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11 朝市にて
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ウインスターズの朝市は、活気と慌ただしさに満ちていた。
まず私たちが訪れたのは、これから仕事に向かう人々へ朝食を販売しているエリア。美味しそうな食べ物の匂いがそこら中から漂ってきて、空腹を刺激してくる。
「とりあえず朝ごはんにしようか。何か食べたいものある?」
私の提案を聞き、「そうだねぇ~」と言いながら、しばらく歩いて周囲を散策したアリシアは、
「おススメは?」
と私に丸投げしてきた。予想通りの反応である。
「ああいうシンプルなのが一番美味しい。歩きながら食べれるし」
私が指差したのは、羊肉の串焼きを売っている屋台。変に手間をかけた料理より、美味しい食材に塩を振って焼いただけの方が無難に旨い。
「じゃあ、とりあえずそれで」
アリシアの第一印象は及第点のようだ。まあ、彼女は見かけによらずよく食べるので、これを食べながら次に何を食べるかを考えるつもりなのだろう。
「すみません、この串焼きを二つ」
店主に声をかけ、串焼きをいただく。
住民に商人が多く、識字率が高いことから、店頭に商品ごとの値段が書かれた看板が置いてあるため、そこに書かれた金額を懐から出す。
「はいよ」
支払いに使うのは、ホーリー銅貨ではなくグロリア銅貨。
この辺りで使われる通貨には、主にホーリー貨幣とグロリア貨幣の二種類がある。
ホーリー貨幣は、周辺国で最も多くの信者を集めている宗教組織であるグレトミット教会が発行母体である通貨で、教会の権力によって特権階級の存在を正当化している国のほとんどで法定通貨となっている。だが、頻繁に貨幣の鉱物含有率を変更しているという噂があり、教会の影響が及んでいない地域では信用があまりない。
それに対し、グロリア貨幣はいくつかの国家が合同で発行している通貨で、貨幣の鉱物含有率の変更が少ないとされるため、教会の威信がなくとも信用されており、特に海外との取引でよく使われている。だが、教会の影響が大きい地域では、ホーリー通貨以外の使用を認めていないところもある。
閑話休題。
串焼きを片手に、朝市の只中を行く。
途中、目についた軽食をいくつか食べるうちに、空腹は満たされていった。
「ヨルムはさ、何か買いたいものはないの?」
「そうだねぇ~」
アリシアの買い物に付き合おうとしか考えていなかった私は、何を買うべきか悩んだ。食べ物はもう充分だし、商品の買い出しを休日にすべきではないし、行商人という立場上、かさばるものは買いたくない。
しばらく歩いて考えた挙句、とりあえずの結論を出した私は、その品が売っている店を探し、見つけた。
「はい、これ」
買ったのは、猫のシルエットがモチーフになっている銀製のネックレス。
「え、くれるの? ていうか、これがあなたの買いたいものなの?」
突然のプレゼントに驚くアリシアの顔を見れただけで、私としては儲けものだろう。
「私は物欲がまったくないんだ。だから、商人として、ビジネスパートナーのご機嫌を買おうと思ってね」
我ながらキザな物言いであるが、冗談でも言わないと正気でプレゼントなんで渡せないのだから仕方あるまい。
「ふーん。ま、ありがと」
アリシアはネックレスを首につけながらも、釈然としない感じだった。
「普通、何か買いたいものがあるからお金稼ぎをしようとするんじゃないの?」
どうやら彼女は、物欲がないのに商人として働き続ける理由がわからないらしい。
そこに疑問を抱くのはわかる。私自身、一生暮らせるだけの金額を稼いだ時に、何度も自問自答したことがある。無駄にリスクを背負ってまで、商人を続ける意味があるのか、と。
まあ、明確な答えは出なかったのだが。
「私は商人の子どもとして生まれ、物心付いた時から商人として育てられたからね。する必要がなくなったからといって、今さら商人以外の存在になるのは怖いんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
