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第4話 想像する色
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私はそれからまた、町内を白杖で歩く練習を始めた。
今日は、彼に『花ちゃん』と名付けてもらったことを気にして、花を買いに行った。花屋さんへ行き、おそらく白杖をついた客が来たことで戸惑っているであろう店員さんに「インスタ映え……? とか、そういうのをするような、可愛い鉢植えか、一輪挿しの花はありますか?」と言った。
店員さんは困っていたが、「うーん、これかな。でも、一輪だけでは売れないから」と、何だかわからない小さめの花束を売ってくれた。――いい香りがする。
***
家に帰って、母親にお願いする。
「これ、一輪だけアップで写真撮って、アイコン変更して?」
「ひかりちゃん。お母さん、あなたが出歩くようになったのは嬉しいけど……」
きっと母親は困った顔をしているのだろう。「いいから、お願い」とだけ言って、本当に撮れているのかもわからない写真をアイコンにして、彼の配信を待った。
***
翌朝。目を覚ますと、ちょうど彼の配信の通知が来たところだった。
慌てて彼の枠を開き、「アイコン変えました!」とコメントを打つ。
「花ちゃん、キレイなコスモスだね。似合ってるよ」彼はいつもの素敵な声で、言った。
――コスモスだったのか。母親は、何も言わなかったのに。知らなかっただけだろうか? 気遣ってくれたのだろうか?
朝の配信はいつも7時から30分間だけ。
今日はどうやら寒くなるらしい、そう彼の配信で知った私は、母親にまたおねだりをする。
「お母さん、今日はマフラーが欲しいんだけど。空色のトレーナーに合う色の」
小さくため息をついた母親だったが、「家にあるのでもいい? 白いマフラー」と、すぐに持ってきてくれた。「それと、今日は寒くなるからコート。グレーよ。下は青いジーンズね」と着替えを一式持ってきてくれたようだった。色の話を母親からされたのは、初めてかもしれない。
それから私は、そう言ってくれた母親の言葉を信じて、その服装で出かけることにした。
空色のトレーナー。白いマフラー。グレーのコート。青いジーンズ。……どんな格好なんだろう。想像してみても、わからない。似合っているといいんだけど……。
今日は、彼に『花ちゃん』と名付けてもらったことを気にして、花を買いに行った。花屋さんへ行き、おそらく白杖をついた客が来たことで戸惑っているであろう店員さんに「インスタ映え……? とか、そういうのをするような、可愛い鉢植えか、一輪挿しの花はありますか?」と言った。
店員さんは困っていたが、「うーん、これかな。でも、一輪だけでは売れないから」と、何だかわからない小さめの花束を売ってくれた。――いい香りがする。
***
家に帰って、母親にお願いする。
「これ、一輪だけアップで写真撮って、アイコン変更して?」
「ひかりちゃん。お母さん、あなたが出歩くようになったのは嬉しいけど……」
きっと母親は困った顔をしているのだろう。「いいから、お願い」とだけ言って、本当に撮れているのかもわからない写真をアイコンにして、彼の配信を待った。
***
翌朝。目を覚ますと、ちょうど彼の配信の通知が来たところだった。
慌てて彼の枠を開き、「アイコン変えました!」とコメントを打つ。
「花ちゃん、キレイなコスモスだね。似合ってるよ」彼はいつもの素敵な声で、言った。
――コスモスだったのか。母親は、何も言わなかったのに。知らなかっただけだろうか? 気遣ってくれたのだろうか?
朝の配信はいつも7時から30分間だけ。
今日はどうやら寒くなるらしい、そう彼の配信で知った私は、母親にまたおねだりをする。
「お母さん、今日はマフラーが欲しいんだけど。空色のトレーナーに合う色の」
小さくため息をついた母親だったが、「家にあるのでもいい? 白いマフラー」と、すぐに持ってきてくれた。「それと、今日は寒くなるからコート。グレーよ。下は青いジーンズね」と着替えを一式持ってきてくれたようだった。色の話を母親からされたのは、初めてかもしれない。
それから私は、そう言ってくれた母親の言葉を信じて、その服装で出かけることにした。
空色のトレーナー。白いマフラー。グレーのコート。青いジーンズ。……どんな格好なんだろう。想像してみても、わからない。似合っているといいんだけど……。
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