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「ゆずさん。これって・・・」
「えっと、ここはね・・・」
ところ変わって午前中の別荘。
受験生2人を抱えた今年は、1日の予定の中にきっちりと勉強の時間が組み込まれていた。
今は片付けの終わったダイニングテーブルで、結衣と彩乃がゆず先生をはさんで受験勉強をしている。
少し離れたところには大和がいて、テーブルの反対側の一番端では鷹文がノートパソコンを傍に置きつつ万年筆でノートに書き込みしていた。

「あ~、そうだったぁ・・・ありがとうございます!」
わかりやすく丁寧なゆずの説明で、結衣の疑問はすんなり解決された。
「ううん。わからないことあったらなんでも聞いてね」
優しいゆずの言葉に目をうるうるさせる結衣。
「ど、どうしたの?大丈夫、結衣ちゃん」
結衣の変化に気付いたゆずが、心配そうに尋ねた。
「ゆずさんがお姉ちゃんだったらよかった・・・」
結衣の心の呟きが漏れ出てきた。
「そそそ、そう?」
突然のお姉ちゃんだったらよかった宣言に、ゆずはにやけそうになるのを必死に隠した。
「お姉ちゃんに勉強見てもらえるなんて、なんだか夢みたい・・・」
「ゆずさん、私もここ、わからないんですけど」
うっとりゆずを見つめる結衣に、彩乃がわざとらしく割り込んできた。
「彩乃は彩香さんに見て貰えばいいじゃない」
結衣が、ゆずを取られないようにと腕をからめた。
「えー、お姉ちゃんすぐ自分で調べろって言うんだもぉん・・・いいですよねゆずお姉ちゃん」
さりげなく上目遣いをする彩乃。
「も、もちろんよ。わからないの、どこ?」
ゆずは彩乃のノートに視線を落とした。
「あーん、ゆずお姉ちゃあん」
駄々をこねながら腕を引く結衣。
「だだ、大丈夫だよ。どこにもいかないから」
ゆずのにやけが止まらない。
「ほんとに?すぐ終わる?」
負けずに上目遣いになる結衣。
「すす、すぐだよ・・・それで彩乃ちゃん?」
「えっとお、こことこことこことここがわかりません」
彩乃は笑顔でノートを指差した。
「まずここは・・・」
結衣はずっと腕を絡めて唇を尖らせたまま2人を見ている。
と、そこに彩香がやってきた。
「こら2人とも、ゆずで遊ばない!」
「うわあっ!ラスボス来た!」
彩乃と結衣はパッとゆずから離れた。
「妹って割とあざといから気をつけてね、ゆず」
それだけ言うと、彩香はキッチンに向かった。
「う、うん・・・」
頷きながらも、お姉ちゃん扱いされて嬉しいゆずだった。

「な、なあゆずちゃん。俺もここわかんないんだけど・・・」
受験生たちが静かになったところで、今度は大和が教科書とノートを持ってゆずの後ろにやってきた。
「どどど、どぎょ?」
不意の大和の出現に、ゆずは思いっきりかんだ。
「ここなんだけどさ・・・」
彩乃とゆずの間に大和が割り込んできた。
ち、ちかい・・・
ゆずの心拍数がさらに跳ね上がった。
「はぁ・・・ふぅわぁ・・・」
ゆずの顔はすでに真っ赤だ。
「ゆずさん、大丈夫?」
「ほんとだ。顔真っ赤」
「だだだ、だいじょう・・・びゅ」
ではないようだ。
「ふみにぃ!」
「なんだ、結衣」
「大和くんの見てあげてよ」
結衣に呼ばれて視線を向けた鷹文は、すぐに状況を理解した。
「ああ、わかった。大和、こっちこい」
「すまん・・・」
鷹文が執筆中だとわかっていた大和は、本当に申し訳なさそうな顔で大きなテーブルの奥の席に移動した。
「明衣はいないんだな?」
「明衣?朝食後の昼寝だとさ」
さすがの大和も呆れ顔だ。
「あいつ・・・なあ、彩香」
「明衣起こす?」
彩香はいつの間にか鷹文の横にいて、飲み物の入ったグラスを置いていた。
「悪いけど頼む。1人ずつじゃ効率悪い。こいつらわからないとこ、だいたい一緒だし」
「ちょっと待っててね」
彩香は明衣を起こしに行った。
「大和、やるぞ」
「あ、ああ・・・」
相変わらず阿吽の呼吸だな、と思わずにはいられない大和だった。
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