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第一章:始まりの世界 ”自己啓発編”

62.白衣の天使!? 現る①

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「噴水状態になってんだから、間違いなく先公せんこうが来ると
思う。そん時、お前は何も見て無かったって言うんだぞ」
「うん」
「俺も大人には何も見てなかったって言うよ」
「大事な事忘れてる気がするけどツルハシは何処に隠し
てあったの?」
「イケね! あまりの痛さに忘れてた。体育倉庫の中に
使われなくなった跳び箱があって、その中に隠してある」
「僕、非力だから持ってけないよ」
「あれぇー。命の次に大切な学ランとボンタンを派手に
よごして何してるのかな?」
 白衣はくいを着た先生が聴診器ちょうしんきを上着のポケットからはみ出
させながらグッドタイミングで現れる。真っ赤なハイヒ
ールをいているのが目に止まると明石は視線を上の方
に移動させて顔を認識しようとして髪型をサーチする。

 名古屋嬢なごやじょうの髪形として有名になったとされる肩下部分
を大きく内巻きにした巻き髪。通称”名古屋き”をほどこ
た女性だと分かると安堵あんどの表情を受かべて警戒心を解く。
霞実かすみちゃん。助かる」
「未だ。引き受けるとも何とも言ってないんだけど……」 
 両手で合掌がっしょうして必死に、お願いする明石。
「見た目は150㎝以下だけど大人な保険医の先生なん
だから、ちゃん付けは保険室だけで、お願いねっ」
「26歳ですもんね。了解です。以後気を付けます!」
 明石は髪型フェチでもあるので中等部専属の保険医で
ある霞実の個人情報を後輩から入手しているのだった。
「今日は素直で大変宜しい。これは元の場所に返してお
くわ」
 左手で軽々とツルハシを持ち上げると手洗い場の蛇口
の損傷部分を見て”じれて切れたような”印象を受けた。
観察眼は職業病とも言えるが明石の容態ようだいもきっちりと確
認するべくハンカチできつく結ばれた左手を見ながら、
右奥にあった銀貨に触れて頭上に持ち上げながら率直そっちょく
感想をつぶやいた。
「それにしても傷一つない綺麗な保存状態ね!」
 男二人は奇跡的な出来事にアイコンタクト無しで黙っ
て見つめ合っていた。



*名古屋巻き=街角の綺麗なお姉さんをイメージした髪
型として考案されたヘア デザイン。

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