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59 空中の船上生活、復路
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「長いようで短い三ヶ月でしたね」
空飛ぶ船の甲板上で、アリシアがしみじみと言う。
ドラゴンの存在が国民全体に知れ渡っていたため、一日船で進んで海洋へ出ることなく、港から出てすぐドラゴンに船を運んでもらった。おかげで船酔いせずにすんだアリシアの機嫌は良かった。
「君はほとんど勉強していて、私はほとんど読書していただけの三ヶ月間でしたからね。振り返えった際に思い出せる記憶が単調なだと、結果的に時間が短く感じるのでしょう」
「楽しい時間だったから、あっという間に過ぎたんじゃないの」
私の理性的な分析を聞き流したヴァヴィリアが、茶々を入れてくる。彼女は三ヵ月前――王国の庭園でドラゴンを呼んだ日の翌日から、私がアリシアに対して抱いている特別な感情に気づいていたようで、その感情をアリシアに伝えるよう、言葉の端々で催促してくるのだ。
「そういう側面もあるかもね」
私とて、いつまでもアリシアに想いを伝えないつもりではない。が、今から約一ヵ月間は同じ船で生活するのだ。現状の人間関係に波風を立たせるような言動は慎むべきだろう。
「あれだけドラゴンと我々の存在が世間に知られたら、色々と面倒事に巻き込まれることが増えるんじゃないですか?」
ザリアードの言う懸念はもっともだ。三ヵ月あれば、中央の国の耳聡い連中はセントノイマに現れたドラゴンの噂を聞き、自分のビジネスに利用すべく虎視眈々と準備をしている可能性は充分にある。
「判断を下すのはウインスターズで噂の広まり方を確認してからだけど、しばらく大都市には近づかず、のんびりと世界観光をしようと思っているんだ。驚きも九日しか続かないというからね。一年くらい大都市圏での商売をやめれば、噂も収まるでしょう」
「商売こそが人生だってお前が、一年も商売をやらずにいられるのか?」
ハセークが疑問を口にする。
彼の言う私の信念は間違っていないが、別に、大都市でなければ商売ができないわけではない。
「大都市間を移動して商品を売り買いするのだけが商売ってわけじゃないでしょう。昨今は情勢が不安定な国が多いですからね。下手に大きな取引をしようとして、取引先の国で大規模な暴動が起こっては大損です。なので、しばらくは各国の小都市を回って国ごとの状況を見ながら、小さく商売したいと思っているんです」
これは私の直感で、特に理由があるわけではないのだけれど、わざわざ自分の直感に逆らってまで大きな商売をするつもりはない。私は商売が好きなのでなく、商売で稼ぐのが好きなのだ。充分な財産があり、商売をせず様子見する選択肢を持っている以上、ローリスクハイリターンな状況だと思えるまでは待機するのが最適だ。
「なるほどな。セントノイマでやけに簡単にドラゴンを見せる決断を下したと思ったが、あの頃にはもう当分静かに過ごそうという考えがあったわけか」
もちろん、そこまで考えていたわけではない。
あの場で考えていたのは、アリシアをドラゴンの使役者としか見ようとしない国王に一泡吹かせ、なおかつ指名手配されない程度に王国と良好な関係を維持することだけだ。
だが、ハセークにそう思ってもらうことは私にとってメリットでしかない。
「まあ、そういう風に受け取ってもらっても構いません」
仲間に嘘は吐けないので、玉虫色の回答でお茶を濁しておく。
空飛ぶ船の甲板上で、アリシアがしみじみと言う。
ドラゴンの存在が国民全体に知れ渡っていたため、一日船で進んで海洋へ出ることなく、港から出てすぐドラゴンに船を運んでもらった。おかげで船酔いせずにすんだアリシアの機嫌は良かった。
「君はほとんど勉強していて、私はほとんど読書していただけの三ヶ月間でしたからね。振り返えった際に思い出せる記憶が単調なだと、結果的に時間が短く感じるのでしょう」
「楽しい時間だったから、あっという間に過ぎたんじゃないの」
私の理性的な分析を聞き流したヴァヴィリアが、茶々を入れてくる。彼女は三ヵ月前――王国の庭園でドラゴンを呼んだ日の翌日から、私がアリシアに対して抱いている特別な感情に気づいていたようで、その感情をアリシアに伝えるよう、言葉の端々で催促してくるのだ。
「そういう側面もあるかもね」
私とて、いつまでもアリシアに想いを伝えないつもりではない。が、今から約一ヵ月間は同じ船で生活するのだ。現状の人間関係に波風を立たせるような言動は慎むべきだろう。
「あれだけドラゴンと我々の存在が世間に知られたら、色々と面倒事に巻き込まれることが増えるんじゃないですか?」
ザリアードの言う懸念はもっともだ。三ヵ月あれば、中央の国の耳聡い連中はセントノイマに現れたドラゴンの噂を聞き、自分のビジネスに利用すべく虎視眈々と準備をしている可能性は充分にある。
「判断を下すのはウインスターズで噂の広まり方を確認してからだけど、しばらく大都市には近づかず、のんびりと世界観光をしようと思っているんだ。驚きも九日しか続かないというからね。一年くらい大都市圏での商売をやめれば、噂も収まるでしょう」
「商売こそが人生だってお前が、一年も商売をやらずにいられるのか?」
ハセークが疑問を口にする。
彼の言う私の信念は間違っていないが、別に、大都市でなければ商売ができないわけではない。
「大都市間を移動して商品を売り買いするのだけが商売ってわけじゃないでしょう。昨今は情勢が不安定な国が多いですからね。下手に大きな取引をしようとして、取引先の国で大規模な暴動が起こっては大損です。なので、しばらくは各国の小都市を回って国ごとの状況を見ながら、小さく商売したいと思っているんです」
これは私の直感で、特に理由があるわけではないのだけれど、わざわざ自分の直感に逆らってまで大きな商売をするつもりはない。私は商売が好きなのでなく、商売で稼ぐのが好きなのだ。充分な財産があり、商売をせず様子見する選択肢を持っている以上、ローリスクハイリターンな状況だと思えるまでは待機するのが最適だ。
「なるほどな。セントノイマでやけに簡単にドラゴンを見せる決断を下したと思ったが、あの頃にはもう当分静かに過ごそうという考えがあったわけか」
もちろん、そこまで考えていたわけではない。
あの場で考えていたのは、アリシアをドラゴンの使役者としか見ようとしない国王に一泡吹かせ、なおかつ指名手配されない程度に王国と良好な関係を維持することだけだ。
だが、ハセークにそう思ってもらうことは私にとってメリットでしかない。
「まあ、そういう風に受け取ってもらっても構いません」
仲間に嘘は吐けないので、玉虫色の回答でお茶を濁しておく。
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