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50 謁見室にて②

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「アリシア アフ ハヴェージュ フェギロウ? エフ フ サムフィッキァ チルオグ ミナ フェアロウ メイリ テクジャー オグ ヴィロイング フォルクシンス イミョンダオウ ファー バラ フェッタ エァ ツンディスレグト リフ フィンスト ファー エッキ? フー アエッティア アオ ミンスタ コスチ アオ ヴェラ アナエゴアリ エン アオ ヴェラ ヒジャ カウプマンニウム ファー」

「アリシアよ、なぜ沈黙を守る。私の提案を受け入れれば、汝は今より多くの収入と、国民からの尊敬を得られるだろう。想像してみてほしい。素晴らしい人生だと思わないか。少なくとも、そこの商人といるよりもずっと幸福なはずだ」

 ローブの男が訳さねばならないことを忘れているかのような長台詞で、国王はアリシアに訊ねた。その質問は、私が今アリシアに対して抱いている疑問と同じだった。
 静寂がしばらく続いた。国王は粘り強くアリシアからの答えを待っており、言葉を継ぐ気はなさそうだった。

「……私は、彼に救われました。その恩を返し終えるまでは、彼の近くにいたいんです」

 アリシアがそんな風に思っていたとは知らなかった。ドラゴンによる輸送が実現しているのはアリシアのおかげだ。それによる利益だけで最初にかけた費用に対して充分なリターンを得られたと私は考えていた。
 ローブの男からアリシアの言葉の意味を告げられた国王は、釈然としない様子だ。

「エフ フ ヴェロウァ ヘーマオウアー ランズ オッカー ムン カウプマオウリン グラエオア グリオアーレガ ファオ マ セグジャ アオ エグ ハフィ エンデューゴルディオ ゴーヴィルド ミナ ノグ」

「汝が我が国の兵士となれば、その商人は莫大な利益が得られるのだぞ。それで充分に恩義を返したと言えるであろう」

 国王は、アリシアの言っていることの意味が理解できていないようだった。

「彼はすでに充分すぎるほどのお金を持っています。お金を渡すことで、私が彼に感じている恩義は返せません。それに、あなたがお金を払うのは、私でなくて私が呼び出すドラゴンでしょう。私は、私自身の力で、彼から与えられた恩義に報いたいのです」

 私はドラゴンとアリシアの力を同一視していた。だが、アリシアはそうではなかった。彼女にとって、ドラゴンがやったことはドラゴンの功績であり、自分自身の功績だとは考えていなかった。彼女とドラゴンの関係性は、主従というよりも親子に近い。他人よりは頼りやすいけれど、気兼ねなく何でも頼めるわけではないのだ。

「イス モァ アン タラン アタ アガツサ ブヘイス イン アン ドラガイン ア オーデュ バ チェアート ドイブヒ スイド ア フアイアー ブロンタナス オ ディア アン ブロンタナス シン ア ウサイド ゴ グニオムハシュ イス フェイディアー ア ラ フィウ グアー オイブレアガイド エ ニル アン クマス アグ ゴ レオァ ダオイネ タラインネ ア サブハイァート アイァ サ チェアド アイト」

「ドラゴンを使役できるというのは、汝の立派な才能だ。神から天賦の才を与えられた者は、その才能を積極的に活用するべきだ。義務であるとすらいえる。多くの者には、そもそも才能と呼べるほどの能力が辿っていないのだから」

 そこで国王は深々と溜息を付き、

「アァ アン グセアド デゥル シオス イス ベアグ アタ アァ エオラス アガト ファオイ ナ ルダイ イス フェイディァ レ デュイネ シンギル コスイル レアティサ ア デェアナムヒ レアト フェイン」

 と小声を漏らした。
 その言葉をローブの男は訳さなかった。
 適切な判断だ。「そもそも、お前ような一人の人間の力だけでできることなど、たかが知れているではないか」なんて小言を、こちら側に伝えるべきではない。
 アリシアの意見が変わらなそうだとわかった国王は、長らく一瞥も向けなかった私のほうを見た。

「ファ カウプマオウァ フ アエッティァ アオ ゲラ ランディオ オッカー アオ ベアキストー」

「ならば商人よ、貴様が我が国を拠点とすればよい」

 まるで「これは妙案だ」と確信しているかのような自信を持った声音で、国王は続ける。

「ランディオ オッカー サイント ノイマ エァ リーキルスタオウァ ヴィオスキプタ セム モーグ ロンド ヘイムサエキジャ ファオ ヴァエリ フルコミオ セム グルンヌァ フイリァ カウプマン エインズ オグ フィグ ファンニグ ムン ヴォーン アリシウ フイリァ フェッス ランディ エインニグ ギャグナスト フェー」

「我が国セントノイマは数多くの国が訪れる交易の要衝だ。貴様のような貿易商の拠点としては最適だろう。そうすれば、アリシアがこの国の防衛をすることが、貴様の利益にもつながる」

 ああ、この男はまさしく国王なのだ。国益のためであれば、個々の人間の自由など歯牙にもかけない。
 そもそも国王は、個人という観念の存在を認識していないのかもしれない。国王にとって私はレキムという一人の人間ではなく、これまでに数多出会ってきた貿易商人の中の一人にすぎないのだろう。
 おそらく、国王の思考はこのようなものだ。一般的に、商人とは利益を追求する者である。それゆえに眼前の商人も利益を追求するに違いない。日々無数の人間と面会する国王が、これ以上の思考を初対面の無名な人間に割くのは難しそうだ。
 私が国王の浅慮に苦笑したのを見て、国王は自身の提案が好意的に受け取られたと思ったらしい。

「ハヴェーニグ? エァ ファオ? エグ ヘルド アオ ファオ セ エッキ スラアム サガ フイリァ ファルジャァ フリオアー」

「どうだ? 三方良しの悪くない話だと思うのだが」

 その言葉は、本心で言っているのだろうか。それとも、国益のために、本心を殺して言っているのだろうか。
 まあ、どちらにせよ、私の腹は決まった。
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