりに元気です。

鳴き砂
BL
大国、モルダバイト帝国に属する北の地で新たな生命が誕生した。それはコハクの妹である。しかし、妹は「呪われた子」の証を宿して誕生した。妹を殺そうとする両親から逃れるために、コハクは妹を連れて家出を決心するも、コハクは父親によって妹とともに海へと投げ捨てられた。 「それにしても僕の妹は可愛いなあ〜!一生をかけて、お兄ちゃんが守ってあげるからね!」 コハクは、行く先々で妹を守るためにあれやこれやと処世術を学んでいくうちに、いつの間にか無自覚無敵なお兄ちゃんへとなっていた!しかし、その有能さは妹だけではなく六賢帝の一人と謳われるセレスタイン・モルダバイトをも巻き込む波乱への始まりとなり・・・・?! 冷酷無慈悲な賢帝(攻め)×妹至上主義な天然お兄ちゃん(受け)のすれ違いだらけの恋物語 前半、攻めはあまり登場しません。

【完結】体を代償に魔法の才能を得る俺は、無邪気で嫉妬深い妖精卿に執着されている

秘喰鳥(性癖:両片思い&すれ違いBL)
BL
【概要】 同類になれる存在を探していた、無邪気で嫉妬深い妖精種の魔法使い VS 自衛の為に魔法を覚える代償として、体を捧げることにした人間不信青年 \ファイ!/ ■作品傾向:ハピエン確約のすれ違い&性行為から始まる恋 ■性癖:異世界ファンタジーBL×種族差×魔力を言い訳にした性行為 虐げられた経験から自分の身を犠牲にしてでも力を欲していた受けが、自分の為に変わっていく攻めに絆される異世界BLです。 【詳しいあらすじ】 転生しても魔法の才能がなかったグレイシスは、成人した途端に保護施設から殺し合いと凌辱を強要された。 結果追い詰められた兄弟分に殺されそうになるが、同類になることを条件に妖精卿ヴァルネラに救われる。 しかし同類である妖精種になるには、性行為を介して魔力を高める必要があると知る。 強い魔法を求めるグレイシスは嫌々ながら了承し、寝台の上で手解きされる日々が始まった。 ※R-18,R-15の表記は大体でつけてます、全話R-18くらいの感じで読んでください。内容もざっくりです。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

処理中です...