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35 空中の船上生活二日目~七日目
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船が空を飛んでから一夜が明けた。
想定外の事柄がいくつも起こった一日目と異なり、二日目以降は何もかもが、エルドワードが一日目の夜に立てた予定通りに過ぎていった。
早朝、朝靄で視界が不明瞭なうちに一度船を海に下ろし、釣り。一時間ほどで再び船は空へ上がり、船員全員で朝食。その後は、掃除や見張り、料理当番以外は自由時間だ。昼食と夕食の際に集まる以外、どこで何をやっていてもいい。
ドラゴンのおかげで船の操作に人員が必要ない分、船乗りたちの自由時間はかなり増えた。ただ、この自由時間は船乗りたちにとって必ずしも幸福なものではなかった。仕事で時間をつぶすはずだった船乗りたちは、すぐに退屈に襲われたためだ。
船乗りたちは、その退屈をカード賭博と酒によって紛らわせた。が、一日当たりの飲酒量と、一日に賭けられる金額には、船の掟によって上限が設けられているため、退屈な時間のすべてをそれらで解消できるわけではなかった。船乗りたちの一部は退屈のあまり何か仕事はないかとエルドワードに尋ねるくらいだった。
それ対し、元々暇を持て余す予定だった私とアリシア、ザリアード、ヴァヴィリア、ハセークは、膨大な時間を消費するためにいろいろと準備してきた。
アリシアは、読み書きの勉強に大半の時間を費やした。
最初の数日で、どの文字をどう発音するかという原則を覚えたアリシアは、私の想像以上の勢いで文字を覚えていった。その後の一週間で簡単な短文なら読むことができるようになり、『スィングランス喜劇集』の文章を音読できるようになった。勉強を始める前には、もっと取っつきやすい絵本とかを教材にしたほうが良かったのではないか、とか考えていたのだけれど、完全に杞憂だった。
こうした急速な成長ができたのは、元々アリシアがある程度の語彙力を持っていたためだろう。発音された言葉の意味自体はすでに知っていたから、文字の発音を覚えるだけで文章が読めたのだ。だとしても、凄まじい習得速度だとは思うが。
読みのほうは素晴らしい速度で習得しつつあるアリシアだが、書きには苦戦していた。
読み方は知識として暗記すればいいのに対し、書き方は知識というよりも技術に近い。自分の頭の中にある言葉を、紙の上に鉛筆を滑らせる行為。その行為の習得には、何千何万の反復しかない。今はまだ、アリシアの書いた文字はミミズが這ったようで、私の走り書きよりも読みにくいけれど、反復していく中で少しずつ確実に上達はしてきている。
ヴァヴィリアはよく、私がアリシアに文字を教えているのを後ろで見ていた。彼女も読み書きが苦手なので、もしかしたら一緒に勉強したいのかと思って一度誘ってみたけれど、あっさりと断られた。どうやらヴァヴィリアは、一生懸命に勉強するアリシアを見ているのが好きなようだった。
アリシアを見ている以外の時間は、寝ているか、甲板上で剣を振っていた。勉強の息抜きとして、アリシアがヴァヴィリアと一緒に剣を振ることもあった。
確か六日目だったと思うが、アリシアの手にペンダコでなく剣の握りダコができているのを見つけ、なんとなくヴァヴィリアのほうを見ると、ヴァヴィリアは得意げな表情になり、私はそれでなぜか負けた気がしたのをよく覚えている。
ザリアードとハセークは、よく一緒に話していて、私も時々その輪に混ざった。彼らの話題は、種族、思想、歴史といった硬派なものから、酒や食べ物といった世俗的なものまで多岐に渡った。基本的にハセークが披露した教養に対し、ザリアードが感想や意見を述べる形式で話が進んだ。
一人だと、ザリアードは甲板上で筋力トレーニングをしたり、剣を振っていた。
それに対しハセークは、一人のときは本を読んでいることが多かった。
もっぱら小説や劇作を読む私と違い、彼が読むのは歴史書や思想書であり、私と彼の持つ教養に重複している部分は少なかった。そのため、本の話をする際には、相手がその本を読んでいないことを前提にするので、三人で話している際に、あまり本を読まないザリアードが置いてけぼりになるようなことはなかった。
