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捜査最終日

99. 十一日目(謹慎三日)、元部下との再会③

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 恩田は静観を決めていたが二人の交渉が終わったのを見て御役御免になったと
判断してリング付近から移動しようとする。リングに対面する壁には、中国製の
武器がズラリと飾られており、青龍刀が視界に入っていた。
「あなたが伝説の暴君だった事は分かりました。俺に楽勝だったからって良い気
になってないですよね? だって10番目の実力ですから四天王は強いですよ!」
 ようやく、立会人から解放されると思ってただけに自称幹部男に対して何、余
計な事してくれてんだよと泣きたい気持ちになっていた。
「気絶から回復したら、またビッグマウスかっ。本当に学習能力が無い男だな。
お前にガタガタ言われる筋合いは無いんだよ」
 法海侯は辮髪の先端近くから隠していた胡桃くるみを取り出して左手の掌の中央に置
いて両指を交差させるように右手を重ねたのを確認すると思いっきり力を入れて
胡桃の殻を粉々に粉砕した。
「ペキベキッペギベキッ」
「久しぶりに、その音を聞きましたよ。懐かし過ぎて感動すらしますね。怒りが
MAXに達した時を表現する行動ですもんね。胡桃が出た瞬間に全速力で逃げな
いと話にならないレベルではありますが10番クラスでは、それすらも知らない
よなー」
 ラドンがベラベラとお喋りしている時にリング上では法海侯によって既に大の
字で倒れていた自称幹部男の前髪を引っ掴んで頭だけ持ち上げている状態だった。
右手には壁に飾られていた青龍刀が握られており、只ならぬ緊張感が漂っていた。
「負けたお前が俺に意見を言うなんてのは10年早い。一回、自分の立ち位置を
確認して来い!!」
 生意気小僧の頭をマットに打ち付けると同時に両手で柄を掴んで顔面近くに深
く突き刺していた。左耳の耳たぶに触れるか触れないかの絶妙な部分ではあった
が男は下半身から失禁しており、口から泡も吹き出していた。
「殺さなくたって、お前にトラウマを植え付ける事くらいは造作もない事だって
事をしっかりと理解してくれよ」
「そうこなくては、やっぱり面白くないですよね~。あなたの愛刀である青龍刀
は、あなたが手にして初めて輝きを増すんですから」
「知った様な口振りは気に食わんな。俺の当て付けだとは思うが、お前の黒い道
着は似合ってないからな。俺はこれで帰らせて貰う」
 法海侯が帰った後、一部始終を観ていた恩田にラドンが声を掛けた。
「藤原組のプレスマンと呼ばれている恩田さんですね。あの人は当時下っ端だっ
た君を覚えていませんでしたが私は写真でも一度見たら忘れません。記憶力には
絶対の自信があります」
「バレてましたか……」
「何、別に責める訳ではありません。蒼乃さんに”四天王の一人でも敗れる事が
あったなら”協力を要請したいと伝えて下さい」
「伝えるのは伝えますが引き受けるとは思えませんけど……」
「確かに自分より圧倒的に強い男と戦う愚直なファイターには、見えませんね。
ですが引き受けないと言ったら藤原組長を拷問に掛けて動画にUPしますよ!」
 恩田はラドンの口から飛び出した信じられない内容の言葉を聞いて目を開いた
ままで抗議する。
「同業者の私が言うのも何ですが、かなり汚いやり口だと思いますけどねっ」
「意外だな~。汚いやり口がヤクザのやり口じゃないのかね? 蒼乃は藤原組長
に拾ってくれた恩義がある。乱心したとしたなら自分の手で始末するだろうが、
老いぼれてない状態で理不尽な目に遭わされてるのを黙って指を咥えて見ている
男では無い筈だ」
「そうですか。そこまで御存知なら、きっと二つ返事で良い回答が出せそうです
ね。さっきの青龍刀を観て私も少しチビッてズボンを湿らせたので帰って宜しい
でしょうか?」
「話は後少しで済む。どんな汚い手を使っても勝つ事が全てだと言うのが俺が裏
社会を生き抜いてきて辿り着いた考え方だ」
「蒼乃さんに足らないのは卑怯なやり方って事ですか!?」
「まぁ。そういう事だ。手錠、拳銃、手榴弾、ダイナマイト、スタンガン等が欲
しければ何でも用意する。もちろん派手な音がするロケットランチャーは用意す
るつもりはないがな。ハッハッハッ」
 豪快な笑い声を披露したラドンは話し終えた事を告げる表情をした後、別れの
手振りを見せながら側近と共に役に立たない部下は放置したままで恩田の視界か
ら消えて行った。
 
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