少年と銀貨 第一章：始まりの世界

第一章：始まりの世界 ”チーム対抗戦”

＃１６５．チーム対抗戦の始まり”７０” バトル開始３ 続、決着後の攻防

「この勝負もらったなっ」
　投げている間、思わず本音がもれる森元。
「そいつは、どうかな？」
　今の今まで沈黙していた哀川が久々に口を開いた。
と同時に自身の身体にひねりを加える。柔道経験者
なら並外れた運動神経の持ち主だという事が一目で
判断できる動きだ。

「哀川君って本当に空手しかやってないのか？」
　心に思っていた事が思わず口に出てしまった明石。
彼が高校生になったら勢力図が一気に変わりそうだ
とも思い、近々バームクーヘンを持参して仲良くな
ろうという考えも頭に浮かんだのだった。
　
　ギャラリーだけでなく投げた本人である森元にも
本来の動きとは正反対の態勢のまま落下してくる男
のズバ抜けた身体能力の高さに圧倒されていたが時
すでに遅しで背中から落ちるはずの相手が両足で、
着地を決めると、あろう事か頭突きをかまされて、
片ひざが崩れ落ちた。
「悪い、未だ着地のコントロールが効かなくて力み
過ぎて、お前の額に頭がぶつかっちまった」
　哀川は、投げられた事も感じさせない堂々とした
姿勢で話し始める。
「さ、最近の空手家は猫柳まで習得してんのか？」
　額を思いっきり押さえながらも興味本位で質問す
る森元。
「俺の場合は特例だ。父親の知り合いに柔道家の猛
者が居て受け身の練習は嫌という程やらされてね。
今じゃ自然と身体が動くようになってるって訳さ。
アスファルトに投げられたら、まともに動けなくな
るからって事で護身術とも言えるかな」
「お前、案外、努力家だったんだなっ」
　同学年で猫柳を使える者は一人もいない。全国な
ら数人はいるかもしれないが只の空手バカだと思っ
ていたので尊敬の眼差しに変わる森元だった。