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 袖をまくって、腰紐をウンと引っ張ってなんとか着替えたランは、手招きするレクスについてドアをくぐった。

「こ……これ……食べていいのか?」

 目の前にあらわれたご馳走を見て、ランはごくりとつばを飲み込んだ。

「ああ」

 パンにサラダにスープにステーキ、海老のグリル、鮭のムースに鶏ときのこのパスタ。食べきれないほどの豪勢な食事がテーブルに並んでいた。
 盛り付けもどれも芸術品のように綺麗で、ランは王都に来る前だってこんなのは食べたことがなかった。

「う……美味しい」
「そうか、良かった」

 行儀なんて無視してステーキにかぶりついたランは思わず唸った。柔らかく上質な牛肉の滋味が口内を駆け巡っていく。
 その様を見て、レクスは満足そうに頷くと、自分も一緒に食事を取りはじめた。

「ああ……美味しかった。もう無理……」

 ランは結局ありあまるご馳走を食べきれなかった。パンパンに張ったお腹を抱えて、ランはテーブルに寄りかかった。

「まだチーズとデザートもあるぞ」
「いや……入らないって……後で持って帰ってもいい?」

 こんな美味しいもの、独り占めはもったいない。きっと心配しているだろうし、ビィにも食べさせてやりたい。
 そう思って言ったのだが、その途端レクスの顔色が変わった。

「……帰るつもりなのか? あんなところに?」

 その言い方にランは少しカチンときた。

「あんなところでも俺の居場所はあそこなんだよ」

 汚くて治安も最悪でその日暮らしでも、王都でランを受け入れてくれたのはあそこだけだった。皆、なにかしら過去があるから詮索もしないし、それなりに居心地は良かったのだ。

「……すまん」

 ランの言葉にレクスは俯いてしまった。少しキツく言い過ぎてしまったかもしれない。

「いや……その、他に行き場所もないしさ」

 ランはそう付け足した。すると、レクスは顔をあげてこう言った。

「それなら、ここに居ればいい」
「……王城に? さっきから、なんで俺が王城にいなきゃいけないんだよ」
「……そうだよな」

 レクスはまたしょんぼりしてしまった。忙しいやつだな、とランは思いつつ、そうしていると子供の時の面影を感じる。

「レクス、どうしたんだ。なんで俺にここに居て欲しいんだ。訳があるんだろ?」
「……それは、心配だし」

 そう答えたレクスをランはじっと見つめた。

「そんな答えじゃ、俺は納得しないぞ」
「……しょうがないな……」

 ランの視線を受けて、レクスは立ち上がった。

「場所を移そう」

 そう言って、レクスは居間に食後のお茶を用意させた。
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