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17話 人間の翼

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「失礼します。例の職人を連れてきました」
「ああ……。おやおや可愛らしい子じゃないか!」

 そこには立派なヒゲを蓄えたもじゃもじゃ頭の中年男性が座っていた。その肩には鷹が止まっている。

「どうもこんにちは。マイアと申します」
「どうも。私はオーヴィル・ハントと申します」

 マイアは肩すかしを食らった。確かにもっさりした風貌は人を近づけがたい感じではあったがレイモンドの言うほど変な人ではないとマイアは感じた。

「それで……ご依頼とはなんでしょう?」
「ああ。私は空を飛びたいんだ」
「空……ですか。それなら魔法使いを雇えば……」

 マイアには人を連れて飛ぶほどの能力は無かったが、それを得意として届け物をしたりしている魔法使いだって居る。

「それもやってみたけど違うんだ。自分で空中の風を感じたい。……なぜなら私の最終目標は魔法を使わずに・・・・・・・空を飛ぶことなんだから」
「魔法を使わずに?」

 マイアはレイモンドをちらりと見た。レイモンドは渋い顔をしている。ここではじめてマイアは目の前の人物はやはりちょっと変わった人だと気付いた。

「ピイーッ」
「こいつはミカ。私の相棒だ。こいつと一緒に飛ぶのが私の夢なんだ」
「へえ……」

 厳つい見た目とは裏腹に可愛らしい鳴き声をあげたミカという鷹。よく見れば目もつぶらで愛らしい。オーヴィルに撫でられると気持ち良さそうに目を細めている。

「あの、でも……魔法がいらないのなら私の出番じゃないのでは?」

 さすがにマイアも魔石の力なしで道具は作れない。

「ああ、それがね……作って欲しいのは動力源だけなんだ」
「はあ?」
「空を飛ぶ機械の試作品は出来ているんだ。だけど動力源の開発が上手く行かない。機体だけでも完璧に先に仕上げたくてね」
「……すごいですね」

 マイアはきょとんとして目の前のオーヴィルを見つめた。するとオーヴィルはもしゃもしゃ頭をぼりぼり掻いた。

「……レイモンド、説明してなかったのか。マイアさん、私は街の技師。木工から金属加工までお手の物の道具屋さ」
「道具屋さん……?」

 するとそれまで様子を見ていたレイモンドが口を開いた。

「つまりマイアさんと同じ商売になりますね」
「おいおい、ちょっと違うだろ」

 オーヴィルはレイモンドの肩を叩いた。レイモンドはそれにも動じず言葉を続けた。

「それにしたってね。前に進むだけの道具を作れってのもね。マイアさん断っていいんですよ」
「前に……進むだけ?」
「ああ! このミカの動きを観察して空飛ぶ機械を作ったんだ。ミカは魔法で浮かんで飛んだりしない」
「はあ……」
「マイアさんを便利に使おうとしないでください。空が飛びたかったらそれ用の魔道具を作れるんですよ」

 マイアの魔道具の希少性を高めたいレイモンドとしてはマイアの技術のいいところだけ使いたいオーヴィルの態度が気に入らないみたいだった。

「ま、マイアさん次第ですけど……」
「うーん……」

 マイアはしばし考えた。考えた末に好奇心が勝った。

「私……見て見たいです。魔法を使わずに空を飛ぶ機械を」
「まだ試作品でよければ」

 オーヴィルは手を開いて歓迎の意を示した。それを見たミカが甲高く鳴いた。



「ここが私の研究所ラボです!」
「ピイーッ!」

 マイアは町外れの木製の倉庫に連れて来られた。オーヴィルがその扉を開けると、木枠を加工して組み合わせた羽根が両側についた筒のようなものがあった。

「鳥……みたいですね」
「ああ。結局この形に落ち着いた。自然は偉大だ」

 オーヴィルはミカの頭を撫でて自慢げに笑った。

「これが小型模型だ。見ててご覧」

 大きく手を振りかぶって、オーヴィルが模型を投げた。すると弧を描いてゆっくりとその模型が倉庫内を飛んだ。マイアはふわっと足元に落ちた模型を拾い上げた。

「すごい……飛びましたね」
「ミカの飛び方を見て思いついたんだ。本当は前進する動力の開発も成功させたかったんだが……」
「本当に飛ぶのか早く見たい、ですか?」
「その通りだ!」

 オーヴィルは手を叩いて喜んだ。そしてその後すぐ、少し申し訳なさそうに付け足した。

「……この機械が出来たら、魔法使いの仕事が減ってしまう。それでもいいだろうか」

 マイアはすぐにそれには答えられなかった。ちょっとの間考えて慎重に自分の考えを述べる。

「魔法使いの数は限られています。飛行の魔法に特化した魔法使いならもっと少ないです。それよりこれで遠くに行けたり荷物を運べたりしたら……みんなの生活はもっと便利になると思います」
「ふむ……」
「これは私の師匠の言葉なのですが……魔法使いはたまたま魔力を持った人間だと。だから……魔力を持たない人間の知恵を否定するものではないって。私もそう思います。それで仕事を失う魔法使いはもっと工夫をするべきです」
「そうか、よい師匠をお持ちだ」
「ええ……」

 マイアは自分が褒められた訳でもないのに妙に気恥ずかしくなった。

「では、この大きさのものを飛ばせるくらいの推進力を持つ魔道具を作ればいいんですね」
「ああ。ここに全長と重さが書いてある」
「ありがとうございます」

 そうしてマイアは技術士オーヴィルの夢の一旦に手助けする事になったのだった。
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