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 次の日、ランの熱は無事下がった。

「たいしたことなくて良かった」
「心配性すぎるよレクスは」
「だって、風邪を引いて死にかけたって言ってたから」
「それはボロ屋で寝泊まりしてたからこじらせたんだ」

 ランとレクスはいつものように朝食を取っていた。

「ま、とにかく良かった。まだ病み上がりなんだからいきなり無理するな」
「うん」

 他にもなにか言いたげなレクスに、ランは苦笑する。まるで子供にするように過保護なのは、ランが細くて華奢なせいもあるだろう。

「ロランドさんも今日一日はまだ大人しくしてろってさ」
「そうしてくれ。さ、そろそろ俺はいくから」
「うん、じゃあいってらっしゃい」
「ああ」

 レクスが出かけたのを見送って、ランはとりあえず自室に戻った。

「って言っても、することないな。散歩でもするか」

 ランは念の為上着を着て、庭に出た。秋の終わりの庭は花も少なくて少しもの悲しい。

「落ち葉が気になる」

 結局ランはほうきを片手に、中庭を掃除し始めた。

「ふう……キリ無いな」

 小一時間ほどそうしていたが、落ち葉はあとからあとから降り注いでくる。ある程度集めたところでランは手を止める。
 そこに、声をかける者がいた。アレンだ。

「やあ子猫ちゃん」
「その呼び方やめてください。オレはランです」
「ランね」
「何かレクスに用でも? 今出かけてますよ」

 ランはいつかと同じ様に唐突に現われたアレンに、そう答えた。

「いや、あいつに用はない。君が庭にいるのが見えたから声をかけただけだ」
「そうですか」
「どうだ、あいつに困らされてはいないか?」
「そ、そんなことはないです」

 強いて言えば過保護すぎて困るというくらいか。

「一体……何が言いたいのですか?」
「レクスはいつか良い家のアルファと番って、子を成すだろう。その時に君はきっと泣かされるだろうと思ってね」

 ランは唇をぎゅっと結んだ。わかってる、元からそうだとランにはわかっているのに改めて他人から指摘されるのは辛かった。

「残念ですが、オレとレクスはそういう関係じゃないので」
「そうなのかい?」
「ええ。オレ達は『友人』関係です」
「へぇ……」

 アレンはそう言うと、上から下に舐めるようにランを見た。

「ちょっと君の雰囲気が変わったように見えたからもしやと思ったのに」
「え……?」
「じゃあ、私の勘違いということか……」

 アレンはもったいぶった言い方をした。そうして動揺するランの反応を楽しんでいるように見える。
 ランはそんなアレンに苛立ちを覚えて、彼を睨み付けた。

「あんた、なんなんだ」
「……私はレクスと君が心配なだけだよ。じゃあね」

 アレンはへらへらした笑みを顔に貼り付けて、庭を立ち去った。

「……」

 ランは一人、庭に取り残されて俯く。

「そんなの言われなくてもわかってる……」

 このまま側にいればきっと傷つく時がくる。それでも、ランはレクスの側を離れがたかった。
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