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捜査開始

40. 十日目(謹慎二日)、花瓶の目利き①

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 隣の部屋で聞いていた後藤は自分の耳へ聞こえてきた内容に耳を疑わずには、
要られなかった。心が鉛に引っ張られるような衝撃を受けて、今すぐ飛び出して
真意を問いただしたい衝動に駆られていた。
(一体、私は誰を信じれば良いんだ……)

「所で調べ物は終わりましたか?」
 聡は強い口調で質問を浴びせると流石に態度が悪かった事に気付き慌てて敬語
に戻す黒沢。
「少し酔いが回ってしまって不適切な言葉を口にしてしまいました。面目ありま
せん。最後に一つだけ、差し支えなかったらで結構なのですが、この花瓶の値段
をお聞きしても宜しいですか?」
 子供の頃、父親との思い出と言えば、よく連れられて行った骨董品を取り扱っ
ている古汚い店での品定めだった。亡くなった父親に目利きは無かったが一人息
子である黒沢にはある程度の目利きが身に付くようになっていた。その目利きが
酔っていても反応したのだ。

 目の前にある花瓶は、高さ三十センチ程で全体が朱色で覆われており、中央に
孔雀の絵が繊細なタッチで描かれていた。羽根は閉じているものの尻尾の羽根が
煌びやかで見るものを魅了する力を放っていた。
「花瓶に興味がおありですか?」
「少しだけですよ。少しだけ」
 左手を頭の後ろに当てて照れ笑いを浮かべる。かなり酔っているので照れた時
に浮かぶ赤みかの判断ができなかった。
「金額が購入価格と一致すれば差し上げますよ」
「本当ですか!?」  
「男に二言はありません」
 黒沢は、掛け軸が微妙にズレていることにも全く気付かず、花瓶の鑑定に没頭
し始める。正面、左右の側面。最後に背面を見てから正面の絵をじっと観察する。
この間に聡は掛け軸のズレを直して元通りにする。目くらましの意味で捜査打ち
切り後に購入していたのだが見事に効果を発揮した事になる。

「ヒントは頂けませんか?」
「流石に何百万の単位は購入できません」
「成程。そうですよね」
 黒沢の眼光が鋭くなり、不適な笑みを浮かべ始める。
「最後に五十万より上か下かだけでも教えて貰えないですか?」
「参ったな。必至に頼まれると断れない性格なんですよね~」
「最後の質問ですから」
 頭を深く下げる黒沢のペースに乗せられる。
「分かりました。そういう事なら下です」
 ある程度の額に絞り込むと微調整に入る為、再度、背景の色使いと絵柄の色彩
を見比べていく。聡は頭の中に購入額を思い浮かべて、この男にまともな鑑定が
出来るのかを確かめてみたい気持ちと同時に一刻も早く茶番を終わらせたい気持
ちが同居していた。本当ならば後藤に弟が生活していた部屋を調べて貰いたかっ
たのだから。身内や関係者では気付かない見落としがあるかもしれないのだ。
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