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3話 ひらめき
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「うーん!」
マイアは早起きだ。まだ日が昇りはじめた頃に起きてストーブに魔法で火を入れてからオーブンを温める。街で買って来てもいいのだが、人嫌いのアシュレイの為に朝一でパンを焼くのがマイアの習慣だった。そうでないとアシュレイは日が経ったカチカチのパンでも平気で食べてしまう。
「ありがとう」
「ここここ!」
粉をはたいている横で丸くてちんまりしたかわいらしいゴーレムがパン種を持ってきてくれた。混ぜ合わせたら発酵と整形はゴーレムがやってくれる。
その間にスープを作り、ベーコンを切り、あとは卵を焼くだけ。そうしたらストーブに置いたケトルの湯でお茶を淹れてしばしの休憩。
「ふう……」
普通の家にはゴーレムはいないからもっと大変なはずだ。彼らには随分助けて貰っている。ただ、ゴーレムは動きが単調なのだ。だから細々とした事はみんなマイアがやっていた。
マイアが来る前、この家はひどかった。ゴーレムには快不快の判断は出来ない。命じられた事をこなすのみ。だけどアシュレイは色々とほったらかしにするものだから家の中はごちゃごちゃでほこりっぽかった。
「それを少しずつ綺麗にしていったのに。ああーっどうしよう」
アシュレイから出された仕事を見つけるという課題はまだとんと見当がつかなかった。
「……おはよう」
寝癖をつけたままでアシュレイは起きてきた。
「卵は?」
「両面を良く焼いてくれ」
「はーい」
マイアは自分の分はいつも通り半熟に、日替わりで気分を変えるアシュレイの卵は両面を焼いた。それに焼きたてのパンを添えて食卓に出す。
「おいしいですか、アシュレイさん」
「……うん」
アシュレイは朝一番はこんな感じでぼんやりとしている。昨日、夜更かしでもしたのか今日は特にぼーっとしている。
「……」
マイアも何か考えが浮かばないかと思いを巡らせていたため、沈黙のままに朝食は終わった。食べ終わるとゴーレム達が食器を片付けてくれる。これで洗濯をしたらいつもなら魔法の教練の時間なのだが、昨日はアシュレイは部屋に籠もって何もなかった。
「アシュレイさん、魔法の練習は今日も無しですか?」
「ああ、もうマイアに教えることはない」
「そうですか……」
マイアはとぼとぼ洗濯を片付けた。風にはためく服やシーツ。それを眺めながらマイアはため息をつく。
「はーっ」
『これはまた大きなため息だ』
「うわっ?」
『やあ』
振り向くとそこにはカイルが立っていた。再びカイルが現れるなんて思って無かったマイアは驚いた。カイルはにこにこしている。耳や尻尾も揺れている。
「まあ、どうしたの? まだ具合悪い?」
『いいや。この通り元気だ。昨日の礼が少々粗末だったと思ってな』
「そんなことないですよ」
『まぁそう言わずに。これを』
カイルはマイアに魔石をごろごろと渡すとにこりと笑った。
『マイア、昨日はこれで喜んでいたから……沢山持って来た』
「なんで私の名前……」
『精霊だから、魂に刻まれた名前が分かる』
「……へぇ」
マイアは精霊の生態までは詳しくない。アシュレイならきっと分かったとは思うが。
「でも……いいの。気持ちはうれしいわ。ありがとう」
『いいから取っておけ』
「うん……」
カイルはマイアに魔石を押しつけると、来た時と同様にまたふっと消えた。
「……また貰っちゃった」
マイアはとりあえず自室にそれを持って行った。マイアの部屋は師匠のアシュレイの部屋をは違って整頓されている。机の上には教本と作りかけのレース編みなどの趣味の手芸用品がある程度だ。
その上にマイアは魔石を並べてじっくりと眺めた。見る限り、風・水・火・地の魔石がそれぞれ揃っている。
「でもいくら沢山魔石があってもアシュレイさんは認めてくれないだろうな」
