天秤

Pomu

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マンションのエントランスが見える位置に車を停めて暫く待つと、汐が待っていた…でも、きっと本当は見たくなかったものが、姿を現した。

あいつの腕にもたれかかるようにして一緒に歩いているのは、汐とは雰囲気の違う、派手な格好をした若い男。

汐は、二人がエントランスに入り、乗り込んだエレベーターのドアが閉まるまで、ただじっと見つめていた。

悲しんでいるようでも、怒っているようでもなく、二人の姿が完全に見えなくなると、ふっと諦めたように小さく息を吐いて笑った。





「…わかってはいたけど、やっぱり…キツイよね」



汐の声が、少しずつ涙声に変わっていく。




「それでも、女だったら…」



わかってる。

あいつの相手が女だったら、汐はきっと、また笑って許したんだろう。

少なくともこんなふうに、笑いながら泣いたりはしなかった。







「……何が、ダメだったんだろうね」



確かなことは、俺にはわからない。

でもきっと…汐は、あいつと出会っちゃいけなかった。

あいつに恋をしたら、ダメだったんだ。





「汐…」

「…なに?」

「ちょっと、俺に付き合ってくれる?」

「……え…?」



戸惑っている汐に、行き先は告げずに車を走らせた。





特に何をしようとしたわけでもない。

ただ、今の汐を、一人の家に帰すことは出来なかった。 
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