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「もう大丈夫だから……」

 長い長い口づけの後、ランはレクスを軽く押し返す。

「駄目だよ。パーティの主役が席をあけちゃ」
「しかし……」
「みんなレクスを見に来たんだ。オレは先に帰るから」

 ランがそう言うと、レクスはその両手をぎゅっと掴みながら首を振った。

「駄目だ。危ない」
「ロランドさんに付き添って貰うから」
「ロランドもアルファだ。ランを……誰にも触れさせたくない」

 最も信頼する腹心の部下さえもレクスは拒否した。それはアルファの本能がなす独占欲からなのだろうか。

「分かった……じゃあ控え室で待ってる」

 レクスの思い詰めた表情に、ランはそっと彼の手を握り返しながら答えた。

「そうか」
「わっ」

 レクスはランの答えを聞くや否や、ランを抱き上げてバルコニーから部屋に入った。何事かと、周囲の人々が二人を見ている。

「ちょっと……みんな見てるよっ」
「放って置け」

 レクスはそのまま控え室までランを抱いたまま向かい、ソファに下ろした。

「中から鍵をかけて待っていて」

 そう言ってレクスはランにキスをし、名残惜しい顔をして部屋を出ていった。
 ランは言われた通りに鍵をしっかり閉めると、ソファに腰掛けた。

「あんな顔見せられると、勘違いしそうになる」

 ランを必死に守ろうとするレクスの姿は、まるで自分がこの世で一番大切な宝物になったような気になってしまう。

「いずれちゃんとしたアルファの妃を……か」

 ランはあの男達の言葉をまた思い出した。わざわざ口にこそしないものの、会場の出席者の面々もそう思っているのだろう。
 その視線はレクスにもきっと向いている。

「はは……」

 それはランはちゃんとわかっていたはずだ。わかっていたのに、改めて目の前でそう言われると悲しくて悔しくて、ランはどうしていいかわからなくなる。

「こんなんじゃ、オレどうなっちゃうんだろう」

 いずれレクスがきちんとした伴侶を迎えた時、ランは耐えられるだろうか。もしかしたらルゥを手元に置くことすら許されないかもしれない。

「そんなことになったらオレ……」

 ランはそのことを思うと、ひどく重たい気持ちになって顔を覆った。

「……なんでオレはオメガなんだろう」

 あのまま性別のわからないままでいたら、レクスの友人として隣に居られた。もしもなんて考えても仕方がないけれど、ランはどうしてもそう考えてしまう。
 自分がいきなりオメガになったから、レクスは発情ヒートを起こした。あれがなければレクスを苦しめたりしなかったのに、と。

「でも、そうしたらルゥに会えなかった」

 自分の命よりも大切なルゥ。ランのかけがえのない愛おしい子を抱くこともなかったのだ。
 そう思うと、ランの胸の内にまた葛藤が生まれる。

「苦しい……」

 少し発情ヒートがキツくなってきたようだ。ランはクッションを抱えてソファに突っ伏した。
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