魔石はその名の通り魔力の籠もった石。だから魔力のない者でも一時的に魔法を使う事ができるものだ。貴重なので主に護身用などに使われていた。だが欠点として魔力のコントロールが難しいので余裕のある者は魔術師を雇う方が一般的だ。
「ふーん……やっぱり大きい方が魔力が高いのね」
マイアはコツン、と魔石を魔力計に乗せてみた。これはアシュレイの作ったもので、マイアは駆け出しの頃はこの魔力計で自分の魔力を把握していたものだ。
「あら、そうとも言えないかも。こっちのは少し小さいけど魔力量が多い。どう違うの?」
弟子というものは師匠に似るのか。マイアは身を乗り出し、ルーペを手に魔石を覗き混んだ。その時である。
「あっ……」
机の上の魔石がころころと転がっていく。それはマイアが作りかけのゴーレムの腕の空洞の中に入ってしまった。このゴーレムはこの家の膝ぐらいまでしかないちんちくりんのゴーレムじゃなくてもっとかっこいいのを作ろうと思って作りはじめたのだが、動作の割に操作がめんどくさいという欠点が分かってそのままにしていたものだ。
「ああ、奥に入っちゃった」
マイアが腕を逆さにして取りだそうとゴーレムの腕を掴んだ時である。指をかさかさと足のように動かしてゴーレムが動いた。
「わっ、動いた!?」
無駄にリアルに作ったせいでちょっと怖い。マイアはそっとゴーレムの腕を摘まんで傾けて魔石を取り出した。するとかさかさと動いていた指がようやく止まった。
「私、今魔法使ってないわよ?」
マイアはゴーレムの腕の中を覗き混んだ。中程には魔力制御用の魔法陣を彫り込んである。
「もしかしてここにたまたま……?」
さっき取り出した魔石をマイアはそっとその魔法陣に置いてみた。
「やっぱり……」
また動き出したゴーレムの指。マイアはゴクリと息を呑んだ。
「これって魔石の力で動いたってことよね。……ちょっとすごくない……?」
その時である。マイアの頭の中にひらめきが降って湧いた。
「よし……」
マイアはおもむろに道具箱のネジ回しを取り出すと、熱心にゴーレムを分解しはじめた。
マイアは早起きだ。まだ日が昇りはじめた頃に起きてストーブに魔法で火を入れてからオーブンを温める。街で買って来てもいいのだが、人嫌いのアシュレイの為に朝一でパンを焼くのがマイアの習慣だった。そうでないとアシュレイは日が経ったカチカチのパンでも平気で食べてしまう。
「ありがとう」
「ここここ!」
粉をはたいている横で丸くてちんまりしたかわいらしいゴーレムがパン種を持ってきてくれた。混ぜ合わせたら発酵と整形はゴーレムがやってくれる。
その間にスープを作り、ベーコンを切り、あとは卵を焼くだけ。そうしたらストーブに置いたケトルの湯でお茶を淹れてしばしの休憩。
「ふう……」
普通の家にはゴーレムはいないからもっと大変なはずだ。彼らには随分助けて貰っている。ただ、ゴーレムは動きが単調なのだ。だから細々とした事はみんなマイアがやっていた。
マイアが来る前、この家はひどかった。ゴーレムには快不快の判断は出来ない。命じられた事をこなすのみ。だけどアシュレイは色々とほったらかしにするものだから家の中はごちゃごちゃでほこりっぽかった。
「それを少しずつ綺麗にしていったのに。ああーっどうしよう」
アシュレイから出された仕事を見つけるという課題はまだとんと見当がつかなかった。
「……おはよう」
寝癖をつけたままでアシュレイは起きてきた。
「卵は?」
「両面を良く焼いてくれ」
「はーい」
マイアは自分の分はいつも通り半熟に、日替わりで気分を変えるアシュレイの卵は両面を焼いた。それに焼きたてのパンを添えて食卓に出す。
「おいしいですか、アシュレイさん」
「……うん」
アシュレイは朝一番はこんな感じでぼんやりとしている。昨日、夜更かしでもしたのか今日は特にぼーっとしている。
「……」
マイアも何か考えが浮かばないかと思いを巡らせていたため、沈黙のままに朝食は終わった。食べ終わるとゴーレム達が食器を片付けてくれる。これで洗濯をしたらいつもなら魔法の教練の時間なのだが、昨日はアシュレイは部屋に籠もって何もなかった。
