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この世界には瘴気という厄介なものがある。魔力の根源だという学者はいるが、本当のところはわからない。わかっているのはある日突然拭きだして瘴気だまりを作るということ。
そしてその瘴気だまりが大きなものになると、迷宮を生み出すのだ。その迷宮からは魔物が湧き出す。
このルベルニア国は迷宮が発生しやすい土地柄で、常にこの厄災と戦い続けていた。
***
リアムはふくれっ面で軍の宿営地を早足で歩いていた。黒っぽい鎧の兵士の中を突き進む白い法衣と、宝石のような緑の瞳、腰まで長いさらさらとした赤い髪に誰もが目を奪われる。
ここは第一級大規模迷宮の討伐軍の戦う戦場である。リアムはそこに派遣された回復魔法要員の長、『神子』であった。
「また前線にいったのか、リアム」
「ごめんなさい、でも負傷者が多数と聞いたから」
「本来なら『神子』が易々と姿を見せることもよくないとされているのに……はあ、しかたないな」
一際大きい本営の建物内であきれたように言うのはこの国、ルベルニア王国の第三王子アンリだ。
「人の命には変えられないよ」
「そう言うと思ったよ。だが、君の命も心配なんだ。わかってくれ」
アンリはそう言って、リアムの手を握った。
「あっ……ちょっと……」
「なんだ。もう婚約したというのに」
「そうなんですけど、その……まだ慣れないというか……」
リアムとアンリは先日、婚約を結んだばかりだ。神子と王室の婚姻は政治的な意味が強かったが、リアムはそんなこととは関係なくアンリに好意を抱いていた。
ただ、急に手を握られたりしてしまうとどうしても照れてしまうのだ。
「そういうところも心配だ」
アンリはそう言ってリアムの手を放した。とりあえずこれでお説教はお仕舞いらしい。
「今度から気をつける」
「ああ、頼む」
リアムはそう言って宿舎を出た。こんな風に叱られるのはいつものことだ。アンリも、どんなに言われてもリアムが前線に飛び出してしまうことを知っている。
そんな性格と見事な赤い髪のせいでリアムについたあだ名は「紅蓮の神子」だ。
この迷宮討伐にひたむきに向き合うアンリの横をリアムは一緒に走って行きたかった。
孤児から神子へと上り詰めたリアムは、アンリをはじめとした自分を必要としてくれる者の役に立ちたいという気持ちは人一倍強かった。
そしてその瘴気だまりが大きなものになると、迷宮を生み出すのだ。その迷宮からは魔物が湧き出す。
このルベルニア国は迷宮が発生しやすい土地柄で、常にこの厄災と戦い続けていた。
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リアムはふくれっ面で軍の宿営地を早足で歩いていた。黒っぽい鎧の兵士の中を突き進む白い法衣と、宝石のような緑の瞳、腰まで長いさらさらとした赤い髪に誰もが目を奪われる。
ここは第一級大規模迷宮の討伐軍の戦う戦場である。リアムはそこに派遣された回復魔法要員の長、『神子』であった。
「また前線にいったのか、リアム」
「ごめんなさい、でも負傷者が多数と聞いたから」
「本来なら『神子』が易々と姿を見せることもよくないとされているのに……はあ、しかたないな」
一際大きい本営の建物内であきれたように言うのはこの国、ルベルニア王国の第三王子アンリだ。
「人の命には変えられないよ」
「そう言うと思ったよ。だが、君の命も心配なんだ。わかってくれ」
アンリはそう言って、リアムの手を握った。
「あっ……ちょっと……」
「なんだ。もう婚約したというのに」
「そうなんですけど、その……まだ慣れないというか……」
リアムとアンリは先日、婚約を結んだばかりだ。神子と王室の婚姻は政治的な意味が強かったが、リアムはそんなこととは関係なくアンリに好意を抱いていた。
ただ、急に手を握られたりしてしまうとどうしても照れてしまうのだ。
「そういうところも心配だ」
アンリはそう言ってリアムの手を放した。とりあえずこれでお説教はお仕舞いらしい。
「今度から気をつける」
「ああ、頼む」
リアムはそう言って宿舎を出た。こんな風に叱られるのはいつものことだ。アンリも、どんなに言われてもリアムが前線に飛び出してしまうことを知っている。
そんな性格と見事な赤い髪のせいでリアムについたあだ名は「紅蓮の神子」だ。
この迷宮討伐にひたむきに向き合うアンリの横をリアムは一緒に走って行きたかった。
孤児から神子へと上り詰めたリアムは、アンリをはじめとした自分を必要としてくれる者の役に立ちたいという気持ちは人一倍強かった。
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