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メビウスの約束
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しおりを挟む仕事帰り、ふらりとバーに立ち寄った。
酒はやめていたはずだったけれど、どんな人間でも、どうしようもなく飲みたくなる日があるというものだ。
教師という仕事は、幼い頃からの夢だった。
夢が叶って、この仕事は夢見ていたような輝かしいことばかりじゃないのだと知った。
だからと言って、飲まなきゃやっていられないほど辛いことや、嫌なことがあったわけじゃない。
ただ、あまりにも代わり映えのない日常に、少し…退屈になっただけだ。
格好をつけてカウンターの席に座っても、そこまで酒に強いわけじゃない俺は、大して長居もせず暫くすれば店を出るだろう。
アルコールの匂いと、煙草の香り。
そういう…校舎の中では感じ得ない空気の中に少しでも浸れたら、それでいい。
不意に、懐かしい香りがして顔を上げた。
カウンターの向こうでは、若い男のバーテンダーがしきりにグラスを磨いている。
匂いの漂ってくる方向を見ても、そこにはただ雑然としたバーの雰囲気があるだけだった。
これは…昔吸っていた銘柄の、煙草の匂いだ。
きっと、誰か他の客が吸っているのだろう。
懐かしさと同時に、寂しさや虚しさ、いろんな感情が沸き起こる。
この香りは、あの頃のことを、あの日のことを俺に思い出させる。
大切で、忘れたくない記憶。
…だからこそ思い出さないために、俺は、違う銘柄の煙草を吸うようになった。
もう二度と戻ることの出来ない日々が、頭の中を巡り始める。
思考が遡っていく。
匂い、空気、肌の感覚、感情までもが鮮明に蘇る。
あれは、今から十年前の…三月。
三月十二日の、昼下がりのことだった。
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