「アシュレイさん、魔法の練習は今日も無しですか?」
「ああ、もうマイアに教えることはない」
「そうですか……」
マイアはとぼとぼ洗濯を片付けた。風にはためく服やシーツ。それを眺めながらマイアはため息をつく。
「はーっ」
『これはまた大きなため息だ』
「うわっ?」
『やあ』
振り向くとそこにはカイルが立っていた。再びカイルが現れるなんて思って無かったマイアは驚いた。カイルはにこにこしている。耳や尻尾も揺れている。
「まあ、どうしたの? まだ具合悪い?」
『いいや。この通り元気だ。昨日の礼が少々粗末だったと思ってな』
「そんなことないですよ」
『まぁそう言わずに。これを』
カイルはマイアに魔石をごろごろと渡すとにこりと笑った。
『マイア、昨日はこれで喜んでいたから……沢山持って来た』
「なんで私の名前……」
『精霊だから、魂に刻まれた名前が分かる』
「……へぇ」
マイアは精霊の生態までは詳しくない。アシュレイならきっと分かったとは思うが。
「でも……いいの。気持ちはうれしいわ。ありがとう」
『いいから取っておけ』
「うん……」
カイルはマイアに魔石を押しつけると、来た時と同様にまたふっと消えた。
「……また貰っちゃった」
マイアはとりあえず自室にそれを持って行った。マイアの部屋は師匠のアシュレイの部屋をは違って整頓されている。机の上には教本と作りかけのレース編みなどの趣味の手芸用品がある程度だ。
その上にマイアは魔石を並べてじっくりと眺めた。見る限り、風・水・火・地の魔石がそれぞれ揃っている。
「でもいくら沢山魔石があってもアシュレイさんは認めてくれないだろうな」
魔石はその名の通り魔力の籠もった石。だから魔力のない者でも一時的に魔法を使う事ができるものだ。貴重なので主に護身用などに使われていた。だが欠点として魔力のコントロールが難しいので余裕のある者は魔術師を雇う方が一般的だ。
「ふーん……やっぱり大きい方が魔力が高いのね」
マイアはコツン、と魔石を魔力計に乗せてみた。これはアシュレイの作ったもので、マイアは駆け出しの頃はこの魔力計で自分の魔力を把握していたものだ。
「あら、そうとも言えないかも。こっちのは少し小さいけど魔力量が多い。どう違うの?」
弟子というものは師匠に似るのか。マイアは身を乗り出し、ルーペを手に魔石を覗き混んだ。その時である。
「あっ……」
机の上の魔石がころころと転がっていく。それはマイアが作りかけのゴーレムの腕の空洞の中に入ってしまった。このゴーレムはこの家の膝ぐらいまでしかないちんちくりんのゴーレムじゃなくてもっとかっこいいのを作ろうと思って作りはじめたのだが、動作の割に操作がめんどくさいという欠点が分かってそのままにしていたものだ。
「ああ、奥に入っちゃった」
マイアが腕を逆さにして取りだそうとゴーレムの腕を掴んだ時である。指をかさかさと足のように動かしてゴーレムが動いた。
「わっ、動いた!?」
無駄にリアルに作ったせいでちょっと怖い。マイアはそっとゴーレムの腕を摘まんで傾けて魔石を取り出した。するとかさかさと動いていた指がようやく止まった。
「私、今魔法使ってないわよ?」
マイアはゴーレムの腕の中を覗き混んだ。中程には魔力制御用の魔法陣を彫り込んである。
「もしかしてここにたまたま……?」
さっき取り出した魔石をマイアはそっとその魔法陣に置いてみた。
「やっぱり……」
また動き出したゴーレムの指。マイアはゴクリと息を呑んだ。
「これって魔石の力で動いたってことよね。……ちょっとすごくない……?」
その時である。マイアの頭の中にひらめきが降って湧いた。
「よし……」
マイアはおもむろに道具箱のネジ回しを取り出すと、熱心にゴーレムを分解しはじめた。
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