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公立高校は嫌がらせが好きらしく、なぜかバレンタインデーの日に入試があった。
ということで普段通学している高校生も学校は休み。
そんなことを思いながら、ゆずは途方に暮れていた。
「どうやって渡せばいいの・・・?」
やっと出来上がったチョコを呆然と見つめていると、明衣から電話がかかってきた。
「ゆずぅ。チョコ食べたいなぁ」
甘えるようにねだる明衣。
「わかってるよ。明衣ちゃんの分もちゃんとあるから。明日、持ってくね」
「あー・・・ねえ、ゆず!今日これからうちに来ない?」
「えっ・・・」
思ってもいなかった言葉に、ゆずは反応もできなかった。
「だってぇ。ゆずのチョコ、早く食べたいんだもん」
「う、うん・・・」
大和にはどう渡すべきかなにもきめられないゆずは、明衣の提案にも乗り切れないでいた。
「じゃあ待ってるからね!あ、それから、チョコ全部持ってきてね!」
ゆずの返事を待つこともなく、明衣は続けた。
「えっ・・・えっ⁉︎」
「彩香たちにも渡すんでしょ。彩香、今日もバイトだっていってたし、鷹文だって隣だし」
「あっ・・・そ、そうだね。わかった、みんなの分も持ってくよ」
「必ず、つくったの全部!だからね。ゆずの家族の分はいらないけど」
「そんなの持ってかないよ!」
ゆずが珍しく大きな声を上げた。
「あはは。そうだよね。じゃあ待ってるから、必ず全部!持ってきてね」
妙に全部を強調するなぁと思いながらも、ゆずはちょっとだけ大きい大和の分も含め、みんなに食べてもらう分も持っていくことにしたのだった。
1時間くらい経って、ゆずは通学路から少し外れた明衣の家の前までやってきた。
そういえば明衣のうちって意外と来ないよな、と思いながら、ゆずは玄関のベルを押した。
少し待っていると、元気な足音と供にドアが開いた。
「ゆずぅー、待ってたよ!」
いきなり飛び出してきた明衣が、ゆずに抱きついた。
「チョコ・・・あげる、から・・・は、離して・・・」
ゆずは小動物のように、明衣の腕の中でくねくね体をくねらせた。
「はぁー、なんてかわいいのゆず。必死に逃げようとする子猫ちゃんみたい」
「ね、猫じゃないよ、明衣、ちゃん・・・」
それでも離そうとしない明衣。
「うん。猫よりかわいいかも」
しまいには明衣はゆずに頬ずりし始めた。
「め、明衣ちゃん・・・」
「ゆず、甘い匂いするね」
ゆずの髪の毛の匂いを嗅ぐ明衣。
「さ、さっきまでチョコ、作ってたから・・・」
そんなことをされたゆずの顔は真っ赤になっていた。
「そうなんだ。で、誰にあげるのかなぁ?」
「・・・め、明衣ちゃんと、さい、ちゃん・・・と・・・」
「『と』・・・だぁれぇ?」
「ふにゅぅ・・・」
ついに沸騰してしまったゆずは、なにも答えられなくなってしまった。
「お前ら、何やってんだ?」
玄関でゆずと明衣が抱き合っていると、低い声が聞こえてきた。
「おお、待ってたよ大和!」
と大和の声に気づいた明衣は、ゆずを抱きしめたまま、大和の方を向いた。
「なんだよ、呼ばれたから来たけどよ。お前がチョコくれるわけじゃねえんだろ」
「あったりまえじゃない!私はもらう方が好きなの!」
「だよなぁ・・・」
大和は残念そうな顔をした。
「やややや、やまと、くん⁉︎」
やっと明衣から逃れられたゆずは、突然の大和の出現に声を裏返らせて驚いた。
「ゆずぅ、大和が『ゆず』が作ったチョコ、ほしいってよ?」
「えっ、俺、ゆずちゃんのチョコ、もらえるの?」
大和がゆずに、期待に満ちた目を向ける。
「・・・う、うん・・・つ、作って、きた、よ」
大和に見つめられたゆずは、すでに昇天しそうだった。
「うおー!手作りなんて生まれて初めてだぜ!」
「あー、結衣に言っちゃおっかなぁ」
と明衣のとびきり冷めた声が響いた。
「ゆ、結衣の以外、初めて・・・だぜ!」
「言い直した!でも、大和、スクールの方ではお姉さまたちからたくさんもらうんでしょ?」
「そ、そうなの?」
不安そうに見つめるゆず。
「ま、まあな。全部ギリだけど」
と言いながらも自慢げな大和。
「ホントにぃ?中には本命も混ざってるんじゃないの?」
「ないだろ、それは」
さすがにお姉様たちは、大和の眼中にはないようだった。
「・・・あ、あの・・・こここ、これ・・・その・・・やまと、くんに・・・」
明衣たちの会話の間に少しだけ心を落ち着けることができたゆずは、それでも恐る恐る大和の前にチョコの入った箱を差し出した。