アリシアは納得していない様子だったが、自分で言っている私も納得はできていないので、諦めてほしい。
まず私たちが訪れたのは、これから仕事に向かう人々へ朝食を販売しているエリア。美味しそうな食べ物の匂いがそこら中から漂ってきて、空腹を刺激してくる。
「とりあえず朝ごはんにしようか。何か食べたいものある?」
私の提案を聞き、「そうだねぇ~」と言いながら、しばらく歩いて周囲を散策したアリシアは、
「おススメは?」
と私に丸投げしてきた。予想通りの反応である。
「ああいうシンプルなのが一番美味しい。歩きながら食べれるし」
私が指差したのは、羊肉の串焼きを売っている屋台。変に手間をかけた料理より、美味しい食材に塩を振って焼いただけの方が無難に旨い。
「じゃあ、とりあえずそれで」
アリシアの第一印象は及第点のようだ。まあ、彼女は見かけによらずよく食べるので、これを食べながら次に何を食べるかを考えるつもりなのだろう。
「すみません、この串焼きを二つ」
店主に声をかけ、串焼きをいただく。
住民に商人が多く、識字率が高いことから、店頭に商品ごとの値段が書かれた看板が置いてあるため、そこに書かれた金額を懐から出す。
「はいよ」
支払いに使うのは、ホーリー銅貨ではなくグロリア銅貨。
この辺りで使われる通貨には、主にホーリー貨幣とグロリア貨幣の二種類がある。
ホーリー貨幣は、周辺国で最も多くの信者を集めている宗教組織であるグレトミット教会が発行母体である通貨で、教会の権力によって特権階級の存在を正当化している国のほとんどで法定通貨となっている。だが、頻繁に貨幣の鉱物含有率を変更しているという噂があり、教会の影響が及んでいない地域では信用があまりない。
それに対し、グロリア貨幣はいくつかの国家が合同で発行している通貨で、貨幣の鉱物含有率の変更が少ないとされるため、教会の威信がなくとも信用されており、特に海外との取引でよく使われている。だが、教会の影響が大きい地域では、ホーリー通貨以外の使用を認めていないところもある。
閑話休題。
串焼きを片手に、朝市の只中を行く。
途中、目についた軽食をいくつか食べるうちに、空腹は満たされていった。
「ヨルムはさ、何か買いたいものはないの?」
「そうだねぇ~」
アリシアの買い物に付き合おうとしか考えていなかった私は、何を買うべきか悩んだ。食べ物はもう充分だし、商品の買い出しを休日にすべきではないし、行商人という立場上、かさばるものは買いたくない。
しばらく歩いて考えた挙句、とりあえずの結論を出した私は、その品が売っている店を探し、見つけた。
「はい、これ」
買ったのは、猫のシルエットがモチーフになっている銀製のネックレス。
「え、くれるの? ていうか、これがあなたの買いたいものなの?」
突然のプレゼントに驚くアリシアの顔を見れただけで、私としては儲けものだろう。
「私は物欲がまったくないんだ。だから、商人として、ビジネスパートナーのご機嫌を買おうと思ってね」
我ながらキザな物言いであるが、冗談でも言わないと正気でプレゼントなんで渡せないのだから仕方あるまい。
「ふーん。ま、ありがと」
アリシアはネックレスを首につけながらも、釈然としない感じだった。
「普通、何か買いたいものがあるからお金稼ぎをしようとするんじゃないの?」
どうやら彼女は、物欲がないのに商人として働き続ける理由がわからないらしい。
そこに疑問を抱くのはわかる。私自身、一生暮らせるだけの金額を稼いだ時に、何度も自問自答したことがある。無駄にリスクを背負ってまで、商人を続ける意味があるのか、と。
まあ、明確な答えは出なかったのだが。
「私は商人の子どもとして生まれ、物心付いた時から商人として育てられたからね。する必要がなくなったからといって、今さら商人以外の存在になるのは怖いんだよ」
「そういうものなの?」
「そういうものなの」
アリシアは納得していない様子だったが、自分で言っている私も納得はできていないので、諦めてほしい。
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