愛の在り処を求めて

天照てんてる

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第34話 ハートの手触り

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 数日後。隆二さんは無事レシピエント登録を済ませ、退院した。退院日は、偶然にも金曜日だった。私はもちろんすぐにでも隆二さんに会いたかったが、の久しぶりの配信をしたい気持ちが大きいだろうと考え、配信開始時刻である22時まで、LINEでの文字チャットだけで我慢することにした。

菅谷 ひかり『退院おめでとうございます。レシピエント登録、ありがとうございます』
網谷 隆二『ひかりちゃんがいなかったら、レシピエント登録できなかったと思うから、こちらこそありがとう』
菅谷 ひかり『いえ、そんな、大したことでは……それより、パソコン、いつ買いに行きます?』
網谷 隆二『土日は人混みでひかりちゃんが心配だし、月曜日の透析帰りでいいかな?』
菅谷 ひかり『じゃあ、アップルパイの時間に、待ち合わせしましょう?』

 これ以上は、あまり内容のあるやり取りはなかった。

 21時を迎える少し前、なんだかわからないが、スタンプを受信した。
 私の目のことを知っていてスタンプを送ってくるなんて、一体どういうつもりだろうか。私は少し悲しくなった。が、次に送られてきたメッセージは――

網谷 隆二『ひかりちゃん、スタンプ、見えるかな? これが、僕の気持ちだよ』

 ツールを使って、何度も何度も指先で。この形は……ハートマーク?
 私が悩んでいると、またメッセージが送られてきた。

網谷 隆二『ハートマークだよ。これが描けるぐらい、見てて。あっ、でも、配信の通知は出すから、枠にはできたら来てほしいな』

 あの……と書いて、消した。
 えっと、と書いて、消した。
 ごめんなさいと書いて、消した。

 私は、母親のところへ行き、メモ用紙と赤鉛筆を借り、言った。

「お母さん。私いまからハート描くから、見てて」

 母親は黙って見ていた。私が描いたハートがどんな形なのかは、まだわからない。だが、母親に「この紙の写真を撮って、網谷さんにLINEで送ってほしいの」と言った。母親は、「網谷隆二さん、でいいのね?」とだけ言い、シャッター音を鳴らし、送信ボタンを押す音をさせた。
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