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第23話 初めてのデート
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9時ぴったりに、マスターからLINEのメッセージが届いた。
喫茶ラムール『網谷ちゃん、ひかりちゃん。今日は11時から貸し切りにしてあるから、いらっしゃい。ま、うちなんていつも貸し切りみたいなものだけどね(^^ゞ』
菅谷 ひかり『了解です!』
網谷 隆二『遅れないように気を付けます』
――貸し切り? お祝い、ってことなのかな。なんだか恥ずかしいな。
とはいえ、クリスマスパーティをごちそうしてくれるとまで言ってくれているマスターに、馴れ初めを話さないわけにもいかないだろう。ましてや、網谷さんの義理の兄だということなら、なおさら。
***
私は最初に母親におねだりした空色のトレーナーを着て、新しく買ってもらった芥子色のマフラーを巻いて、白いダウンジャケットを羽織る。下は濃い青のジーンズに、白いスニーカー。靴紐は、蛍光色の黄色。
似合っているかどうかなんて、わからない。だけど、精一杯の、私のオシャレ。
***
10時半。私はもうラムールに着いてしまった。新しく設置されたスロープをのぼる。少し右に歩くと、自動ドアが開く音が聞こえ、静かでうるさい店内の音が漏れてくる。
「ひかりちゃん、いらっしゃい。網谷ちゃんったら、もうお待ちかね!」マスターはまたお茶目な声で言う。
まさか網谷さんを待たせてしまうとは思っていなかった私は驚いた。
「網谷さん……そんなに楽しみにしてくださってたんですか?」きっと今の私の顔は、真っ赤だろう。
「改めてデートだと思うと、落ち着いていられなくてさ。開店の9時半から、ずっといるよ」網谷さんの声も、なんだか恥ずかしそうだ。彼の顔を見たい、そう思った。
***
マスターから、透析患者にもぴったりだという塩分控えめの創作料理を振る舞われ、私たちは料理を食べながら、アップルパイが焼き上がりつつある甘い香りを楽しんでいた。
「食後のカフェ・マキアートとアップルパイ。ゆっくりしていってね」マスターはとても嬉しそうな声を出す。
網谷さんは緊張しているのか、何度も何度もトイレに行っていた。
***
そろそろ移動しよう、という話をし始めた頃、トイレから戻ってきた網谷さんが苦しそうな声で言った。
「血尿が出た、これから病院に行かないと」
私は、何もできそうにないが付き添うことにした。
***
診断は膀胱炎とのことで、2,3日入院になるようだった。透析患者は膀胱炎になりやすいのだそうだ。他にも破傷風や肺炎球菌などにも気を付けないといけないらしい。私は網谷さんの病気のことを知るためにパソコンを買い替えようと考えていたことを思い出した。
病室で網谷さんは私に自分のスマートフォンを渡し、ロック解除のパターンを教え、言った。
「お願いがあるんだ。内容はなんでもいい。入院している間、朝7時から30分間、ひかりちゃんが代わりに配信してくれないか?」
私は迷ったが、他ならぬ網谷さんの頼みだ。了承する以外の選択肢はなかった。
「本当になんでもいいんですね?」と念は押しておいたが、彼のスタイルで頑張ろう、そう考えていた。
喫茶ラムール『網谷ちゃん、ひかりちゃん。今日は11時から貸し切りにしてあるから、いらっしゃい。ま、うちなんていつも貸し切りみたいなものだけどね(^^ゞ』
菅谷 ひかり『了解です!』
網谷 隆二『遅れないように気を付けます』
――貸し切り? お祝い、ってことなのかな。なんだか恥ずかしいな。
とはいえ、クリスマスパーティをごちそうしてくれるとまで言ってくれているマスターに、馴れ初めを話さないわけにもいかないだろう。ましてや、網谷さんの義理の兄だということなら、なおさら。
***
私は最初に母親におねだりした空色のトレーナーを着て、新しく買ってもらった芥子色のマフラーを巻いて、白いダウンジャケットを羽織る。下は濃い青のジーンズに、白いスニーカー。靴紐は、蛍光色の黄色。
似合っているかどうかなんて、わからない。だけど、精一杯の、私のオシャレ。
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10時半。私はもうラムールに着いてしまった。新しく設置されたスロープをのぼる。少し右に歩くと、自動ドアが開く音が聞こえ、静かでうるさい店内の音が漏れてくる。
「ひかりちゃん、いらっしゃい。網谷ちゃんったら、もうお待ちかね!」マスターはまたお茶目な声で言う。
まさか網谷さんを待たせてしまうとは思っていなかった私は驚いた。
「網谷さん……そんなに楽しみにしてくださってたんですか?」きっと今の私の顔は、真っ赤だろう。
「改めてデートだと思うと、落ち着いていられなくてさ。開店の9時半から、ずっといるよ」網谷さんの声も、なんだか恥ずかしそうだ。彼の顔を見たい、そう思った。
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マスターから、透析患者にもぴったりだという塩分控えめの創作料理を振る舞われ、私たちは料理を食べながら、アップルパイが焼き上がりつつある甘い香りを楽しんでいた。
「食後のカフェ・マキアートとアップルパイ。ゆっくりしていってね」マスターはとても嬉しそうな声を出す。
網谷さんは緊張しているのか、何度も何度もトイレに行っていた。
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そろそろ移動しよう、という話をし始めた頃、トイレから戻ってきた網谷さんが苦しそうな声で言った。
「血尿が出た、これから病院に行かないと」
私は、何もできそうにないが付き添うことにした。
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診断は膀胱炎とのことで、2,3日入院になるようだった。透析患者は膀胱炎になりやすいのだそうだ。他にも破傷風や肺炎球菌などにも気を付けないといけないらしい。私は網谷さんの病気のことを知るためにパソコンを買い替えようと考えていたことを思い出した。
病室で網谷さんは私に自分のスマートフォンを渡し、ロック解除のパターンを教え、言った。
「お願いがあるんだ。内容はなんでもいい。入院している間、朝7時から30分間、ひかりちゃんが代わりに配信してくれないか?」
私は迷ったが、他ならぬ網谷さんの頼みだ。了承する以外の選択肢はなかった。
「本当になんでもいいんですね?」と念は押しておいたが、彼のスタイルで頑張ろう、そう考えていた。
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