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 アンリは憂鬱な朝を迎えた。
 兄のアルフレッドから、この討伐軍に調査団を派遣すると聞かされた、その日が来てしまったからだ。

「……我々は別にやましいことなど」

 誰に聞かせるでもなくぶつぶつとアンリは呟きながら、踵をコツコツ床に打ち付けていた。そんな状態なものだから、扉を叩かれたことに気づかず、彼は呼びに来た下士官をしばらく廊下に待たせることになった。

「皆様、本営の会議室にお集まりになっております。お急ぎを」
「分かってる!」

 イライラしながら、アンリは会議室へと向かった。

「お待たせいたしました」
「アンリ殿下、お久しぶりです」

 調査団の代表として挨拶したのはボールドウィン教授だった。

「この所の迷宮ダンジョンの異変についての調査をさせていただきます」

 ボールドウィンの横には助手が二人。そしてエヴァンズ男爵。そしてその横にはリアムとイサイアスが並んでいる。

「ご紹介しましょう。うちの臨時職員です」

 ボールドウィンは打ち合わせ通りにアンリにリアムたちを紹介したのだが、リアムは胃をキリキリさせて顔をあげた。
 確かに目の前にアンリがいる。しかめっ面をして、少し……痩せたようにも思える。

「お久しぶりです」

 リアムは本当にどんな顔をしていいか分からないと思いながら、アンリに声をかけた。

「ああ」

 返事はそれだけだった。
 期待はするまい、と思っていたけれど、謝罪の一言も無かったことにリアムは落胆している自分に気づいた。

「それだけですか、殿下。他に何か言うことがあるのでは」

 思わず険のある声が口をついて出た。
 そうなるともう、押さえようと思っていた気持ちが堰を切ったようにあふれ出す。

「あんたは僕の言うことを全く聞こうとしなかった。おかげで死にかけたよ! 残念だったね、僕は今こうして生きてる」
「……」

 アンリは黙ったまま俯いた。弁明すらしないその姿は何もかもから逃げているようで、情けなかった。
 リアムは一時とは言え、なぜこんな奴が好きだったのだろうと、心の内が急激に冷えていくのを感じた。

「リアム、とりあえずそこまでだ」

 イサイアスがリアムの手を握りながらそっと耳元に囁いた。

「……ごめん」

 落ち着きを取り戻したリアムは一歩奥に引っ込んだ。
 それを見届け、ボールドウィンは調査団についてアンリに報告し始める。

迷宮ダンジョン入り口付近での活動になりますので、護衛がわりでもあります。この二人の功績はアンリ殿下もご存じでしょう」

 そんなボールドウィンの説明を、リアムは早く終わらないかな、と聞いていた。
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