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11話 行き先は
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その坊主は突然この店にやって来た。
「ここで働かせて貰えませんか?」
ここは貿易の町パウテ、貿易商の中でも一二を争う幅広い物を取り扱い、平民はもちろんギルドや太客のお貴族様や王族との関わりもある。
金勘定の出来ねぇガキなんぞ御免だと追っ払おうとすると、なおも食いついてきた。
「数ヶ月__いや数日でもいいんです、働かせてください」
「おいおい、幾らいいとこの坊っちゃんでも実際に働くとなりゃあそんじょそこらのお勉強とは違うんだよ! 他をあたりな」
「では、試しに私にここで取り扱う商品の勘定をさせてください 万に一つでも間違えたら諦めます、お手間をお掛けしますがよろしくお願いします」
そのガキンチョの心意気だけは褒めるに値するもので、ならばそこまで言うならとわざと商人でも難しい計算や販売のいろはの基礎をやらせてみた。
それをあのガキはものともせずに、一つ残らずそつなくこなして見せやがった!
あれは俺でもド肝を抜かれたね。
あれだけ出来る商人なんざ、俺たち歴戦のプロですら早々いねぇ。
「……生意気なんだよ、クソガキ」
しばらく前に旅立ったあのガキをふと思い出し、悪態の中に混じる隠れた本音を閉ざして次の客の元へと向かった__
######
「__はぁ!!? 今朝旅立った!!?!」
マルク達は駆ける酒場亭を出るや否や、街の宿屋に次々と足を運び昨日出会った少年の情報を聞き込みに行った。
昼を過ぎ、昼食を取りながら4件目の宿__囁く切り株亭の女将に声を張り上げた。
ニコニコと人の良い笑顔を向ける女将に行き場のない憤りを感じるが、流石に理不尽なので感情を押し込んだ。
すると、いままでずっと黙りだったヴィクトールが話しに加わる。
「行き先は」
「あらぁ? そういえば、聞き忘れたわね」
のんびりと「まぁ、そのうち戻ってくるわよ。 うふふ」っと笑う彼女が憎たらしい。
マルクは少しふて腐れながら口に食事を運ぶ。
「お兄さん方が食べでるやつも、昨日あの子が採ってきてくれたモロック草を使ってるのよ? どう、美味しいでしょう?」
「ああ」
ヴィクトールは女将の言葉に少しだけ反応を示し、心なしか先程よりじっくりと味わって食べている。
「なぁ、ヴィクトール。 これ普通にギルドでそれっぽいやつ炙り出した方が早くないか? なんせ俺同等かそれ以上だろ、数が限られてるならある程度予測出来るだろ」
「…………アンタら、S持ちか」
奥からずっしりとした体格の男が俺らの前にそびえ立つ。
俺もヴィクトールもデカイが、こいつも中々デケェな。
だが、この女将さんの言葉ですごく気分の下がってる俺はその言葉に反応することもなく視線だけで続きを促した。
「…………S持ちがなぜ、坊を探す」
「あ? アンタに関係あんのかよ」
マルクは少し苛立たしげに言うと、普段は無口で必要以上に話しをするタイプではないネテオが、この時ばかりは堂々と述べた。
「…………俺が坊の父親だからだ」
「ブーーーーーーッッッ ゴホッゴホッ ア"ァッ!?!? んっだって!!?!?」
「あら、あなた気が早いわよ? あの子が石を持ってこないとまだ完全な親子にはなれないわ」
「なに?」
そこでピクリと反応を示したヴィクトールは宿の亭主夫妻の様子を伺う。
普通獣人同士の番が血の繋がり以外で養子を組むことは滅多にない。
あったとしてもそれはとてもイレギュラーで、子どもに何かしら特別能力に優れていて家に利益があると判断した貴族が養子縁組をするか、女児の場合は良い胎にるよう教育を施される。
そのまま貴族の子女として迎え入れられるか、一般家庭に嫁ぐか、または春を売る職に就くことだろう。
貴族でもない一般庶民がなんの意味もなしに養子を__それも、男児を迎え入れるなどあり得ない。
なによりあの少年は外見は幼く見えたが、案外中身は成人を迎える年頃なのではないか?
冒険者としての登録は何歳からでも出来るが、12歳以下だと仮登録で保護者又はギルトや国の預かりとなる。
成人は18だが、あの少年は見た目だけなら精々13~15辺りがいいとこだろう。
だが、あの落ち着きようや言葉の節々に伺える教育の良さだと高等教育を受けていても過言ではない様子だ。
「ふふふっ、名のある冒険者さんが不思議に思うのも無理はないわね。 でも、私たちは単純にあの子を我が子のように思えて仕方ないのよ……ね? あなた」
「………………あぁ、そうだな」
食事を終え、ヴィクトールは静かに店を出ていく。俺も慌てて喉に押し込み、アイツの後を追った。
「なぁ、ヴィクトールどうするんだ? こんなの異例だらけだ……あの様子だとあのボンボン、他にもなにか持ってるぜ?」
ヴィクトールは黙り込み、唸るように言葉を漏らした。
「各国のギルドと王に報告を」
マルクは一瞬息を飲んだ。
それは、つまり____
元ガウル王国月食の騎士団の団長、現代騎士の異能でSSSランクの冒険者の一人ヴィクトール・ロペス・クヴェルグ__通称黒銀は、あの少年を我が国の国王引いては世界が求める謎に包まれた同じSSSランクの冒険者、ローイズ・ウィリアンと決定付け、大々的な捜索に拍車をかけるのであった____
「ここで働かせて貰えませんか?」
ここは貿易の町パウテ、貿易商の中でも一二を争う幅広い物を取り扱い、平民はもちろんギルドや太客のお貴族様や王族との関わりもある。
金勘定の出来ねぇガキなんぞ御免だと追っ払おうとすると、なおも食いついてきた。
「数ヶ月__いや数日でもいいんです、働かせてください」
「おいおい、幾らいいとこの坊っちゃんでも実際に働くとなりゃあそんじょそこらのお勉強とは違うんだよ! 他をあたりな」
「では、試しに私にここで取り扱う商品の勘定をさせてください 万に一つでも間違えたら諦めます、お手間をお掛けしますがよろしくお願いします」
そのガキンチョの心意気だけは褒めるに値するもので、ならばそこまで言うならとわざと商人でも難しい計算や販売のいろはの基礎をやらせてみた。
それをあのガキはものともせずに、一つ残らずそつなくこなして見せやがった!
