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18 事務的仕事

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 仕事というのは、一パーセントの創造的作業と、九九パーセントの反復作業からなる。
 まあ、個人的経験に基づいた帰結なので、各々の数値に誤差はあるだろうが、普段の仕事の大半が、一度経験したことのある退屈な作業の繰り返しであることは事実だ。
 ある場所で商品を買い、その商品を輸送する手筈を整え、需要の高い場所で売りさばく。この一連の流れを最適に実行して利益を出すのが、商人の仕事である。
 そう聞くと、商人の仕事は創造的で面白いものに思えるかもしれない。最大の利益を生み出すための最適な方法を探るべく、試行錯誤を繰り返す過程に、魅力を感じる人も多いだろう。
 しかし、その試行錯誤の過程は、一人の商人が体験できるほどの小さなスケールで繰り返されているわけではない。それは、過去に存在した幾千幾万もの商人が、人生を賭けて生み出した結果の蓄積を振り返ることでしか把握することができないのだ。
 そのため、上手くいく商人には二種類しかいない。
 歴史に学び、その知見を愚直に実行する者と、単純に運のいい者だ。
 問題は、「自分は歴史に学んだから稼ぐことができた」と思い込んでいる商人の大半が勉強不足であり、ただの幸運の持ち主にすぎないというところにある。そして、ビギナーズラックがあっただけだと気づいた賢明な商人の大半は、低リスクで安定している代わりに高いリターンが出るわけではない伝統的な商売しかしなくなってしまう。
 つまり、よほどの才能がない限り、商売の伝統を知り、それを完璧に模倣すること以上に、安定して利益を出す方法はないのだ――

 ――と、頭の中で長々と商人としての哲学を展開してしまう程度には、今日は退屈な事務的仕事に従事していた。
 その仕事とは、船に乗せる商品や食料の仕入れである。
 大量の仕入れとなるため、五つほどの業者に見積もりを出してもらい、その中で最も安いところを契約を結ぶ。そうしないと、ぼったくりな契約に気づけないからだ。
 同じ要求を違う業者に何度も説明するのは退屈極まる。相手が交渉しがいのある人だったなら、この退屈も少しはマシだったかもしれないが、交渉慣れした商人が相手なので、良くも悪くも想定通りに話が進んでいき、何も面白いことは起きない。その上、すべての仕入れを一つの業者から行うわけではない。このような仕事を品目ごとにする必要がある。
 普段であれば、このような単調な仕事は無心でこなしているのだが、今日は何か考え事をしていないと、アリシアの顔を思い出てしまい、仕事にならなくなりそうだった。
 せめてもの救いは、この仕事にエルドワードが付き合ってくれた、ということ。
 彼との他愛のない雑談は、気晴らしに最適だった。
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