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「ラン、レクスと話はできたの?」

 仕事から帰ってきたビィにそう聞かれ、ランは首をすくめた。

「話になんなかった。一方的に王城に来い、嫌ならルゥを取り上げるって」
「じゃあ……ランは王城に行くんだ」
「……うん」

 ランは俯き、唇を噛みしめた。

「オレは別にどこでなにしようと構わないけど……ルゥは本当なら王城で暮らしてたと思うと……」
「ラン……」
「オレじゃ、この生活じゃ上の学校にやることは難しい。この先ルゥの可能性を伸ばしてやれないかもって考えたら……。これも仕方ないのかなって」

 レクスの血をひいて探求心豊かに育ったとしても、生活に追われる今の状態ではルゥに満足な暮らしをさせられない。王城で暮らせばそんな心配はなくなる。

「僕もついていくよ」
「駄目だよビィ」

 ランは共についてこようとするビィをとめた。

「ビィはここに恋人がいるじゃないか……。これ以上巻き込めない。ビィの幸せを邪魔したくない」
「ラン……ごめん、僕役立たずで」
「ううん。今までビィが居てくれてどんなに救われたか」

 ランはビィの肩を掴んで首を振った。

「オレはルゥが側にいれば大丈夫だから」
「……本当に」
「ああ。それに別に監禁されるわけじゃないんだし。ビィに会いたくなったらいつでも飛んでいくよ。だから心配いらない」
「うん……」

 ビィは不安げな表情を顔に浮かべたまま、頷いた。

「ランがそう決めたのなら。僕は応援するよ」
「ありがと……」

 いつでも自分を気に掛けてくれる優しい友人をランは抱きしめた。

「きっと大丈夫。……なんとかなるさ」

 ランはそう、あの日から口癖になっている言葉を呟いた。



 それから忙しい仕事と育児の合間を縫ってランは荷造りをした。

「はは……ほとんどルゥのものだな」

 自分の親馬鹿ぶりに苦笑しながら、ランは箱にそれらを詰めていく。初めて買ったよだれかけに服、お気に入りだったおもちゃ……。
 ここでルゥを育んできた思い出の品々を手に取りながら、ランはため息をついた。

「荷物はこれで全部ですか」
「はい」

 そうこうしているうちに月末がやってきた。ランとルゥを迎えにきたのは知らない男だった。

「あの……レクスは」
「レクス様は公務でお忙しいので」
「あっ……そうですか」

 冷淡な態度の迎えの男はさっさと馬車に荷物を積むと、ランに乗るように促した。

「はじめに言っておきますが、逃げても無駄です。私もアルファですから」
「……はい」

 ランはその言い方に思わず顔をしかめた。アルファはその能力の高さから他のベータやオメガを見下す態度をとるものが多いが、この男はその典型といえる感じだ。

「ラン」

 この日は仕事も休みをとったビィが駆け寄って来る。

「ラン、元気でね」
「うん。落ち着いたら……手紙書くから」
「絶対だよ」

 手をふるビィに手を振り替えす。その間に馬車は鉄道の駅に向かって走り出した。
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