「俺に?まじで⁉︎」
「う、うん・・・や、やまとくん、の、ため、に・・・」
そこまで言ったゆずは、自分の言わんとしていることに気づき、耳まで真っ赤になって俯いてしまった」
「お、俺のために?」
「・・・」
ゆずはもう何も言葉にできず、大和の手の上にそっとチョコの入った箱を置いた。
「も、もらっていいのか?」
ゆずは黙ってこくんと頷いた。
「あ、ありがとう。やったー!マジで、めっちゃ嬉しい!」
「ゆず、よかったじゃん、大和あんなに喜んでるよ」
「ゆずちゃんサンキュー、こんなに嬉しいバレンタイン初めてかも」
「そ、そう・・・」
大和の言葉を聞いたゆずは、静かに明衣の腕の中にに倒れて行った。
「ちょ、ちょっとゆず!大丈夫?」
「ゆずちゃん、おい!しっかりしろ!」
「大和、ゆず、ソファに連れて行くから手伝って」
「お、おう」
二人は両脇からゆずを抱え、リビングに連れて行った。
「め、明衣ちゃん・・・?」
ソファーに寝かされていたゆずが、静かに目を開けた。
「ゆず、大丈夫?」
「う、うん・・・ここって?」
「うちのリビングだよ。ゆず、いきなり倒れるんだもん」
「・・・あっ!や、やまと、くん」
ゆずは目をぱっちり開いて辺りを見回した。
「大和なら鷹文んちにいるよ」
「そ、そう・・・」
「よかったね、ちゃんと渡せたよ」
明衣の笑顔が優しかった。
「め、明衣ちゃん・・・だって大和くん、いきなり来るんだもん!」
やっと思い出したゆずは、明衣に飛びついた。
「ごめんごめん、まさかあんな風になっちゃうなんて思わなかったからさぁ」
明衣もすまなそうな顔をした。
「でも・・・ありがとう。私、どうやって渡せばいいのか、全然、考えてなかったから・・・」
「それとなく大和に聞いたんだけど、ゆずのことなんにも言わなかったからさ。うちに来て貰えばいいかなって」
少し照れたのか、とぼけるように言う明衣。
「め、明衣ちゃん!」
珍しくゆずの方から明衣に抱きついた。
「・・・うーん、いいねぇ。このもふもふ感・・・癒されるわぁ」
明衣は心ゆくまでゆずの柔らかさを堪能した。
「あの・・・ありがとね、明衣ちゃん」
ゆずは、恥ずかしそうにお礼を言った。
「ううん。ゆずも頑張ったね」
優しく抱きしめる明衣。
「う、うん・・・ほんとに、よかった・・・」
ゆずの目から涙がポロポロ落ちてきた。
ということで普段通学している高校生も学校は休み。
そんなことを思いながら、ゆずは途方に暮れていた。
「どうやって渡せばいいの・・・?」
やっと出来上がったチョコを呆然と見つめていると、明衣から電話がかかってきた。
「ゆずぅ。チョコ食べたいなぁ」
甘えるようにねだる明衣。
「わかってるよ。明衣ちゃんの分もちゃんとあるから。明日、持ってくね」
「あー・・・ねえ、ゆず!今日これからうちに来ない?」
「えっ・・・」
思ってもいなかった言葉に、ゆずは反応もできなかった。
「だってぇ。ゆずのチョコ、早く食べたいんだもん」
「う、うん・・・」
大和にはどう渡すべきかなにもきめられないゆずは、明衣の提案にも乗り切れないでいた。
「じゃあ待ってるからね!あ、それから、チョコ全部持ってきてね!」
ゆずの返事を待つこともなく、明衣は続けた。
「えっ・・・えっ⁉︎」
「彩香たちにも渡すんでしょ。彩香、今日もバイトだっていってたし、鷹文だって隣だし」
「あっ・・・そ、そうだね。わかった、みんなの分も持ってくよ」
「必ず、つくったの全部!だからね。ゆずの家族の分はいらないけど」
「そんなの持ってかないよ!」
ゆずが珍しく大きな声を上げた。
「あはは。そうだよね。じゃあ待ってるから、必ず全部!持ってきてね」
妙に全部を強調するなぁと思いながらも、ゆずはちょっとだけ大きい大和の分も含め、みんなに食べてもらう分も持っていくことにしたのだった。
1時間くらい経って、ゆずは通学路から少し外れた明衣の家の前までやってきた。
そういえば明衣のうちって意外と来ないよな、と思いながら、ゆずは玄関のベルを押した。
少し待っていると、元気な足音と供にドアが開いた。
「ゆずぅー、待ってたよ!」
いきなり飛び出してきた明衣が、ゆずに抱きついた。
「チョコ・・・あげる、から・・・は、離して・・・」
ゆずは小動物のように、明衣の腕の中でくねくね体をくねらせた。
「はぁー、なんてかわいいのゆず。必死に逃げようとする子猫ちゃんみたい」
「ね、猫じゃないよ、明衣、ちゃん・・・」
それでも離そうとしない明衣。
「うん。猫よりかわいいかも」
しまいには明衣はゆずに頬ずりし始めた。
「め、明衣ちゃん・・・」
「ゆず、甘い匂いするね」
ゆずの髪の毛の匂いを嗅ぐ明衣。
「さ、さっきまでチョコ、作ってたから・・・」
そんなことをされたゆずの顔は真っ赤になっていた。
「そうなんだ。で、誰にあげるのかなぁ?」
「・・・め、明衣ちゃんと、さい、ちゃん・・・と・・・」
「『と』・・・だぁれぇ?」
「ふにゅぅ・・・」
ついに沸騰してしまったゆずは、なにも答えられなくなってしまった。
「お前ら、何やってんだ?」
玄関でゆずと明衣が抱き合っていると、低い声が聞こえてきた。
「おお、待ってたよ大和!」
と大和の声に気づいた明衣は、ゆずを抱きしめたまま、大和の方を向いた。
「なんだよ、呼ばれたから来たけどよ。お前がチョコくれるわけじゃねえんだろ」
「あったりまえじゃない!私はもらう方が好きなの!」
「だよなぁ・・・」
大和は残念そうな顔をした。
「やややや、やまと、くん⁉︎」
やっと明衣から逃れられたゆずは、突然の大和の出現に声を裏返らせて驚いた。
「ゆずぅ、大和が『ゆず』が作ったチョコ、ほしいってよ?」
「えっ、俺、ゆずちゃんのチョコ、もらえるの?」
大和がゆずに、期待に満ちた目を向ける。
「・・・う、うん・・・つ、作って、きた、よ」
大和に見つめられたゆずは、すでに昇天しそうだった。
「うおー!手作りなんて生まれて初めてだぜ!」
「あー、結衣に言っちゃおっかなぁ」
と明衣のとびきり冷めた声が響いた。
「ゆ、結衣の以外、初めて・・・だぜ!」
「言い直した!でも、大和、スクールの方ではお姉さまたちからたくさんもらうんでしょ?」
「そ、そうなの?」
不安そうに見つめるゆず。
「ま、まあな。全部ギリだけど」
と言いながらも自慢げな大和。
「ホントにぃ?中には本命も混ざってるんじゃないの?」
「ないだろ、それは」
さすがにお姉様たちは、大和の眼中にはないようだった。
「・・・あ、あの・・・こここ、これ・・・その・・・やまと、くんに・・・」
明衣たちの会話の間に少しだけ心を落ち着けることができたゆずは、それでも恐る恐る大和の前にチョコの入った箱を差し出した。
「俺に?まじで⁉︎」
「う、うん・・・や、やまとくん、の、ため、に・・・」
そこまで言ったゆずは、自分の言わんとしていることに気づき、耳まで真っ赤になって俯いてしまった」
「お、俺のために?」
「・・・」
ゆずはもう何も言葉にできず、大和の手の上にそっとチョコの入った箱を置いた。
「も、もらっていいのか?」
ゆずは黙ってこくんと頷いた。
「あ、ありがとう。やったー!マジで、めっちゃ嬉しい!」
「ゆず、よかったじゃん、大和あんなに喜んでるよ」
「ゆずちゃんサンキュー、こんなに嬉しいバレンタイン初めてかも」
「そ、そう・・・」
大和の言葉を聞いたゆずは、静かに明衣の腕の中にに倒れて行った。
「ちょ、ちょっとゆず!大丈夫?」
「ゆずちゃん、おい!しっかりしろ!」
「大和、ゆず、ソファに連れて行くから手伝って」
「お、おう」
二人は両脇からゆずを抱え、リビングに連れて行った。
「め、明衣ちゃん・・・?」
ソファーに寝かされていたゆずが、静かに目を開けた。
「ゆず、大丈夫?」
「う、うん・・・ここって?」
「うちのリビングだよ。ゆず、いきなり倒れるんだもん」
「・・・あっ!や、やまと、くん」
ゆずは目をぱっちり開いて辺りを見回した。
「大和なら鷹文んちにいるよ」
「そ、そう・・・」
「よかったね、ちゃんと渡せたよ」
明衣の笑顔が優しかった。
「め、明衣ちゃん・・・だって大和くん、いきなり来るんだもん!」
やっと思い出したゆずは、明衣に飛びついた。
「ごめんごめん、まさかあんな風になっちゃうなんて思わなかったからさぁ」
明衣もすまなそうな顔をした。
「でも・・・ありがとう。私、どうやって渡せばいいのか、全然、考えてなかったから・・・」
「それとなく大和に聞いたんだけど、ゆずのことなんにも言わなかったからさ。うちに来て貰えばいいかなって」
少し照れたのか、とぼけるように言う明衣。
「め、明衣ちゃん!」
珍しくゆずの方から明衣に抱きついた。
「・・・うーん、いいねぇ。このもふもふ感・・・癒されるわぁ」
明衣は心ゆくまでゆずの柔らかさを堪能した。
「あの・・・ありがとね、明衣ちゃん」
ゆずは、恥ずかしそうにお礼を言った。
「ううん。ゆずも頑張ったね」
優しく抱きしめる明衣。
「う、うん・・・ほんとに、よかった・・・」
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