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58 セントノイマでの三ヵ月

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 セントノイマでの三ヵ月間は、あっという間に流れていった。
 私とアリシアは、王宮と宿を往復する毎日だった。王宮の庭園にドラゴンを呼び出し、ドラゴンに背を預けて勉強と読書に打ち込んだ。雨の日はドラゴンの翼が傘となり、風の日はドラゴンの身体が風よけになった。雨風の強い日は、「王宮に入られてはどうか」と王宮の使用人などから言われることもあったが、アリシアはドラゴンから離れるつもりはなかったし、どれだけの雨風に晒されようとドラゴンの翼が守ってくれたので、椅子さえあれば快適な読書が可能だった。
 国王は、セントノイマ国民に向けた公布を出し、セントノイマ王国がドラゴンの加護を受けたと発表した。
 この公布には、諸外国への牽制という意味合いもあったが、自国民の不安の解消が主目的だった。
 私たちが初めてドラゴンを王宮の庭園に呼び出した時から、王国の空にドラゴンが飛んでいるという噂は広がり始めており、国民の間に恐怖と不安が広がりつつあった。そのために、国王の言葉で「あのドラゴンは我々に災厄ではなく加護を与える存在だ」という説明をする必要があった。
 この公布だけでドラゴンに対する恐怖が国民から消えたわけではなく、一ヵ月ほどはどの酒場でもドラゴンの恐ろしさについて語る者が多かった。しかし、毎日のように王宮へ飛来しながらも、誰も殺されず、何も破壊されないという事実の積み重ねが、酒場の声からドラゴンに対する恐怖を徐々に消していった。
 三ヵ月も王宮の庭園に通っていると、王宮の人々もドラゴンに慣れていった。
 初めの二、三日は遠目から見られているだけだったが、四日目に一人の若い官僚が挨拶を言いに来たのを皮切りに、たまに王宮の人間から話しかけられるようになった。話しかけてくる人は皆、私とアリシアの関係に興味があるようで、「どうやってアリシアと出会ったのか」「どうしてアリシアと共に活動しているのか」みたいなことをよく訊かれた。商人とは違う身分の人間と会話でき、とても勉強になった。
 ドラゴンと共に庭園にいる間、アリシアは読み書きと簡単な計算の勉強を続けた。おかげで、他人が不快感なく読める程度の文字が書けるようになったし、四則演算もできるようになった。商人として最低限の知識は身に付いたと言える。
 ウインスターズに帰還する際に船へ積み込む商品や食料品の購入に伴う手続きは、すべてアリシアにしてもらった。ウインスターズで私が作成した見積書を参考にしてもらい、何を買えばいいのか、というところから考えてもらった。私は隣で見守っていて、最低限の助言だけをした。
 初めてゆえの困難や、亜ヒト族ゆえの困難、女性ゆえの困難がありつつも、出航予定日までに彼女はすべての必要品目の購入を済ませることができた。私が見ていた限り、購入品目に過不足もなければ、利益が出なさそうな買い方もしなかった。これだけできれば、彼女はすぐにでも商人として独り立ちできるだろう。
 セントノイマ滞在の最終日には、国王が我々のためにパーティを開いた。
 ドラゴンのすぐ近くで国王と握手を交わしたのを、大勢の官僚や資本家たちに見られた。その場にいる者全員に響き渡る声で「三年後、この場でまた会える日を楽しみにしています」と国王に宣言された。これで私とドラゴンとセントノイマとの関係性が周知の事実となったわけだ。

「三年後、更なる発展と繁栄を遂げたセントノイマをこの目にするのが楽しみです」

 かくして、私たちはウインスターズへと戻る。
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