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5 アリシアとの出会い①
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翌日、私は昨日の軽率な判断を大いに後悔していた。
酒に弱いのは自覚していたのに、ついつい飲み過ぎてしまった。二日酔いのまま荷馬車の手綱を握る羽目になったのは、ザリアードの料理がどれも酒と合うようにできていたせいなのもあるが、一番は、ヴァヴィリアとの昔話に花が咲いてしまったせいだろう。
ヴァヴィリアのほうは平然としているあたり、ヒト族の虚弱性を呪わざるを得ない。
私は記憶が曖昧なのだが、ザリアードが言うには、私とヴァヴィリアはアリシアとの出会いについて大いに語らっていたらしい。ヴァヴィリアはアリシアのことを妹のように可愛がっているし、私はアリシアのおかげでそれまでよりも大きく稼げるようになっているから、酒で頭が回らないときの思い出話は彼女のことになりがちだった。
アリシアと出会ったのは、約一年前。ある村で取引をしていた時だった。
当時、荷馬車で商品を運ぶ商売をしていた私が、村長の家で村長と価格交渉をしていたところに、村人の男が駆け込んできた。
「畑に化物が出た!」
男の青ざめた表情を見て、どうやら本当に何かあったようだ考えた村長は、私との価格交渉を一時中断し、その男に「その化物とやらのところに案内してくれ」と言って家から出ていった。
好奇心に駆られた私も、その頃から護衛として雇っていたザリアードとヴァヴィリアと共に続いていくと――
――そこには、ドラゴンがいた。
圧倒的な存在感を放ち、悠然と我々を睥睨していた。
その姿は畏怖の象徴であり、神々しさの化身だった。
あの場にいた全員が、ドラゴンから目を離せなかった。
だからだろう。ドラゴンの足元にいる少女の存在に、誰も気づかなかった。
「あの、ごめんなさい。お腹が空いていて、少し食べ物を分けてほしいんです」
声の聞こえてきたほうへ目を向けると、褐色の肌をした少女がいた。
よく見てみると、手足は骨ばり、頬はこけていて、食事を取れていないのは明白だった。
「私にできることがあればお手伝いさせていただきます。ですのでどうか、どなたか食べ物を恵んでくださらないでしょうか」
彼女がか細い声を振り絞っても、誰も動こうとしなかった。
「彼は、私が心配でついてきただけで、皆さんに危害を加えることはありません」
彼女は、皆が自分の後ろにいるドラゴンを恐れているのだと思っていた。
だが、それは違う。私たちは、少なくとも私は、ドラゴンのことを"彼"と呼称する彼女自身のことを恐れていた。
そして、それ以上に興味が沸いた。
私は、彼女へと近づいた。
「こんにちは、お嬢さん。私はヨルム、商人です。まずは、あなたの名前を教えてくれませんか」
「私は、アリシアと言います」
私は、努めて彼女の眼だけを見るようにした。彼女のすぐそばにいるドラゴンを意識せず、彼女と一対一で対話しようとした。
今まででも、命の危機と隣り合わせの交渉はあった。剣の切っ先を突き付けられたことも、弾丸の入っている銃口を向けられたこともあった。そんな時であっても、私は商人であることをやめなかった。命を賭けるに値する取引を前にして、それを見逃すなどという機会損失を、商人としての魂が許さなかったからだ。
酒に弱いのは自覚していたのに、ついつい飲み過ぎてしまった。二日酔いのまま荷馬車の手綱を握る羽目になったのは、ザリアードの料理がどれも酒と合うようにできていたせいなのもあるが、一番は、ヴァヴィリアとの昔話に花が咲いてしまったせいだろう。
ヴァヴィリアのほうは平然としているあたり、ヒト族の虚弱性を呪わざるを得ない。
私は記憶が曖昧なのだが、ザリアードが言うには、私とヴァヴィリアはアリシアとの出会いについて大いに語らっていたらしい。ヴァヴィリアはアリシアのことを妹のように可愛がっているし、私はアリシアのおかげでそれまでよりも大きく稼げるようになっているから、酒で頭が回らないときの思い出話は彼女のことになりがちだった。
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当時、荷馬車で商品を運ぶ商売をしていた私が、村長の家で村長と価格交渉をしていたところに、村人の男が駆け込んできた。
「畑に化物が出た!」
男の青ざめた表情を見て、どうやら本当に何かあったようだ考えた村長は、私との価格交渉を一時中断し、その男に「その化物とやらのところに案内してくれ」と言って家から出ていった。
好奇心に駆られた私も、その頃から護衛として雇っていたザリアードとヴァヴィリアと共に続いていくと――
――そこには、ドラゴンがいた。
圧倒的な存在感を放ち、悠然と我々を睥睨していた。
その姿は畏怖の象徴であり、神々しさの化身だった。
あの場にいた全員が、ドラゴンから目を離せなかった。
だからだろう。ドラゴンの足元にいる少女の存在に、誰も気づかなかった。
「あの、ごめんなさい。お腹が空いていて、少し食べ物を分けてほしいんです」
声の聞こえてきたほうへ目を向けると、褐色の肌をした少女がいた。
よく見てみると、手足は骨ばり、頬はこけていて、食事を取れていないのは明白だった。
「私にできることがあればお手伝いさせていただきます。ですのでどうか、どなたか食べ物を恵んでくださらないでしょうか」
彼女がか細い声を振り絞っても、誰も動こうとしなかった。
「彼は、私が心配でついてきただけで、皆さんに危害を加えることはありません」
彼女は、皆が自分の後ろにいるドラゴンを恐れているのだと思っていた。
だが、それは違う。私たちは、少なくとも私は、ドラゴンのことを"彼"と呼称する彼女自身のことを恐れていた。
そして、それ以上に興味が沸いた。
私は、彼女へと近づいた。
「こんにちは、お嬢さん。私はヨルム、商人です。まずは、あなたの名前を教えてくれませんか」
「私は、アリシアと言います」
私は、努めて彼女の眼だけを見るようにした。彼女のすぐそばにいるドラゴンを意識せず、彼女と一対一で対話しようとした。
今まででも、命の危機と隣り合わせの交渉はあった。剣の切っ先を突き付けられたことも、弾丸の入っている銃口を向けられたこともあった。そんな時であっても、私は商人であることをやめなかった。命を賭けるに値する取引を前にして、それを見逃すなどという機会損失を、商人としての魂が許さなかったからだ。
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