4 / 60
4 麓の村にて
しおりを挟む
翌日、私たちはひとまず麓の村へ向かった。
ドラゴンに乗って下山しては目立ちすぎるので、登山時と同様に、リャマに乗って下山した。アリシアも、食べ物を貰いにいくためにリャマを保有していたため、私が徒歩で下山する必要はなかった。
この麓の村は、アリシアの小屋へ行くための中継地点として優秀過ぎる位置にある。そのため私は、この村で作られた毛皮やチーズを相場よりも高く買い取ることで、村民と友好的な関係を築いてきた。
ヒト族至上主義が常識とされるこの周辺の国々では、この村の人々のようなヒト亜族――白い肌でないヒト族――は差別の対象となっているため、ヒト族の私が村人たちと友好を深めるのは難しかったが、地道な対話で徐々に信頼を得られるようになった。自分たちの作った商品を相場よりかなり安い値段で買い叩かれるのが普通だった村人にとって、相場以上の値段で取引に応じる私の存在は、いい意味で異質だったのだろう。
「あ、ヨルムさん。お疲れさまです」
この村の私が借りている家で待っていたのは、私の雇っている護衛の一人、ザリアード。被雇用者の立場を弁えて敬語を使ってくれているが、私よりも年上の屈強なドワーフ族の男で、経験豊富な彼の助言にはよく助けられている。
もう一人の護衛の姿は見えないが、恐らくは自室で寝ているのだろう。
「おはよう、ザリアード。明日の朝にはこの村を出てウインスターズへ向かうから、準備しておいてくれ」
「わかりました」
明日の朝に出発できるようにすべく、今日中に村の人々との取引を済ませておく。
買い取った商品を荷馬車に載せ、私とアリシアが乗ってきたリャマを預かっておいてくれるよう依頼し終える頃には、すっかり日が暮れていた。
借りていた家に戻ると、ザリアードが食事の準備をしてくれていた。
私とアリシアが帰ってきたことに気づいたザリアードは、
「もうすぐできるので、ヴァヴィリアを呼んできてくれませんか?」
と言ってきたので、私は軽く手を上げて了承の意を示し、二階にあるヴァヴィリアの部屋をノックしにいく。
「ヴァヴィリア。そろそろ夕飯ができるから降りてきてくれ」
返事がない。寝ているのか、
「……あーい」
と思いきや、ドア越しにか細い声が聞こえてきた。寝起きなのだろう。
結局、ヴァヴィリアが降りてきたのは、食卓に食事が並び終えた頃だった。昼から飲んでいたのだろう。どう見ても酒が残っている表情だし、頭の上にある特徴的な獣の耳は垂れている。
「おはよう、ヴァヴィリア。お酒はほどほどにね」
「いやいや、こんなのは飲んだうちに入らないって。ねえ、ザリー」
「そうですよ。彼女は私の半分ほどしか飲んでいませんから」
いくらヴァヴィリアがの心身共に卓越したヤマネコ族の戦士だとしても、恐ろしいほど酒に強いドワーフ族であるザリアードの半分も飲酒している時点で、完全に飲み過ぎではある。
「明日の朝には出発なんだから、飲み過ぎないでよ」
そう言うアリシアは、両手に持つビールの入った陶製のジョッキのうち一つをヴァヴィリアに渡した。
言動不一致に思えるが、アリシアとしては、酔いやすいワインは飲まずにビールで済ませてくれということなのだろう。私もその意見に完全に同意だ。
「アリシアも言うようになったねぇ。初めて会った時の可愛らしい震え姿が懐かしいよ」
「あの時は、まだ何も知らなかったからね」
一口付けただけでもう酔っ払い特有の昔話を始めたヴァヴィリアの軽口を受け流しながら、アリシアは私にもビールを渡してくる。明日のことを考えると飲まないほうがいいのだろうが……まあ、少しくらいならいいか。
ドラゴンに乗って下山しては目立ちすぎるので、登山時と同様に、リャマに乗って下山した。アリシアも、食べ物を貰いにいくためにリャマを保有していたため、私が徒歩で下山する必要はなかった。
この麓の村は、アリシアの小屋へ行くための中継地点として優秀過ぎる位置にある。そのため私は、この村で作られた毛皮やチーズを相場よりも高く買い取ることで、村民と友好的な関係を築いてきた。
ヒト族至上主義が常識とされるこの周辺の国々では、この村の人々のようなヒト亜族――白い肌でないヒト族――は差別の対象となっているため、ヒト族の私が村人たちと友好を深めるのは難しかったが、地道な対話で徐々に信頼を得られるようになった。自分たちの作った商品を相場よりかなり安い値段で買い叩かれるのが普通だった村人にとって、相場以上の値段で取引に応じる私の存在は、いい意味で異質だったのだろう。
「あ、ヨルムさん。お疲れさまです」
この村の私が借りている家で待っていたのは、私の雇っている護衛の一人、ザリアード。被雇用者の立場を弁えて敬語を使ってくれているが、私よりも年上の屈強なドワーフ族の男で、経験豊富な彼の助言にはよく助けられている。
もう一人の護衛の姿は見えないが、恐らくは自室で寝ているのだろう。
「おはよう、ザリアード。明日の朝にはこの村を出てウインスターズへ向かうから、準備しておいてくれ」
「わかりました」
明日の朝に出発できるようにすべく、今日中に村の人々との取引を済ませておく。
買い取った商品を荷馬車に載せ、私とアリシアが乗ってきたリャマを預かっておいてくれるよう依頼し終える頃には、すっかり日が暮れていた。
借りていた家に戻ると、ザリアードが食事の準備をしてくれていた。
私とアリシアが帰ってきたことに気づいたザリアードは、
「もうすぐできるので、ヴァヴィリアを呼んできてくれませんか?」
と言ってきたので、私は軽く手を上げて了承の意を示し、二階にあるヴァヴィリアの部屋をノックしにいく。
「ヴァヴィリア。そろそろ夕飯ができるから降りてきてくれ」
返事がない。寝ているのか、
「……あーい」
と思いきや、ドア越しにか細い声が聞こえてきた。寝起きなのだろう。
結局、ヴァヴィリアが降りてきたのは、食卓に食事が並び終えた頃だった。昼から飲んでいたのだろう。どう見ても酒が残っている表情だし、頭の上にある特徴的な獣の耳は垂れている。
「おはよう、ヴァヴィリア。お酒はほどほどにね」
「いやいや、こんなのは飲んだうちに入らないって。ねえ、ザリー」
「そうですよ。彼女は私の半分ほどしか飲んでいませんから」
いくらヴァヴィリアがの心身共に卓越したヤマネコ族の戦士だとしても、恐ろしいほど酒に強いドワーフ族であるザリアードの半分も飲酒している時点で、完全に飲み過ぎではある。
「明日の朝には出発なんだから、飲み過ぎないでよ」
そう言うアリシアは、両手に持つビールの入った陶製のジョッキのうち一つをヴァヴィリアに渡した。
言動不一致に思えるが、アリシアとしては、酔いやすいワインは飲まずにビールで済ませてくれということなのだろう。私もその意見に完全に同意だ。
「アリシアも言うようになったねぇ。初めて会った時の可愛らしい震え姿が懐かしいよ」
「あの時は、まだ何も知らなかったからね」
一口付けただけでもう酔っ払い特有の昔話を始めたヴァヴィリアの軽口を受け流しながら、アリシアは私にもビールを渡してくる。明日のことを考えると飲まないほうがいいのだろうが……まあ、少しくらいならいいか。
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説
婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。
七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」
公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。
血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる