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「こちらです」

 ロランドに誘われ、ランは王城の中の教会へとたどり着いた。

「ママー、だっこ!」
「はいはい」

 ずっしりと重厚なその建物に見とれる間もなく、ルゥの声に振り回される。

「んー……」
「ルゥほら、お庭だよ」

 少しぐずり気味のルゥの気を反らせながら抱き上げる。子供の高い体温を感じながら、ゆらゆらとルゥを優しく揺すぶっていると、ランは視線を感じた。

「――ラン」
「レクス……」

 顔をあげると、同じく白い礼服に身を包んだレクスが立っていた。

「どうしたの」
「あ、いや……」

 レクスはもごもごと口ごもりながら俯いた。

(あれ、もしかして顔赤い……?)

 ランがその顔を覗き混もうとすると、レクスは手でそれを制した。

「中で司祭が待ってる。行こう」
「あ、うん」

 ランはルゥを抱いたまま、教会の中に入った。祈祷所の広い空間には静寂が満ちている。

「その……悪いな、招待客もいなくて」

 レクスの言葉に、ランは耳を疑った。勝手に結婚式を決めたレクスの台詞とは思えなかったからだ。

「いいよ、別にそんなの」

 だけどランはそう答えた。実際、父や兄弟を呼ばれても気まずいだけだし、と。

「大体、なんで結婚式なんて」
「このままだとルゥが私生児になるからだ」
「あ……」
「ルゥが私の息子であるという証に、この結婚は必要なんだ」

 そのレクスの返答に、ランはガツンと頭を叩かれた気がした。

「ごめん……オレ、自分のことばかり……」
「いいさ。これで大人しく儀式を受ける気になったか?」
「……うん」

 まさかレクスがルゥの身の上まで案じてくれているとは思わなかった。ランはじっと腕の中のルゥを見つめた。

「わかった」

 そう言って、ルゥを控えて居たロランドに手渡す。

「式……しよう」

 ランがうつむき気味にレクスの袖を引っ張ると、レクスはその手を自分の腕に組ませた。

「司祭の言うことに『はい』で答えろ。すぐに終わる」

 ランとレクスは腕を組み、祭壇の前の道を歩く。祭壇の上で待機していた司祭はこちらをじっと見ている。そしてランとレクスの名を呼んで、教典を広げた。

「いついかなるときも、愛し慈しみあうことを誓いますか」

 司祭にそう問いかけられてレクスは前を向く。

「はい、誓います」
「……はい」

 遅れてランも頷いた。空しい、と思った。レクスとランの間はそんな関係ではなかったから。
 それからレクスとランは聖水の入ったカップを互いに飲み交わして形ばかりの式は終わった。

「これでランは俺の……妻だ」
「ああ」

 レクスの言葉に、ランはぶっきらぼうに頷いた。

「気が済んだか?」
「いいや、まだだ」
「はぁ?」

 ランはレクスは一体なにを考えて居るんだと首を傾げた。すると、レクスはランを抱き上げた。

「うわっ……何!?」
「花嫁の義務を果たしてもらおう」
「……義務?」

 不安定な格好に、思わずレクスの肩にしがみつきつつ、ランは不可解な顔でレクスを見つめた。
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