上 下
5 / 60

5 アリシアとの出会い①

しおりを挟む
 翌日、私は昨日の軽率な判断を大いに後悔していた。
 酒に弱いのは自覚していたのに、ついつい飲み過ぎてしまった。二日酔いのまま荷馬車の手綱を握る羽目になったのは、ザリアードの料理がどれも酒と合うようにできていたせいなのもあるが、一番は、ヴァヴィリアとの昔話に花が咲いてしまったせいだろう。
 ヴァヴィリアのほうは平然としているあたり、ヒト族の虚弱性を呪わざるを得ない。
 私は記憶が曖昧なのだが、ザリアードが言うには、私とヴァヴィリアはアリシアとの出会いについて大いに語らっていたらしい。ヴァヴィリアはアリシアのことを妹のように可愛がっているし、私はアリシアのおかげでそれまでよりも大きく稼げるようになっているから、酒で頭が回らないときの思い出話は彼女のことになりがちだった。

 アリシアと出会ったのは、約一年前。ある村で取引をしていた時だった。
 当時、荷馬車で商品を運ぶ商売をしていた私が、村長の家で村長と価格交渉をしていたところに、村人の男が駆け込んできた。

「畑に化物が出た!」

 男の青ざめた表情を見て、どうやら本当に何かあったようだ考えた村長は、私との価格交渉を一時中断し、その男に「その化物とやらのところに案内してくれ」と言って家から出ていった。
 好奇心に駆られた私も、その頃から護衛として雇っていたザリアードとヴァヴィリアと共に続いていくと――
 
 ――そこには、ドラゴンがいた。

 圧倒的な存在感を放ち、悠然と我々を睥睨していた。

 その姿は畏怖の象徴であり、神々しさの化身だった。

 あの場にいた全員が、ドラゴンから目を離せなかった。
 だからだろう。ドラゴンの足元にいる少女の存在に、誰も気づかなかった。

「あの、ごめんなさい。お腹が空いていて、少し食べ物を分けてほしいんです」

 声の聞こえてきたほうへ目を向けると、褐色の肌をした少女がいた。
 よく見てみると、手足は骨ばり、頬はこけていて、食事を取れていないのは明白だった。

「私にできることがあればお手伝いさせていただきます。ですのでどうか、どなたか食べ物を恵んでくださらないでしょうか」

 彼女がか細い声を振り絞っても、誰も動こうとしなかった。

「彼は、私が心配でついてきただけで、皆さんに危害を加えることはありません」

 彼女は、皆が自分の後ろにいるドラゴンを恐れているのだと思っていた。
 だが、それは違う。私たちは、少なくとも私は、ドラゴンのことを"彼"と呼称する彼女自身のことを恐れていた。
 そして、それ以上に興味が沸いた。
 私は、彼女へと近づいた。

「こんにちは、お嬢さん。私はヨルム、商人です。まずは、あなたの名前を教えてくれませんか」

「私は、アリシアと言います」

 私は、努めて彼女の眼だけを見るようにした。彼女のすぐそばにいるドラゴンを意識せず、彼女と一対一で対話しようとした。
 今まででも、命の危機と隣り合わせの交渉はあった。剣の切っ先を突き付けられたことも、弾丸の入っている銃口を向けられたこともあった。そんな時であっても、私は商人であることをやめなかった。命を賭けるに値する取引を前にして、それを見逃すなどという機会損失を、商人としての魂が許さなかったからだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

公爵家長男はゴミスキルだったので廃嫡後冒険者になる(美味しいモノが狩れるなら文句はない)

音爽(ネソウ)
ファンタジー
記憶持ち転生者は元定食屋の息子。 魔法ありファンタジー異世界に転生した。彼は将軍を父に持つエリートの公爵家の嫡男に生まれかわる。 だが授かった職業スキルが「パンツもぐもぐ」という謎ゴミスキルだった。そんな彼に聖騎士の弟以外家族は冷たい。 見習い騎士にさえなれそうもない長男レオニードは廃嫡後は冒険者として生き抜く決意をする。 「ゴミスキルでも美味しい物を狩れれば満足だ」そんな彼は前世の料理で敵味方の胃袋を掴んで魅了しまくるグルメギャグ。

ワンダラーズ 無銘放浪伝

旗戦士
ファンタジー
剣と魔法、機械が共存する世界"プロメセティア"。 創国歴という和平が保証されたこの時代に、一人の侍が銀髪の少女と共に旅を続けていた。 彼は少女と共に世界を周り、やがて世界の命運を懸けた戦いに身を投じていく。 これは、全てを捨てた男がすべてを取り戻す物語。 -小説家になろう様でも掲載させて頂きます。

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...