4 / 8
4
しおりを挟む
マンションのエントランスが見える位置に車を停めて暫く待つと、汐が待っていた…でも、きっと本当は見たくなかったものが、姿を現した。
あいつの腕にもたれかかるようにして一緒に歩いているのは、汐とは雰囲気の違う、派手な格好をした若い男。
汐は、二人がエントランスに入り、乗り込んだエレベーターのドアが閉まるまで、ただじっと見つめていた。
悲しんでいるようでも、怒っているようでもなく、二人の姿が完全に見えなくなると、ふっと諦めたように小さく息を吐いて笑った。
「…わかってはいたけど、やっぱり…キツイよね」
汐の声が、少しずつ涙声に変わっていく。
「それでも、女だったら…」
わかってる。
あいつの相手が女だったら、汐はきっと、また笑って許したんだろう。
少なくともこんなふうに、笑いながら泣いたりはしなかった。
「……何が、ダメだったんだろうね」
確かなことは、俺にはわからない。
でもきっと…汐は、あいつと出会っちゃいけなかった。
あいつに恋をしたら、ダメだったんだ。
「汐…」
「…なに?」
「ちょっと、俺に付き合ってくれる?」
「……え…?」
戸惑っている汐に、行き先は告げずに車を走らせた。
特に何をしようとしたわけでもない。
ただ、今の汐を、一人の家に帰すことは出来なかった。
あいつの腕にもたれかかるようにして一緒に歩いているのは、汐とは雰囲気の違う、派手な格好をした若い男。
汐は、二人がエントランスに入り、乗り込んだエレベーターのドアが閉まるまで、ただじっと見つめていた。
悲しんでいるようでも、怒っているようでもなく、二人の姿が完全に見えなくなると、ふっと諦めたように小さく息を吐いて笑った。
「…わかってはいたけど、やっぱり…キツイよね」
汐の声が、少しずつ涙声に変わっていく。
「それでも、女だったら…」
わかってる。
あいつの相手が女だったら、汐はきっと、また笑って許したんだろう。
少なくともこんなふうに、笑いながら泣いたりはしなかった。
「……何が、ダメだったんだろうね」
確かなことは、俺にはわからない。
でもきっと…汐は、あいつと出会っちゃいけなかった。
あいつに恋をしたら、ダメだったんだ。
「汐…」
「…なに?」
「ちょっと、俺に付き合ってくれる?」
「……え…?」
戸惑っている汐に、行き先は告げずに車を走らせた。
特に何をしようとしたわけでもない。
ただ、今の汐を、一人の家に帰すことは出来なかった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
多分前世から続いているふたりの追いかけっこ
雨宮里玖
BL
執着ヤバめの美形攻め×絆されノンケ受け
《あらすじ》
高校に入って初日から桐野がやたらと蒼井に迫ってくる。うわ、こいつヤバい奴だ。関わってはいけないと蒼井は逃げる——。
桐野柊(17)高校三年生。風紀委員。芸能人。
蒼井(15)高校一年生。あだ名『アオ』。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
夏の扉を開けるとき
萩尾雅縁
BL
「霧のはし 虹のたもとで 2nd season」
アルビーの留学を控えた二か月間の夏物語。
僕の心はきみには見えない――。
やっと通じ合えたと思ったのに――。
思いがけない闖入者に平穏を乱され、冷静ではいられないアルビー。
不可思議で傍若無人、何やら訳アリなコウの友人たちに振り回され、断ち切れない過去のしがらみが浮かび上がる。
夢と現を両手に掬い、境界線を綱渡りする。
アルビーの心に映る万華鏡のように脆く、危うい世界が広がる――。
*****
コウからアルビーへ一人称視点が切り替わっていますが、続編として内容は続いています。独立した作品としては読めませんので、「霧のはし 虹のたもとで」からお読み下さい。
注・精神疾患に関する記述があります。ご不快に感じられる面があるかもしれません。
(番外編「憂鬱な朝」をプロローグとして挿入しています)
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる