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鷹文の部屋の掃除を始めて、気がつくと小一時間が過ぎていた。
「大掃除なんだから、これくらいキレイにしなくちゃ」
綺麗になった部屋を見て、彩香は満足そうに微笑んだ。
「ああ、そうだな」
鷹文もサッパリした部屋を見て頷いた。
「毎日、とは言わないけど、週に1回くらいはホコリ取った方がいいわよ」
「お、おお」
彩香は、ハンディモップと替えの袋を鷹文に渡した。
「これ、すぐに手に取れるところに置いておくと、気になった時にすぐ掃除できるわよ」
彩香はそれだけ言うと、掃除道具を持って部屋を出ていった。
彩香が部屋を出た後、鷹文は、さっきから気になっていた本棚の上の段ボールを慎重に下ろした。もちろんホコリをキレイに拭き取ってから。
開けてみると、そこには籐籠にはいった手作り風のぬいぐるみと、細長い小さな箱、それに手紙らしき封筒が入っていた。
「あ、これって・・・」
それは、目にするまで完全に忘れていたが、小さい頃いつも一緒にいた母親の手作りぬいぐるみだった。
「確か名前が付いていたような・・・」
鷹文には、どうしてかその名前が思い出せなかった。
「こっちは?」
と、細長い箱を手に取って開けてみた。
「これ、ネックレス?」
どうしてこんなところに入っているんだろう、と不思議に思った鷹文は、箱に添えられるように置いてあった手紙を開いてみた。
「あっ・・・」
そこには見覚えのある筆跡があった。
鷹文の母、由美の文字だった。

「鷹文くんへ 
この手紙いつ読んでもらえるのかな?
ごめんね、鷹文。この手紙を読む頃、お母さんはもう鷹文の前にはいないと思います。鷹文のこと、たくさん泣かせちゃったかな?ごめんね。
本当はちゃんとお話ししておきたかったんだけど、お母さんにはあまり時間が残ってないみたいだし、今の鷹文にはちょっと難しいお話になるので、お手紙で残しておきます。

お母さんは、少し悪い病気にかかってしまって、多分、もうあまり長く生きることはできません。 本当はもっと沢山、鷹文と一緒にいたかったんだけど、本当にごめんね。

このネックレスはお母さんが大学を卒業する時に、奈緒おばさんと一緒に買った物です。
二人で一緒に買いに行って、お互いのために一生懸命選んでプレゼントしあったの。お母さんの1番の宝物です。プレゼントされてから毎日ずっとつけていました。
でも、もうすぐつけることができなくなってしまうので、キレイにしてここに入れておきます。
 鷹文と彩香ちゃんがもっと大きくなった時に、もしまだ二人の仲が良かったら、このネックレスを彩香ちゃんにプレゼントしてくれると嬉しいな。

私と奈緒おばさんは、小学生の頃からずっと仲良しでした。
だから鷹文と彩香ちゃんもずっと仲良しでいてくれることを祈っています。
でも、他に好きな女の子ができたら、その子を幸せにしてあげてね。
お母さんはいつでも鷹文の幸せを祈っています。

大好きよ、鷹文」
 
読み終えた鷹文の目から、涙が流れ落ちた。
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