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明衣と舞菜が満足したところで撮影が再開し、その後は順調に進んでいった。
「彩香ちゃん、そっちはどう?」
「はい、メモの分は終わりました」
「なら、こっちはもういいわ。ゆずちゃんと撮ってらっしゃい」
「ありがとうございます!ゆず、お待たせ」
「うん。どこで撮る?・・・」
彩香はゆずを連れて防波堤の端の方へ行った。
「彩香、大丈夫かなぁ」
どんどん歩いていく彩香を、明衣が心配そうに見ていた。
「ああ言う時は大丈夫みたいですよ。端によるの撮られる人だし」
「そっか。彩乃ちゃん本当よく分かってるね」
「お姉ちゃんのことだったら大体」とニヤリと笑った。
彩香マニアの彩乃は、他にも誰も知らない彩香の秘密をたくさん知っているのだった。
いっしょに歩きながら、彩香はゆずにいろいろと話しかけていた。
「・・・ゆず、今日のゆずはね、初めて男の子とデートに来てるんだ。大磯の駅を降りてちょっと迷ったけど、やっと港までついて少しはしゃいでるの。想像してみて」
彩香に言われるまま『初めてのデート』を想像したゆずは、どんどんほおを赤らめていった。
「あーごめん、ストップ!
うんとね・・・グループデートにしよっか」
このままではゆずがヒートアップしてしまうと悟った彩香は、少しハードルを下げた。
「ぐ、グループ、デート・・・だ、誰がいるの?」
心配そうに尋ねるゆず。
「うーん・・・明衣と・・・私?」
「・・・めいちゃんと・・・さいちゃん・・・男の子は?」
ゆずは言われるまま、想像を巡らせゆく。
「大和くんでしょ。それと・・・大和くんの友達でしょ・・・あと、たか・・・」
言っている彩香も顔を赤らめた。
「さいちゃん?」
急に赤くなった彩香に、ゆずが心配そうな顔をした。
「だ、大丈夫よ・・・とにかくみんなで海まで遊びに来たの」
「う、うん・・・」
「・・・でね、灯台見つけてみんなでぶらぶら歩きながら向かってる感じ」
「うん・・・と、灯台、だね」
まだ動揺しているのか、ゆずの動きがぎこちない。ぶらぶらというよりはカクカク歩いている。
これじゃダメだと思った彩香は、ファインダーから目を離し辺りをキョロキョロと見回した。
「・・・ゆず、こっちにカモメ止まってるよ」
「あっ、本当だ!かわいい・・・」
ゆずの興味を引いてやっと自然な表情が出てきたところで、彩香はシャッターを切り始めた。
「ほら、あっちは大きな船から砂取ってる。うわぁすごい!挟んで出すんだね」
「ほんとだ、すごい・・・」
言われて反対側を見たゆずは、船から砂を掻き出す様子を珍しそうに見入っていた。
(・・・なんかデートっぽくないなぁ)
と思いながらも彩香はまじまじと見入るゆずを撮っていった。
「彩香ちゃん。ゆずちゃん、なかなかいい表情にならないわね・・・ちょっと試してもいい?」
彩乃の準備をしている間少し暇になった舞菜が、彩香に声をかけてゆずに近づいていった。
「あっ!ダメですよ!」
舞菜は彩香の制止も聞かず、ゆずの方に行ってしまった。
「ねえゆずちゃん、ゆずちゃんって好きな人いるの?」
急に話しかけられたゆずは、驚いて舞菜の方を向いた。
「えっ・・・み、みんな好きですよ?」
そしておどおど答えるゆず。
「そうじゃなくってさぁ、好きな男の子よ。いるの?」
「・・・」
それだけでゆずは真っ赤になって固まってしまった。
「ありゃ?ゆずちゃん、ゆずちゃん!」
慌てた舞菜はゆずをゆすった。
「ま、舞菜さん!」
彩香が駆け寄った時には、動かないゆずが出来上がっていた。
