上 下
324 / 428
1

323

しおりを挟む
高尾山の翌日。
バイトから帰ってきた彩香は、昨日の写真の中から気に入ったものを数枚、舞菜に送った。
「『高尾山に行ってきました♪』っと」
しばらくするとスマホがブルブル震えた。
「彩香ちゃん、写真見たわよ。高尾山行ったんだ」
「はい、今の時期だったら星空キレイかなって思って」
「うん。キレイに撮れてるわね」
「舞菜さんが選んでくれたバッグも使ったんですよ。使いやすかったです!」
「よかったわ。でも彩香ちゃんのカメラだとあれ、大きすぎない?」
「実はですね・・・新しいカメラ持って行ったんです!」
「えっ、カメラ買ったの?ミラーレス一眼とか?」
舞菜は飛びつくように尋ねた。
「はい。この前でた新しいのです」
「うわー、すごい!いいなぁ」
「舞菜さんだっていいの使ってるじゃないですか・・・」
舞菜はプロもよく使っている高級機を持っていた。レビューのバイト代と称して自分のものにしたらしい。
「だって新しいカメラってなんか楽しいじゃない」
「はい!すっごく楽しかったです!」
彩香は明るい声で答えた。
「でも高かったんじゃなの?ミラレース一眼なんて、レンズもでしょ?」
「・・・プレゼントでもらったんです」
今度は遠慮がちに答える彩香。
「えっ、どういうこと?ま、まさか誰かに貢がせたとか・・・」
舞菜が恐る恐る尋ねた。
「そんなことしませんよ!荒田先生です。ホワイトデーに頂いたんです」
彩香がムキになって反論した。
「なんだ先生かぁ・・・それにしてもすごいお返しね」
ため息をつく舞菜。
「はい、私もびっくりしました」
「愛されてるわねぇ彩香ちゃん・・・でも、良かったわね」
「はい。それでどうしても写真撮りたくって、高尾山まで行ってきました」
「新しいカメラいいなぁ・・・ところで高尾山は一人で行ってきたの?」
「い、いえ・・・」
舞菜はなんとなく尋ねただけだったのだが、彩香の返事は妙に歯切れが悪かった。
「そうよねぇ!いくら人が多いって行っても、夜の山に女の子一人はねぇ・・・」
それに気づいた舞菜はさりげなく話を続けた。
「は、はい・・・」
「で、誰と行ったの彩香ちゃん?」
舞菜は期待のこもった声で尋ねた。
「あ、あやの・・・」
「彩乃ちゃん?彩乃ちゃんも女の子よね?」
どんどん外堀を埋めて行く舞菜。
「・・・あと・・・た、鷹文くん・・・」
彩香はいまにも消え入りそうな声で答えた。
「きゃー、デート?デートなの⁉︎」
舞菜が嬉しそうにはやし立てた。
「で、デートじゃないです!写真撮りに行っただけです!」
彩香が必死に否定する。
「うふふ。彩香ちゃんムキになってる、なんかかわいいわね。
でも彩香ちゃんから誘ったんでしょ?」
舞菜は追求をやめない。
「は、はい・・・お母さんが鷹文くん連れて行くならいいって・・・」
「へぇー、お母さんも鷹文くんのこと知ってるんだぁ。公認なんていいわね」
とんだ藪をつついてしまった彩香だった。
「そ、そう言うんじゃないですから!たまたま昔からの知り合いで・・・」
「そうなの?鷹文くんって幼馴染だったの?」
「えっ・・・その・・・」
泥沼にはまった彩香は答えが見つからなかった。
「・・・あっ、忘れるとこだった!」
「どうしたんですか?」
「またパパからカメラ一式送られてきてね」
「レビュー、ですか?」
やっと話題が切り替わったことに、彩香はそっとため息をついた。
「うん。で彩乃ちゃんをお借りしたいなって思ってね。って言うか、パパから絶対に彩乃ちゃんをモデルにしろってしつこく言われてるのよぉ」
「彩乃を?」
「うん。なんかね、彩乃ちゃんがうちのサイトに出てから売り上げが30%くらい伸びてるんですって」
「えっ、そんなに?」
「そうなのよ、すごいでしょ。
あっ、そういえば彩香ちゃん。『彩奈さん』って知ってる?」
