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12 商会支部にて

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 午前中で休日にやりたいことが消失したので、午後からは普通に仕事を始めた。
 アリシアにまで私の仕事中毒に付き合わせたくはなかったのだけれど、彼女も朝市以外に休日の目的があったわけではないらしく、どうせ暇なら私のこの都市での仕事を見物したいのだとか。
 私がまず訪れたのは、西ディアナ商会のウインスターズ支部。
 レンガ造りの二階建てで、一階には受付と、仕事の依頼が貼られた掲示板がある。二階は主に応接室で、商会に仕事を依頼する人を対応する場所となっている。
 掲示板に新しい仕事が貼られるのが営業時間外である関係上、コネのない商人が良い仕事を取るために集う午前の営業開始直後以外は、基本的に閑散としている。

「おお、ヨルム。久々だな」

 支部に入ってすぐ、受付にいる男から声をかけられた。

「ご無沙汰してます。ブルシットさん」

 ブルシットは、この支部の副支部長である。年齢は私の二倍ほどあるが、若々しい笑い方をするので、私の少し上くらいに見える。数年前までは私と同じように行商人として生活していたが、足を悪くしてからは、この支部での事務仕事に腰を据えていた。

「今日は会費の支払いに来たのか?」

「それもなんですが、勅許状を発行してほしいんです」

 国が所有権を有する港を使用して貿易を行うには、あらかじめ使用料を払って勅許状を得る必要がある。安くない料金ではあるが、その勅許状がないと行った先の港で取引ができなくなってしまう。

「ほう。数年前にもう貿易商をやるのはこりごりだって言ってた気がするが……行商人の稼ぎじゃあ足りなくなったのかい?」

 一般に、海賊や悪天候、壊血病といったリスクがある貿易商は、行商よりも危険であるとされる。その代わり、一度の取引が大きいため、成功させれば得られる利益も大きい。

「数年も経てば、考えも変わるというものです。昔の考えにいつまでもこだわるような頭でっかちは、足元をすくわれてしまいかねません」

 皮肉のつもりだったのだが、ブルシットは笑って、

「そうか、わかった。過去の実績もあるお前なら、すぐに申請が通るだろう」

 快く私の要望を聞き入れてくれた。懐の広さの差というか、人格の差というか、そういうものを感じた。
 勅許状が発行されるまでには少なくとも三日はかかるということだったので、三日後にまた来ると口約束を交わし、商会を後にした。

「最近、相場の変動が激しいから気をつけろよ」

 去り際、私の背中にブルシットはそう投げかけた。
 どういう意味か尋ねたくて振り返ったが、すでにブルシットは受付の奥へと向かっていた。
 まあ、商会内部の人間が、特定の商人にだけ情報を与えるべきではないという風潮がある中で、抽象的とはいえ助言をしてくれただけでも感謝すべきだろう。
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