「あ、彩乃ちゃん!今度はこっちでお願いね!」
「はーい」
彩香から逃げるように離れて、舞菜は自分の撮影を再開した。
「やっぱ風強いですね」
「でも、髪を押さえる女の子って、なんかグッとくるでしょ」
言いながら舞菜は髪を押さえる彩乃を撮っていく。
「彩乃ちゃんも絵になりますね」
「わかる?でももう少し色気が加わればねぇ」
そう言いながら舞菜はちらっと彩香を見た。
「舞菜さんも彩香狙いですか?」
「もちろん!って他にもいるの?」
「和泉さんもずっと狙ってますよ」
「ああ、そういえば・・・」
舞菜は彩香のコスプレ写真を思い出して、いつか自分も彩香ちゃんを撮る!と思いを新たにしたのだった。
「・・・彩乃ちゃん、もう少しあっちの方にいってみよっか!」
気持ちを今に引き戻した舞菜は、大きな声で彩乃を誘導した。
一方の彩香たちは、やっと落ち着いてきたゆずがノロノロと動き始めた。
「ゆず、もう大丈夫そう?」
「う、うん・・・もう少し、かな・・・」
彩香から受け取ったペットボトルの水を一口飲んで、ゆずはやっとふうっと大きなため息をついた。
それからしばらくして、彩香たちは撮影を再開した。
「ゆず、少しはにかんだ感じできる?一応、デート、だからさ・・・」
「う、うん」
また『デート』と聞いただけで、ゆずは恥ずかしそうな顔になった。が、少し慣れたのかさっきほどではないようだ。
やっと待っていた表情を引き出すことができた彩香は、その表情を取り逃がさないようにどんどん撮っていった。
人物撮影は一瞬が勝負になることが多く、彩香も構図だけはある程度気にしながら、手を止めることなくどんどん撮っていく。いい表情だったらトリミングすればなんとでもなるし・・・
「ゆず、今度はあっち行ってみようか・・・
灯台のところからみんながゆずを呼んでるの」
ゆずはドキドキ感を維持しながら、ゆっくり灯台に向かって歩いていく。
彩香は先回りして恥じらうゆずをどんどん撮っていった。
ファインダーから見えるゆずの表情がだんだん良くなっていくのがわかり、彩香はどんどん撮影に集中していった。
そして彩香たちは灯台のすぐそばまでやってきた。
小さな階段を見つけた彩香は、階段の下に行くようゆずに指示し、自分は上に立った。
そしてゆずを見下ろすようにカメラを構えると、
「ゆず、今度は私が上から撮るから、私のこと大和くんだと思って下から見つめてくれる?」
と指示を出した。
「や、やまと、くん?」
ゆずが一瞬で沸騰してしまった。
「あっ・・・ご、ごめん」
さっきのことをすっかり忘れていた彩香が慌てて取り繕ったが、時すでに遅し。
ゆずは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
だが、彩香は謝りながらもそんなゆずをしっかりと撮影していた。
先に撮影を終えた舞菜たちは、少し離れたところから彩香の撮影を見ていた。
当然ゆずに出した指示も聞こえていて、それでも撮り続ける彩香を見て、二人は呆気に取られていた。
「カメラ持った彩香ちゃんって、色々凄いわね・・・」
「ですね。なんか容赦ないって言うか・・・」
二人がそんな話しをしているところに、撮影を終えた彩香がやってきた。
「ご、ごめん・・・」
「あー、別に彩香ちゃんを責めてるわけじゃないのよ」
舞菜がフォローする。
「う、うん。思ってることズバズバ言ってさ、ある意味かっこいいよね」
「そ、そうなん、だ・・・」
明衣の一言に、彩香がさらにしぼんでしまった。
「あちゃあ、私ダメダメだ」
項垂れる彩香の横で明衣は天を仰いだ。
「ゆ、ゆずちゃんは大丈夫かしらぁ」
いたたまれなくなった舞菜はわざとらしい一言を残し、その場から離れていった。