あれは俺でもド肝を抜かれたね。
あれだけ出来る商人なんざ、俺たち歴戦のプロですら早々いねぇ。
「……生意気なんだよ、クソガキ」
しばらく前に旅立ったあのガキをふと思い出し、悪態の中に混じる隠れた本音を閉ざして次の客の元へと向かった__
######
「__はぁ!!? 今朝旅立った!!?!」
マルク達は駆ける酒場亭を出るや否や、街の宿屋に次々と足を運び昨日出会った少年の情報を聞き込みに行った。
昼を過ぎ、昼食を取りながら4件目の宿__囁く切り株亭の女将に声を張り上げた。
ニコニコと人の良い笑顔を向ける女将に行き場のない憤りを感じるが、流石に理不尽なので感情を押し込んだ。
すると、いままでずっと黙りだったヴィクトールが話しに加わる。
「行き先は」
「あらぁ? そういえば、聞き忘れたわね」
のんびりと「まぁ、そのうち戻ってくるわよ。 うふふ」っと笑う彼女が憎たらしい。
マルクは少しふて腐れながら口に食事を運ぶ。
「お兄さん方が食べでるやつも、昨日あの子が採ってきてくれたモロック草を使ってるのよ? どう、美味しいでしょう?」
「ああ」
ヴィクトールは女将の言葉に少しだけ反応を示し、心なしか先程よりじっくりと味わって食べている。
「なぁ、ヴィクトール。 これ普通にギルドでそれっぽいやつ炙り出した方が早くないか? なんせ俺同等かそれ以上だろ、数が限られてるならある程度予測出来るだろ」
「…………アンタら、S持ちか」
奥からずっしりとした体格の男が俺らの前にそびえ立つ。
俺もヴィクトールもデカイが、こいつも中々デケェな。
だが、この女将さんの言葉ですごく気分の下がってる俺はその言葉に反応することもなく視線だけで続きを促した。
「…………S持ちがなぜ、坊を探す」
「あ? アンタに関係あんのかよ」
マルクは少し苛立たしげに言うと、普段は無口で必要以上に話しをするタイプではないネテオが、この時ばかりは堂々と述べた。
「…………俺が坊の父親だからだ」
「ブーーーーーーッッッ ゴホッゴホッ ア"ァッ!?!? んっだって!!?!?」
「あら、あなた気が早いわよ? あの子が石を持ってこないとまだ完全な親子にはなれないわ」
「なに?」
そこでピクリと反応を示したヴィクトールは宿の亭主夫妻の様子を伺う。
普通獣人同士の番が血の繋がり以外で養子を組むことは滅多にない。
あったとしてもそれはとてもイレギュラーで、子どもに何かしら特別能力に優れていて家に利益があると判断した貴族が養子縁組をするか、女児の場合は良い胎にるよう教育を施される。
そのまま貴族の子女として迎え入れられるか、一般家庭に嫁ぐか、または春を売る職に就くことだろう。
貴族でもない一般庶民がなんの意味もなしに養子を__それも、男児を迎え入れるなどあり得ない。
なによりあの少年は外見は幼く見えたが、案外中身は成人を迎える年頃なのではないか?
冒険者としての登録は何歳からでも出来るが、12歳以下だと仮登録で保護者又はギルトや国の預かりとなる。
成人は18だが、あの少年は見た目だけなら精々13~15辺りがいいとこだろう。
だが、あの落ち着きようや言葉の節々に伺える教育の良さだと高等教育を受けていても過言ではない様子だ。
「ふふふっ、名のある冒険者さんが不思議に思うのも無理はないわね。 でも、私たちは単純にあの子を我が子のように思えて仕方ないのよ……ね? あなた」
「………………あぁ、そうだな」
食事を終え、ヴィクトールは静かに店を出ていく。俺も慌てて喉に押し込み、アイツの後を追った。
「なぁ、ヴィクトールどうするんだ? こんなの異例だらけだ……あの様子だとあのボンボン、他にもなにか持ってるぜ?」
ヴィクトールは黙り込み、唸るように言葉を漏らした。
「各国のギルドと王に報告を」
マルクは一瞬息を飲んだ。
それは、つまり____
元ガウル王国月食の騎士団の団長、現代騎士の異能でSSSランクの冒険者の一人ヴィクトール・ロペス・クヴェルグ__通称黒銀は、あの少年を我が国の国王引いては世界が求める謎に包まれた同じSSSランクの冒険者、ローイズ・ウィリアンと決定付け、大々的な捜索に拍車をかけるのであった____
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