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一行はまとめの言う校内一の撮影スポットに到着した。そこは本校舎の屋上だった。
「どうだ、いい眺めだろう。うちの学校は屋上は立ち入り禁止なのだ。フェンスなどついていないからな。だが、写真部の特権で我々のみ立ち入りを許可されている。くれぐれも端によるときは慎重にな。ほんの少しの段差しかないから、簡単に落ちてしまうぞ」
ゆずはドアから一歩も足を踏み出せずに、ドアの内側でふるえあがっていた。明衣はいきなり駆け出して、端の方まで行き、恐る恐る下を覗き込んでいた。
「うわーまじこえー。えい!」とカメラを建物の外側に出して地面に向けてシャッターを何度もきっていた。
彩香は周囲を一通り眺め、自分のカメラの準備を始めた。広々とした校庭、その先の河原、遠く先には山々の連なりが見える。
「絞り優先モード」に切り替えて、画面を見ながら構図を確認し、補正を加えてシャッターを切った。
露出補正を1段ずつ落としながら何枚か撮って別のポイントを探し始めた。
「ねえ、ゆず、ちょっと出てこられない?」
と彩香が相変わらずドアの内側で震えて動けなくなっているゆずに声をかけた。
「さ、さいちゃん・・・・こわく・・ない?」
「うん。真ん中にいる分にはそんなに怖くないよ」
そう言いながら彩香は、優しくゆずの腕を取ってドアの外に連れ出した。
「きゃあ‼︎」いきなりの突風に煽られて、ゆずはしゃがみこんでしまった。
「ごめんね。やっぱり無理?」
「う・・・もう少し、待って・・・」
ゆずは縮こまったまま深呼吸をしているらしかった。
しばらく待っていると、ゆずがぎゅっとつぶっていた目を恐る恐る開いて、周囲を確認した。
「だ、大丈夫そう・・」
「よかった。ねえ、その場所で立ち上がれる?」
「やって、みる」震える膝を抑えながらゆずはゆっくりとたちあがった。
「ゆず、屋上に立つ!」明衣は、何かのタイトルのように大きな声で言った。
「や、やめてよお、明衣ちゃん。怖いんだからぁ」ゆずの膝はまだ震えている。
「ゆず、こっち向いてくれる?」
彩香は、ゆずに声をかけた。
「そのまま、そのままでいいよ」
彩香が構図を確認しているらしい。
「さい、ちゃん・・・まだ?」
「もう少し頑張ってね・・・」構図の決まった彩香は数回シャッターを切った。
「ゆず、今度は山の方見てくれないかな」
「え?山ってどこ?」
「うんとね。ちょうど振り向いたくらいのところ?」
「ふりむくん、だね」とゆっくり、ゆっくりとゆずは半分回った。
「た、高いね・・・」
山側はすぐ校舎が途切れていて、グランドの様子が良く見えるようだった。
「そうだね。でも、ゆずちゃんと立てたね」
さりげなく励まして、ゆずの緊張を解く彩香。
ゆずは怖さを我慢するためなのか、両手を胸の前でにぎりしめていた。
それに気づいた彩香が、急いで構図を決め、連続してシャッターを切って行った。
彩香は少しずつ横にずれながら、ゆずの横顔が写る位置まで移動して、その間もシャッターを切り続けた。
「あ、彩香、ストップ‼︎」
明衣が突然大きな声を出して彩香に駆け寄って腕を掴んだ。
「あぶないって、ほら左」
と言われた彩香は左を見てびっくっりした。
「め、明衣・・・ありがとう」
彩香は屋上の端まで来ていて、あと2、3歩で落ちてしまうところだった。
「もう、彩香ぁ・・・あんたでもこんなドジするんだね。でもさ、さすがにここじゃ危なすぎるよ」
「う、うん。気をつけるね」
彩香も顔色を失いながら返事した。
「で、どうだった?いいの撮れた」
気持ちの切り替えでもするかのように、明衣が彩香に尋ねた。
「うん。ゆず、なんかとってもいい表情してたから、夢中になっちゃった」
そう言って確認した写真には、ゆずがまるで祈っているような顔をしているところが写っていた。
「ほんとは、怖がってるだけなんだけどねえ」と明衣が笑った。
「すごい、背景もうまくボケてて、一眼で撮った写真みたいですね」
後ろから見ていた真司が少し知っている風な発言をした。
「お、いいアングル!」
屋上の端に這いつくばって下にカメラを向けていた善夫が、連続してシャッターを切り始めた。
「先輩何撮ってるんですか?」明衣が尋ねた。
「うん。カップルをな」
善夫はシャッターを切る手を止めずに答えた。
「あーストーカーだ!」
明衣が汚らわしいものを見るような顔をした。
「何をいう!断じてストーカーなどではない!僕は芸術作品を作っているのだ!」
自信たっぷりに反論する 。
「えー・・・ってあれ?鷹文?」
恐る恐る下を覗き込んでいた明衣が、その2人のうちの1人が鷹文であることに気づいたようだった。
「どうだ、いい眺めだろう。うちの学校は屋上は立ち入り禁止なのだ。フェンスなどついていないからな。だが、写真部の特権で我々のみ立ち入りを許可されている。くれぐれも端によるときは慎重にな。ほんの少しの段差しかないから、簡単に落ちてしまうぞ」
ゆずはドアから一歩も足を踏み出せずに、ドアの内側でふるえあがっていた。明衣はいきなり駆け出して、端の方まで行き、恐る恐る下を覗き込んでいた。
「うわーまじこえー。えい!」とカメラを建物の外側に出して地面に向けてシャッターを何度もきっていた。
彩香は周囲を一通り眺め、自分のカメラの準備を始めた。広々とした校庭、その先の河原、遠く先には山々の連なりが見える。
「絞り優先モード」に切り替えて、画面を見ながら構図を確認し、補正を加えてシャッターを切った。
露出補正を1段ずつ落としながら何枚か撮って別のポイントを探し始めた。
「ねえ、ゆず、ちょっと出てこられない?」
と彩香が相変わらずドアの内側で震えて動けなくなっているゆずに声をかけた。
「さ、さいちゃん・・・・こわく・・ない?」
「うん。真ん中にいる分にはそんなに怖くないよ」
そう言いながら彩香は、優しくゆずの腕を取ってドアの外に連れ出した。
「きゃあ‼︎」いきなりの突風に煽られて、ゆずはしゃがみこんでしまった。
「ごめんね。やっぱり無理?」
「う・・・もう少し、待って・・・」
ゆずは縮こまったまま深呼吸をしているらしかった。
しばらく待っていると、ゆずがぎゅっとつぶっていた目を恐る恐る開いて、周囲を確認した。
「だ、大丈夫そう・・」
「よかった。ねえ、その場所で立ち上がれる?」
「やって、みる」震える膝を抑えながらゆずはゆっくりとたちあがった。
「ゆず、屋上に立つ!」明衣は、何かのタイトルのように大きな声で言った。
「や、やめてよお、明衣ちゃん。怖いんだからぁ」ゆずの膝はまだ震えている。
「ゆず、こっち向いてくれる?」
彩香は、ゆずに声をかけた。
「そのまま、そのままでいいよ」
彩香が構図を確認しているらしい。
「さい、ちゃん・・・まだ?」
「もう少し頑張ってね・・・」構図の決まった彩香は数回シャッターを切った。
「ゆず、今度は山の方見てくれないかな」
「え?山ってどこ?」
「うんとね。ちょうど振り向いたくらいのところ?」
「ふりむくん、だね」とゆっくり、ゆっくりとゆずは半分回った。
「た、高いね・・・」
山側はすぐ校舎が途切れていて、グランドの様子が良く見えるようだった。
「そうだね。でも、ゆずちゃんと立てたね」
さりげなく励まして、ゆずの緊張を解く彩香。
ゆずは怖さを我慢するためなのか、両手を胸の前でにぎりしめていた。
それに気づいた彩香が、急いで構図を決め、連続してシャッターを切って行った。
彩香は少しずつ横にずれながら、ゆずの横顔が写る位置まで移動して、その間もシャッターを切り続けた。
「あ、彩香、ストップ‼︎」
明衣が突然大きな声を出して彩香に駆け寄って腕を掴んだ。
「あぶないって、ほら左」
と言われた彩香は左を見てびっくっりした。
「め、明衣・・・ありがとう」
彩香は屋上の端まで来ていて、あと2、3歩で落ちてしまうところだった。
「もう、彩香ぁ・・・あんたでもこんなドジするんだね。でもさ、さすがにここじゃ危なすぎるよ」
「う、うん。気をつけるね」
彩香も顔色を失いながら返事した。
「で、どうだった?いいの撮れた」
気持ちの切り替えでもするかのように、明衣が彩香に尋ねた。
「うん。ゆず、なんかとってもいい表情してたから、夢中になっちゃった」
そう言って確認した写真には、ゆずがまるで祈っているような顔をしているところが写っていた。
「ほんとは、怖がってるだけなんだけどねえ」と明衣が笑った。
「すごい、背景もうまくボケてて、一眼で撮った写真みたいですね」
後ろから見ていた真司が少し知っている風な発言をした。
「お、いいアングル!」
屋上の端に這いつくばって下にカメラを向けていた善夫が、連続してシャッターを切り始めた。
「先輩何撮ってるんですか?」明衣が尋ねた。
「うん。カップルをな」
善夫はシャッターを切る手を止めずに答えた。
「あーストーカーだ!」
明衣が汚らわしいものを見るような顔をした。
「何をいう!断じてストーカーなどではない!僕は芸術作品を作っているのだ!」
自信たっぷりに反論する 。
「えー・・・ってあれ?鷹文?」
恐る恐る下を覗き込んでいた明衣が、その2人のうちの1人が鷹文であることに気づいたようだった。
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