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翌朝。
「さいちゃん、おはよう」
「彩香、おはよう!面接、どうだった?」
彩香が席に着くなり明衣が尋ねてきた。
「うん。採用になったよ!」
彩香は少し嬉しそうに明衣の質問に答えた。
「うわ、もう決まったんだ!でも良かったね。時給2000円!」
「よかったね、さいちゃん」
ゆずも喜んでいるようだった。
「ありがとう。今日の午後からなんだ」
「そうなんだ。頑張ってね」
「さいちゃん、がんばってね」
そんなやりとりをしていると、チャイムが鳴った。
 
同じ頃4組の教室。
「鷹文、おはよう!」鷹文の中学時代からの同級生、竹原大和が前の席に座った。
「ああ、おはよう」
文庫本を開いている鷹文は、大和の顔も見ずにただ挨拶だけ返した。
「なんだよお前!挨拶くらいちゃんとしろよ!」
「親父か・・・もう予鈴なるぞ」
「せっかく親友の大和様が来てやったってのに・・・それにしても相変わらず無愛想だなだなお前」
「・・・」
「せっかく環境変わったってのにまたこれかよ」
大和は、鷹文が読んでいた文庫本を取り上げた。
「おい、よせよ」だるそうに本を取り返そうとする鷹文。
「あのさぁ・・・入学直後なんて新しい友達作るチャンスじゃん。いい加減そのぼっち生活やめようぜ!」
「・・・いいだろ、別に」
鷹文は取り返した本をまた開いた。
「クラスに友達いた方が楽しいじゃん。お前だって遊びに行きたいだろ!」
「・・・興味ない」
相変わらず本に目を落としたまま、鷹文はボソッと答えた。
「おい!・・・そういえばさ、あれどうなった?なんとか賞。応募したって言ってたよな。もう賞金入ったんのか?」
大和は鷹文の自信満々の顔を思い出していた。
鷹文は苦々しい顔をして黙り込んでしまった。
「なあ、いくら入ったんだよ。俺にも奢れよ!」
「・・・落ちた」鷹文は認めたくないと言う顔をしながら一言だけ呟いた。
「・・・そ、そうか。まあ、そんなこともあるさ。また書くんだろ」
予想外の言葉に大和はたじろいだ。
「・・・」鷹文が何も言わずに黙っていると予鈴が鳴った。
「じゃ、じゃあまた後でな!」大和はタイミングよく予鈴が鳴ったことにホッとしながら、自分のクラスへ戻って行った。
鷹文は、文学賞のことをなんとか忘れようとしていた。しかし、大和との会話で、改めて落選の悔しさを思い出してしまい、やり場のない怒りをぶつけることもできず、読んでもいない文庫本をじっと見つめていた。
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