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捜査最終日

82. 十一日目(謹慎三日)、山城の告白①

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 後藤が最後のお茶を飲み干してコクンと頷くのを見ると山城は、
遠い目をしながら話し始めた。
「木島課長が自殺で亡くなった事は新聞記事で知りましたが三日前
に会っていた私からすると、とても自殺するような精神状態には、
感じられませんでしたので何かの間違いか事件に巻き込まれた可能
性の方を疑っていました。でも自殺から何の進展もないまま、今日
まで過ぎてしまったんですよ」
「何か心当たりでもあるんでしょうか?」
「それに関してはお恥ずかしい話、根拠となるような物は何もあり
ませんが長年教師を勤めていた観察眼みたいなものが自殺では無い
と告げているように感じました」
「つまり、第六感って事ですか」
「そうなります。しかし、教師の見解だけでなく、当時、私の意見
に動揺した者がいました。それを垣間見た時、この自殺が只事では
ないと確信に変わりました」
「その人物って言うのは誰なんですか? 差し支えない範囲で良い
ので教えて下さい」
「えぇ、私の教え子でもあり、警察関係者でもある人物で名前は、
室木真司と言います」
「警察関係と言っても広いですが……」
 情報は出来るだけ多い事に越した事は無いので受け身に回らずに
聞こうという気持ちと図々しいという気持ちがゴチャ混ぜになって
歯切れの悪い口調になってしまう。内心はどこまで情報を開示して
くれるかは掛けだったが後悔だけはしたくない行動の表れだった。
「そうですね。広いですよね。具体的には鑑識官になります」
「えぇ!? 鑑識の方が出て来るとは意外でした」
「実は黒沢と室木は同級生なんですよ」
「それじゃぁ、山城さんが担任をしていたと言う事ですか?」
「厳密に言うと副担任を一年だけなんですけどね」
「そこから、どう話が繋がるんでしょうか?」
 山城は額から流れる汗を丁寧にハンカチで押さえながら逆手で、
禿げ掛かった頭部を撫でて深呼吸をすると意を決して話し始める。
「事件が起こった時に三日前に会った話をしたくて真っ先に室木に
電話しましたが、その時に”その事は何も言わずに伏せて欲しい”と
懇願されました。謝礼は300万の現金で渡すとも言われて当時、
妻と上手くいかない状態でして別居を考えていたんですよ。頭金が
目の前にあると思うと罪の意識は感じませんでした。追い込まれて
いたんだと思います。その話に飛び付いて刑事さんに知らないと嘘
の報告をしましたので事件の真相は分からず仕舞いとなりました」
「そんな事があったんですか……」
「その後、室木と直接会って問い詰めたんです。彼は苦悶の表情を
浮かべて、しばらく、その話は勘弁して欲しいって言って来ました。
その時、金を受け取ってしまった私には、それ以上、知る権利が無
い事を理解しました。誰にも打ち明けられない内容なので罪の意識
は年々募る一方でして髪の毛が多く抜けるようになりました。今頃
、自殺では無くて他殺の線が浮上してくれば警察の面子は丸つぶれ
ですよね?」
「……」
 後藤は気の利いた言葉が思い浮かばずに静観する事しかできなか
ったが心の中で、ある一つの考えが浮かび上がった。
(そもそも単独犯では無かったという事か?) 
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