「は、はい・・・『にゃんパラ』って言うマンガの登場人物です・・・」
なぜか彩香の声のトーンが落ちた。
「そういうことだったんだぁ」
「・・・彩奈がどうか、したんですか?」
彩香が探るような声で尋ねた。
「うん。彩乃ちゃんのページにね、今までにないくらいのコメントがついてるのよ。
『彩奈さん、こんなところにいらっしゃったんですね』とか『次のイベントもぜひ出てください!』とか・・・」
「へ、へぇー」
彩香の返事がわざとらしい。
「最初はすごくびっくりしたの。まさか彩乃ちゃんってばれちゃったのかなって。すっごく心配になったわ。
でもね、他にも何件も『彩奈さん』って書いてあるのを見て彩乃ちゃんの書き間違いじゃないんだってわかってね、少し安心したの。
でもそうなると『彩奈さん』って、いったいなんなんだろうなぁって思って・・・
あっ、ほんとだ彩乃ちゃんそっくり。メイドさんなのね」
舞菜はタブレットで『にゃんパラ』を検索して、彩奈の画像を見ていた。
「そ、そうですね。そっくり、ですよね・・・」
それ以上は言えない彩香。
「意味がわかってなんかスッキリしたわ、彩香ちゃんありがとう」
「い、いえ」
「でも、なんでこんなに似てるんだろう。不思議よね?」
「さ、さあ・・・」
彩香は電話越しに冷や汗を流した。
「それでね、彩乃ちゃんなんだけど・・・」
舞菜が話を切り替えてくれてので、彩香はまた小さくため息をついた。
「パパがすごく気に入っちゃって、できたらうちと専属契約してもらって末永くお付き合いしてもらえるようにお願いしてこいって・・・」
少し呆れた感じの声で舞菜が言った。
「そうなんですか・・・
舞菜さん、彩乃のことなんですけど、実は少し問題が起きまして・・・」
「えっ、お母さんダメって?」
「いえ。母は会社の人にあのページを喜んで見せてるくらいなんですけど、知り合いに芸能関係の人がいまして・・・」
「あーそう言ういこと。『私に黙って』ってやつね」
舞菜の声のトーンが少し落ちた。
「はい・・・それで、次に何かあるときは先に話を通してって言われてしまいまして」
彩香が申し訳なさそうに話した。
「わかったわ。そういことならしっかりお話しましょう。で、その人ってすぐに連絡はつく?」
「はい。でもいいんですか?」
彩香が心配そうに尋ねた。
「ええ、もちろんよ。荒田先生にも言われてるの。
業界関係者にはしっかりスジを通せって。じゃないと生き残れないぞって。
だから誰かに何か言われたのなら、出来るだけ早く対応しておきたいの」
「写真の世界もそう言うところなんですね」
「そうよ。彩香ちゃんも忘れないでね。
それで彩香ちゃん、その人に連絡してもらってもいいかな?」
「わかりました。これから連絡してみます」
「ごめんね、迷惑かけちゃって」
「いえ。一旦切りますね」
彩香は舞菜との電話を終えると、すぐに和泉に連絡した。

・・・
和泉との話を終えた彩香は、また舞菜に電話した。
「彩香ちゃん、どうだった?」
「はい、明日の午後になら時間取れるそうです。舞菜さんは大丈夫ですか?」
「ええ。大丈夫よ。どこに行けばいいのかしら?」
「小田原線の港川駅に3時くらいに来れますか?」
「わかったわ。港川駅、3時ね」
「はい。お手数おかけしますがよろしくお願いします」
電話越しに彩香は頭を下げた。
「私の方こそ連絡取ってくれてありがとね。
ところで、それがうまくいったらなんだけど、次の撮影は桜のキレイなところにしたいなって思ってるの。彩香ちゃん、どこかいいところ知らない?」
「うーん・・・調べておきますね」
「ありがとう、よろしくね。じゃあ明日」
「はい、おやすみなさい」
電話を終えた彩香は、早速以前撮った桜の写真を探し始めた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

処理中です...