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第一章:始まりの世界 ”準備運動編” 

♯62.かけっこバトル⑭ 助っ人の交渉④

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「やっぱり気になるよな。俺も間近で見るまでは信じら
れなかった。お前はもっと信じられないとは思うがな」
「もったい付けずに教えろよ!」
「堀部だよ」
「堀部って”堀部けんた”の事か?」
 予想外の名前が出た事で混乱する陸城。
「そうだよ。その堀部だ」
「授業が終わると真っ先に帰るアイツが何で速いんだ?」
「あいつの家の事情で部活をやれる環境が整っていない
んだよ。自転車を持っていないと聞いた事がある」
「走って帰ってるのか?」
「そうみたいだ。弟達の遊び相手をするために全速力で
坂を下りるみたいだ」
「歩くだけでもコワい”あの急な坂道”を全速力だと!?
 頭のブレーキがこわれてるのか?」
「ハヤテ。それは、いくらなんでも言いすぎだろ。アイ
ツにはアイツの事情があるんだし……」
「そうだな。一瞬、冷静さを失うところだった」

「そうだ。聞いたところによると早朝の牛乳配達で足腰
もきたえられてるみたいだ。太ももが異常に太いしな」
「マンガみたいな話だな」
「あぁ。でも実際に速いぞ」
「タイムは?」
「100m走のタイムは14秒8だよ!」
「なんだと!? 俺のベストと一秒しか差がないのかよ」
「しかも軽く走ってのタイムだそうだ」
「そういう事は早く言えよ。分かった。お前の要件を引
き受けるよっ」
(アイツ、そんなに足が速かったのかよ……)
 止めの一言で、陸城の決意が固まる表情になったのを
確認した牧村だった。
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