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41 入港後の宴会
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すべての手続きが滞りなく終了し、運んできた全商品がドラクム金貨に変換されたのは日没後だった。
契約締結した卸売業者と契約書と握手を交わした港近くの建物から出た私とアリシア、ヴァヴィリアは、
「全員が泊まれる宿が見つかったので、船乗りの方たちは先に案内しておきました」
と言うザリアードに続いて、オイルランプに照らされた大通りを進む。しばらく道沿いに歩いてから脇道に逸れると、先ほどまでとは打って変わって、月明かりだけを頼りにして歩く。
約ニ十分で、煉瓦造りの建物に到着した。看板にはベッドの絵が描かれており、入口に近づくと騒がしい声が聞こえてきた。
扉を開くと、扉についたベルが鳴り、中にいた船乗りたちの視線が私たちに集まった。美味しそうな食べ物の匂いが漂ってくる。
「おお、レキムさん、すみません。先に始めさせてもらってます」
「いえいえ、今日の宴会は頑張ってもらった皆さんのために開いたんですから、私のことは気にせず、好きなだけ飲み食いしてください」
昨日まで船の上で過ごしていたにもかかわらず、船乗りたちは元気に飲み食いし、笑い騒いでいた。
私は船乗りたちの邪魔にならないよう、隅のほうで食事をする。久々の温かくて塩味が濃すぎない食事に感動したものの、下船した当日からガツガツ飲み食いできるほどの体力はなく、少し食べただけでもう充分だった。
私は二階に上がって、ザリアードから聞かされた自分の寝室に入る。三人部屋だったそこには、すでに先客がいた。
「おや、お前も小食な口か」
と、ハセークは読んでいた本から視線を私に向けた。
「私の身体は食事よりも休息を欲していたんです。あなたは?」
「私も同じようなものだ。船乗りのような体力はもうない」
私はベッドに腰かけ、なんとなく窓の外を眺めると月が見えた。疲れているのだけれど、妙に目が冴えていて、眠る気にはならなかった。
しばらくそうしていると、扉がノックされた。
入ってきたのは、大きな酒瓶と三つのコップを持ったザリアードだった。
「林檎酒を持ってきました。飲みませんか?」
どうやら彼は、私たちが宴会から抜け出していたのを察して、酒を持ってきてくれたらしい。
「気を使わせて悪いな」
とハセークが言うと、ザリアードは、
「気を使ったというわけではないですよ。もう宴会は充分に楽しんだので、後は静かに飲もうと思ったんです」
と返した。こういうところが、彼の素晴らしい性格の一端を表していると思う。
私とハセークはザリアードからコップをもらい、林檎酒をチビチビと飲む。疲れた身体に染みる優しい味だ。
昨日までに私たちは随分多くの話をしてきたので、何を話すにも二番煎じだった。それゆえ、飲んでいる間は基本的に沈黙だった。この沈黙を気まずく感じない程度には、私たちの関係は親密なものになっていた、と少なくとも私は思っている。
冴えていた目が瞼の重さを感じ出し、思考に靄がかかっていく。
コップを小さなテーブルに置き、ベッドで横になる。
契約締結した卸売業者と契約書と握手を交わした港近くの建物から出た私とアリシア、ヴァヴィリアは、
「全員が泊まれる宿が見つかったので、船乗りの方たちは先に案内しておきました」
と言うザリアードに続いて、オイルランプに照らされた大通りを進む。しばらく道沿いに歩いてから脇道に逸れると、先ほどまでとは打って変わって、月明かりだけを頼りにして歩く。
約ニ十分で、煉瓦造りの建物に到着した。看板にはベッドの絵が描かれており、入口に近づくと騒がしい声が聞こえてきた。
扉を開くと、扉についたベルが鳴り、中にいた船乗りたちの視線が私たちに集まった。美味しそうな食べ物の匂いが漂ってくる。
「おお、レキムさん、すみません。先に始めさせてもらってます」
「いえいえ、今日の宴会は頑張ってもらった皆さんのために開いたんですから、私のことは気にせず、好きなだけ飲み食いしてください」
昨日まで船の上で過ごしていたにもかかわらず、船乗りたちは元気に飲み食いし、笑い騒いでいた。
私は船乗りたちの邪魔にならないよう、隅のほうで食事をする。久々の温かくて塩味が濃すぎない食事に感動したものの、下船した当日からガツガツ飲み食いできるほどの体力はなく、少し食べただけでもう充分だった。
私は二階に上がって、ザリアードから聞かされた自分の寝室に入る。三人部屋だったそこには、すでに先客がいた。
「おや、お前も小食な口か」
と、ハセークは読んでいた本から視線を私に向けた。
「私の身体は食事よりも休息を欲していたんです。あなたは?」
「私も同じようなものだ。船乗りのような体力はもうない」
私はベッドに腰かけ、なんとなく窓の外を眺めると月が見えた。疲れているのだけれど、妙に目が冴えていて、眠る気にはならなかった。
しばらくそうしていると、扉がノックされた。
入ってきたのは、大きな酒瓶と三つのコップを持ったザリアードだった。
「林檎酒を持ってきました。飲みませんか?」
どうやら彼は、私たちが宴会から抜け出していたのを察して、酒を持ってきてくれたらしい。
「気を使わせて悪いな」
とハセークが言うと、ザリアードは、
「気を使ったというわけではないですよ。もう宴会は充分に楽しんだので、後は静かに飲もうと思ったんです」
と返した。こういうところが、彼の素晴らしい性格の一端を表していると思う。
私とハセークはザリアードからコップをもらい、林檎酒をチビチビと飲む。疲れた身体に染みる優しい味だ。
昨日までに私たちは随分多くの話をしてきたので、何を話すにも二番煎じだった。それゆえ、飲んでいる間は基本的に沈黙だった。この沈黙を気まずく感じない程度には、私たちの関係は親密なものになっていた、と少なくとも私は思っている。
冴えていた目が瞼の重さを感じ出し、思考に靄がかかっていく。
コップを小さなテーブルに置き、ベッドで横になる。
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