想定外の事柄がいくつも起こった一日目と異なり、二日目以降は何もかもが、エルドワードが一日目の夜に立てた予定通りに過ぎていった。
早朝、朝靄で視界が不明瞭なうちに一度船を海に下ろし、釣り。一時間ほどで再び船は空へ上がり、船員全員で朝食。その後は、掃除や見張り、料理当番以外は自由時間だ。昼食と夕食の際に集まる以外、どこで何をやっていてもいい。
ドラゴンのおかげで船の操作に人員が必要ない分、船乗りたちの自由時間はかなり増えた。ただ、この自由時間は船乗りたちにとって必ずしも幸福なものではなかった。仕事で時間をつぶすはずだった船乗りたちは、すぐに退屈に襲われたためだ。
船乗りたちは、その退屈をカード賭博と酒によって紛らわせた。が、一日当たりの飲酒量と、一日に賭けられる金額には、船の掟によって上限が設けられているため、退屈な時間のすべてをそれらで解消できるわけではなかった。船乗りたちの一部は退屈のあまり何か仕事はないかとエルドワードに尋ねるくらいだった。
それ対し、元々暇を持て余す予定だった私とアリシア、ザリアード、ヴァヴィリア、ハセークは、膨大な時間を消費するためにいろいろと準備してきた。
アリシアは、読み書きの勉強に大半の時間を費やした。
最初の数日で、どの文字をどう発音するかという原則を覚えたアリシアは、私の想像以上の勢いで文字を覚えていった。その後の一週間で簡単な短文なら読むことができるようになり、『スィングランス喜劇集』の文章を音読できるようになった。勉強を始める前には、もっと取っつきやすい絵本とかを教材にしたほうが良かったのではないか、とか考えていたのだけれど、完全に杞憂だった。
こうした急速な成長ができたのは、元々アリシアがある程度の語彙力を持っていたためだろう。発音された言葉の意味自体はすでに知っていたから、文字の発音を覚えるだけで文章が読めたのだ。だとしても、凄まじい習得速度だとは思うが。
読みのほうは素晴らしい速度で習得しつつあるアリシアだが、書きには苦戦していた。
読み方は知識として暗記すればいいのに対し、書き方は知識というよりも技術に近い。自分の頭の中にある言葉を、紙の上に鉛筆を滑らせる行為。その行為の習得には、何千何万の反復しかない。今はまだ、アリシアの書いた文字はミミズが這ったようで、私の走り書きよりも読みにくいけれど、反復していく中で少しずつ確実に上達はしてきている。
ヴァヴィリアはよく、私がアリシアに文字を教えているのを後ろで見ていた。彼女も読み書きが苦手なので、もしかしたら一緒に勉強したいのかと思って一度誘ってみたけれど、あっさりと断られた。どうやらヴァヴィリアは、一生懸命に勉強するアリシアを見ているのが好きなようだった。
アリシアを見ている以外の時間は、寝ているか、甲板上で剣を振っていた。勉強の息抜きとして、アリシアがヴァヴィリアと一緒に剣を振ることもあった。
確か六日目だったと思うが、アリシアの手にペンダコでなく剣の握りダコができているのを見つけ、なんとなくヴァヴィリアのほうを見ると、ヴァヴィリアは得意げな表情になり、私はそれでなぜか負けた気がしたのをよく覚えている。
ザリアードとハセークは、よく一緒に話していて、私も時々その輪に混ざった。彼らの話題は、種族、思想、歴史といった硬派なものから、酒や食べ物といった世俗的なものまで多岐に渡った。基本的にハセークが披露した教養に対し、ザリアードが感想や意見を述べる形式で話が進んだ。
一人だと、ザリアードは甲板上で筋力トレーニングをしたり、剣を振っていた。
それに対しハセークは、一人のときは本を読んでいることが多かった。
もっぱら小説や劇作を読む私と違い、彼が読むのは歴史書や思想書であり、私と彼の持つ教養に重複している部分は少なかった。そのため、本の話をする際には、相手がその本を読んでいないことを前提にするので、三人で話している際に、あまり本を読まないザリアードが置いてけぼりになるようなことはなかった。
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