「彩香ちゃん、そっちはどう?」
「はい、メモの分は終わりました」
「なら、こっちはもういいわ。ゆずちゃんと撮ってらっしゃい」
「ありがとうございます!ゆず、お待たせ」
「うん。どこで撮る?・・・」
彩香はゆずを連れて防波堤の端の方へ行った。
「彩香、大丈夫かなぁ」
どんどん歩いていく彩香を、明衣が心配そうに見ていた。
「ああ言う時は大丈夫みたいですよ。端によるの撮られる人だし」
「そっか。彩乃ちゃん本当よく分かってるね」
「お姉ちゃんのことだったら大体」とニヤリと笑った。
彩香マニアの彩乃は、他にも誰も知らない彩香の秘密をたくさん知っているのだった。
いっしょに歩きながら、彩香はゆずにいろいろと話しかけていた。
「・・・ゆず、今日のゆずはね、初めて男の子とデートに来てるんだ。大磯の駅を降りてちょっと迷ったけど、やっと港までついて少しはしゃいでるの。想像してみて」
彩香に言われるまま『初めてのデート』を想像したゆずは、どんどんほおを赤らめていった。
「あーごめん、ストップ!
うんとね・・・グループデートにしよっか」
このままではゆずがヒートアップしてしまうと悟った彩香は、少しハードルを下げた。
「ぐ、グループ、デート・・・だ、誰がいるの?」
心配そうに尋ねるゆず。
「うーん・・・明衣と・・・私?」
「・・・めいちゃんと・・・さいちゃん・・・男の子は?」
ゆずは言われるまま、想像を巡らせゆく。
「大和くんでしょ。それと・・・大和くんの友達でしょ・・・あと、たか・・・」
言っている彩香も顔を赤らめた。
「さいちゃん?」
急に赤くなった彩香に、ゆずが心配そうな顔をした。
「だ、大丈夫よ・・・とにかくみんなで海まで遊びに来たの」
「う、うん・・・」
「・・・でね、灯台見つけてみんなでぶらぶら歩きながら向かってる感じ」
「うん・・・と、灯台、だね」
まだ動揺しているのか、ゆずの動きがぎこちない。ぶらぶらというよりはカクカク歩いている。
これじゃダメだと思った彩香は、ファインダーから目を離し辺りをキョロキョロと見回した。
「・・・ゆず、こっちにカモメ止まってるよ」
「あっ、本当だ!かわいい・・・」
ゆずの興味を引いてやっと自然な表情が出てきたところで、彩香はシャッターを切り始めた。
「ほら、あっちは大きな船から砂取ってる。うわぁすごい!挟んで出すんだね」
「ほんとだ、すごい・・・」
言われて反対側を見たゆずは、船から砂を掻き出す様子を珍しそうに見入っていた。
(・・・なんかデートっぽくないなぁ)
と思いながらも彩香はまじまじと見入るゆずを撮っていった。
「彩香ちゃん。ゆずちゃん、なかなかいい表情にならないわね・・・ちょっと試してもいい?」
彩乃の準備をしている間少し暇になった舞菜が、彩香に声をかけてゆずに近づいていった。
「あっ!ダメですよ!」
舞菜は彩香の制止も聞かず、ゆずの方に行ってしまった。
「ねえゆずちゃん、ゆずちゃんって好きな人いるの?」
急に話しかけられたゆずは、驚いて舞菜の方を向いた。
「えっ・・・み、みんな好きですよ?」
そしておどおど答えるゆず。
「そうじゃなくってさぁ、好きな男の子よ。いるの?」
「・・・」
それだけでゆずは真っ赤になって固まってしまった。
「ありゃ?ゆずちゃん、ゆずちゃん!」
慌てた舞菜はゆずをゆすった。
「ま、舞菜さん!」
彩香が駆け寄った時には、動かないゆずが出来上がっていた。
「あ、彩乃ちゃん!今度はこっちでお願いね!」
「はーい」
彩香から逃げるように離れて、舞菜は自分の撮影を再開した。
「やっぱ風強いですね」
