上 下
35 / 136
捜査開始

35. 九日目(謹慎初日)、目的地の公園にて 

しおりを挟む
 時刻を確認すると午後九時四十五分を過ぎていた。空になったグラスをシンク
へ片付けて出掛ける準備を始める。下着姿になると紺のTシャツに、デニムの短
パンと運動靴を選択して着替えを終えた。

 外に出ると周りを警戒しながら裏道に入り、最寄りの駅までジョギングをする。
地下鉄に乗って目的地の公園に着いた頃には脇の部分が、うっすらと滲んでいた。
昔から足の速さには、自信があったので格闘技の習得には手を抜いていたのだ。
それに相手を一方的に叩きのめす手段も好きでは無かったのが理由だ。

 夜の公園はカップルや不審者たちが占領していた。まだ人気が少なくなるには
早いと判断して芝生で横になる後藤。綾部の説得を振り払った手前、引くに引け
ない事態を招いてしまった。本当にこれで良かったのか自問自答を繰り返して、
夜空を眺め続ける。今日は半月だった。二時間もすると日付が替わり、零時五分
を過ぎていた。辺りに人影はない。

 後藤は公衆トイレに移動すると男性用へ足を踏み入れて中を念入りに調べ始め
る。大の個室の壁に書かれた伝言のチェックやタンクの蓋を外しての中身の確認
作業。壁や床に外れる箇所が無いかの確認を重点的に行った。

 十五分が経過した事が分かるとTシャツは汗でピッタリと肌に張り付いていた。
気持ちが悪くなったのでTシャツを脱ぐと鍛え上げられた筋肉が姿を現す。大胸
筋の膨らみが常人のそれとは大きく異なっていた。洗面台で染み込んだ汗を数回
に分けて搾り出すと喉が渇いていた事に気付き、休憩も兼ねて自販機がある所へ
と移動する。もちろん、服は着ている状態だ。夜中に上半身裸の男が通報されて
後で刑事だと分かったとしたら、週刊誌の格好の餌食となるであろう。そんな物
を提供するつもりは更々なかったので、この時点では理性が残っていると判断で
きた。

 ベンチに座り、自販機で買ったスポーツ飲料で、喉を潤すと反対側の女性用の
トイレを観察する。
「あれ? 一つだけ照明が暗い気がする」
 異なる照明の位置を瞬時に記憶すると忍び足で中へと侵入し個室へ入り鍵を掛
けた。
(女性用トイレで誰かに目撃されでもしたら刑事を続けられないかもしれない)
 そんな想いが頭を過ぎりながらも真相へと続くであろう探究心が勝り、タンク
の上に足をかけて体を押し上げ、便器を囲う外壁の囲いの最上部に左右の足を乗
せる。人が乗ることを想定していない為、ミシミシと音が漏れ始めると急いで、
天井に着いている電球を外して中を触ってみる。
(何かあるぞ!)
 長方形の薄い金属板と思われる物が接着剤で固定されているのが判り、試しに
引っ張ると簡単に剥がれて右の掌に納まる。と同時に足元がグラつき始めたので
急いで電球を元に戻して通路側へと身体を放り出した。
「グキッ」
 変な体勢で踏み出した為、バランスを崩して着地する際に左足を捻ってしまっ
たのだ。そもそも乗る事を前提に作られた部分では無いので乗ったまま作業をし
ている方が完全に悪い事を理解している後藤だった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

透影の紅 ~悪魔が愛した少女と疑惑のアルカナ~

ぽんぽこ@書籍発売中!!
ホラー
【8秒で分かるあらすじ】 鋏を持った女に影を奪われ、八日後に死ぬ運命となった少年少女たちが、解呪のキーとなる本を探す物語。✂ (º∀º) 📓 【あらすじ】 日本有数の占い師集団、カレイドスコープの代表が殺された。 容疑者は代表の妻である日々子という女。 彼女は一冊の黒い本を持ち、次なる標的を狙う。 市立河口高校に通う高校一年生、白鳥悠真(しらとりゆうま)。 彼には、とある悩みがあった。 ――女心が分からない。 それが原因なのか、彼女である星奈(せいな)が最近、冷たいのだ。 苦労して付き合ったばかり。別れたくない悠真は幼馴染である紅莉(あかり)に週末、相談に乗ってもらうことにした。 しかしその日の帰り道。 悠真は恐ろしい見た目をした女に「本を寄越せ」と迫られ、ショックで気絶してしまう。 その後意識を取り戻すが、彼の隣りには何故か紅莉の姿があった。 鏡の中の彼から影が消えており、焦る悠真。 何か事情を知っている様子の紅莉は「このままだと八日後に死ぬ」と悠真に告げる。 助かるためには、タイムリミットまでに【悪魔の愛読書】と呼ばれる六冊の本を全て集めるか、元凶の女を見つけ出すしかない。 仕方なく紅莉と共に本を探すことにした悠真だったが――? 【透影】とかげ、すきかげ。物の隙間や薄い物を通して見える姿や形。 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』 表紙イラスト/イトノコ(@misokooekaki)様より

【本当にあった怖い話】

ねこぽて
ホラー
※実話怪談や本当にあった怖い話など、 取材や実体験を元に構成されております。 【ご朗読について】 申請などは特に必要ありませんが、 引用元への記載をお願い致します。

サクッと読める♪短めの意味がわかると怖い話

レオン
ホラー
サクッとお手軽に読めちゃう意味がわかると怖い話集です! 前作オリジナル!(な、はず!) 思い付いたらどんどん更新します!

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

本当にあった怖い話

邪神 白猫
ホラー
リスナーさんや読者の方から聞いた体験談【本当にあった怖い話】を基にして書いたオムニバスになります。 完結としますが、体験談が追加され次第更新します。 LINEオプチャにて、体験談募集中✨ あなたの体験談、投稿してみませんか? 投稿された体験談は、YouTubeにて朗読させて頂く場合があります。 【邪神白猫】で検索してみてね🐱 ↓YouTubeにて、朗読中(コピペで飛んでください) https://youtube.com/@yuachanRio ※登場する施設名や人物名などは全て架空です。

処理中です...