「でも、髪を押さえる女の子って、なんかグッとくるでしょ」
言いながら舞菜は髪を押さえる彩乃を撮っていく。
「彩乃ちゃんも絵になりますね」
「わかる?でももう少し色気が加わればねぇ」
そう言いながら舞菜はちらっと彩香を見た。
「舞菜さんも彩香狙いですか?」
「もちろん!って他にもいるの?」
「和泉さんもずっと狙ってますよ」
「ああ、そういえば・・・」
舞菜は彩香のコスプレ写真を思い出して、いつか自分も彩香ちゃんを撮る!と思いを新たにしたのだった。
「・・・彩乃ちゃん、もう少しあっちの方にいってみよっか!」
気持ちを今に引き戻した舞菜は、大きな声で彩乃を誘導した。
一方の彩香たちは、やっと落ち着いてきたゆずがノロノロと動き始めた。
「ゆず、もう大丈夫そう?」
「う、うん・・・もう少し、かな・・・」
彩香から受け取ったペットボトルの水を一口飲んで、ゆずはやっとふうっと大きなため息をついた。
それからしばらくして、彩香たちは撮影を再開した。
「ゆず、少しはにかんだ感じできる?一応、デート、だからさ・・・」
「う、うん」
また『デート』と聞いただけで、ゆずは恥ずかしそうな顔になった。が、少し慣れたのかさっきほどではないようだ。
やっと待っていた表情を引き出すことができた彩香は、その表情を取り逃がさないようにどんどん撮っていった。
人物撮影は一瞬が勝負になることが多く、彩香も構図だけはある程度気にしながら、手を止めることなくどんどん撮っていく。いい表情だったらトリミングすればなんとでもなるし・・・
「ゆず、今度はあっち行ってみようか・・・
灯台のところからみんながゆずを呼んでるの」
ゆずはドキドキ感を維持しながら、ゆっくり灯台に向かって歩いていく。
彩香は先回りして恥じらうゆずをどんどん撮っていった。
ファインダーから見えるゆずの表情がだんだん良くなっていくのがわかり、彩香はどんどん撮影に集中していった。
そして彩香たちは灯台のすぐそばまでやってきた。
小さな階段を見つけた彩香は、階段の下に行くようゆずに指示し、自分は上に立った。
そしてゆずを見下ろすようにカメラを構えると、
「ゆず、今度は私が上から撮るから、私のこと大和くんだと思って下から見つめてくれる?」
と指示を出した。
「や、やまと、くん?」
ゆずが一瞬で沸騰してしまった。
「あっ・・・ご、ごめん」
さっきのことをすっかり忘れていた彩香が慌てて取り繕ったが、時すでに遅し。
ゆずは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
だが、彩香は謝りながらもそんなゆずをしっかりと撮影していた。
先に撮影を終えた舞菜たちは、少し離れたところから彩香の撮影を見ていた。
当然ゆずに出した指示も聞こえていて、それでも撮り続ける彩香を見て、二人は呆気に取られていた。
「カメラ持った彩香ちゃんって、色々凄いわね・・・」
「ですね。なんか容赦ないって言うか・・・」
二人がそんな話しをしているところに、撮影を終えた彩香がやってきた。
「ご、ごめん・・・」
「あー、別に彩香ちゃんを責めてるわけじゃないのよ」
舞菜がフォローする。
「う、うん。思ってることズバズバ言ってさ、ある意味かっこいいよね」
「そ、そうなん、だ・・・」
明衣の一言に、彩香がさらにしぼんでしまった。
「あちゃあ、私ダメダメだ」
項垂れる彩香の横で明衣は天を仰いだ。
「ゆ、ゆずちゃんは大丈夫かしらぁ」
いたたまれなくなった舞菜はわざとらしい一言を残し、その場から離れていった。
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