卒業 〜extra time〜

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卒業

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「卒業式、終わりましたね」
「そうですね。先生、おつかれさまでした」
「先生こそ、学年主任、1年間おつかれさまでした」
「いやぁ、3年の学年主任なんて初めてですから、ほんと大変でしたよ。まあちょうど明日明後日は休みですし、少しのんびり休ませてもらって、来週からは次の準備でも始めますか」
「そうですね。すぐ4月ですもんね・・・」

ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

「はぁ~、終わったぁ・・・」
自分の部屋に戻った私は、スーツのままベッドに倒れ込んだ。
「こんな姿、あの子たちには見せられないわね・・・」
私は、卒業式を終え不安と期待を胸に巣立っていく生徒たちのことを思い浮かべた。
でも、もう居住まいを正すだけの気力など残っていなかった。
「そうだ、電話、しなきゃ・・・」
私はなんとかバッグからスマホを取り出して、親友の優に電話をかけた。
「ゆうぅ、今帰ったよぉ」
「あー、佐和お帰りぃ」
「・・・づがれだぁ・・・」
「1年間お疲れ様。いいじゃない明日からゆっくりできるんでしょ?」
「そんなことないよぉ。来週からもう新学期の準備でぇ・・・」
話す声にまで力が入らない。こんなのも絶対に見せられないわ・・・
「そっかぁ。大変だねぇ。もう買い物済ませたんだけどさあ、行っても平気?」
「うん・・・大丈夫。ぐすん・・・」
「あーもう始まっちゃってるよ。まだダメだって。すぐ行くからさぁ」
「はやぐぎでぇ・・・」
私は寂しさがマックスになり鼻水をたらしながら泣き始めてしまった。
「ほらほら、そんなに泣いてると聞かれちゃうよ?」
「だれも、ぎいでないもぉん・・・」
涙声のまま私は駄々を捏ねた。
「そっちはそうだろうけど、こっちはねぇ。ねえ先輩」
「・・・佐和ちゃん。大丈夫?」
と心配そうな男性の声が聞こえてきた。
「せせせ、せんばい⁉︎」
予想もしていなかったの真斗先輩の声に、私は飛び上がるようにしてベッドの上に正座した。
「さぁわぁ、いいでしょう。私ぃ、いまぁ、真斗先輩とデート中なのぉ」
「で、でーど・・・な、なんで・・・」
大好きな真斗先輩を取られたショックで、私はさらに大粒の涙を落とし始めた。
「あははぁ。うそよ、嘘」
「・・・うそ?」
「そう、デートじゃなくて、今あんたんちに行くために真斗先輩と2人でお買い物してるの」
「うちに、来る・・・?お買い物・・・??」
意味が理解できなかった。
「あー、パニクってる・・・いい、ちゃんと聞くのよ、佐和。
これから、真斗先輩を連れて佐和の部屋にいくから、ちゃんと準備しておくのよ」
「・・・ええええっ!!」
思わずベッドの上で立ち上がってしまった。
当然フラフラしてすぐにしゃがみ込んだけど。
「ちゃんと聞こえた?真斗先輩、佐和の部屋で一緒にお疲れ様会してくれるからね。いい?」
「わ、わがった」
涙を拭きながら電話を切った私は、パニックのまま、あたふたと顔を洗い始めた。

「佐和ぁついたよぉ」
激しいベルの音(優はなぜかいつもベルを連打する)のあと、鍵がかかっていないとわかった優は、容赦なく部屋に乗り込んできた。
「先輩も早く入ってくださいよ」
「い、いいのかな。勝手に入っちゃって」
「大丈夫ですよ。ちゃんと事前に連絡してあるんですから。佐和も子供じゃないんだし。入って入って」
優は先輩を無理やり私の部屋へ引き入れた。
「佐和、よかった、ちゃんとキレイにしてるわね。お、ちゃんとお鍋の準備もできてるじゃなぁい。少しは成長したな」
「ななな、何言ってるの、優。あっ、先輩!お、お久しぶりです!」
久しぶりに会えた真斗先輩に、私はペコんとお辞儀した。
「ごめんね佐和ちゃん、突然きちゃって」
先輩の優しい笑顔・・・
「・・・だだ、大丈夫ですよ。その・・・座って、ください」
私は少し腫れ上がった目で先輩の姿を追った。
「先輩はこっちねぇ。ほら佐和もすわって。今日はあんたが主役なんだから。後の準備は私がするから・・・とその前に乾杯だ。グラス冷やしてくれてる?」
「う、うん。でも2脚しか・・・」
「いいのいいの。じゃあ先輩と佐和はこれ持って」
優は、冷蔵庫から持ってきた冷えたシャンパングラスを先輩と私の前に置いた。優はうちに来るといつも使っている専用のマグカップを持っている。
「じゃあおつぎしますねぇ」と言いながら、まるでソムリエみたいにうやうやしく、シャンパン(ちゃんとシャンパーニュものらしい)をグラスに注いだ。
「じゃあ先輩、乾杯の音頭、お願いします」
「僕?えーと・・・佐和ちゃん。卒業式、お疲れ様でした!乾杯!」
先輩の言葉に優の元気な声が続き、お疲れ様会が始まった。

「ねえねえ佐和せんせぇ、今回は泣かなかったぁ?」
優はニヤニヤしながら迫ってくる。
「・・・大丈夫、だったわよ、もちろん!」
「そうなんだぁ。その割にはぁ、まぶたまぁっかに腫れ上がってるよねぇ・・・」
「そ、それは・・・」
思わず目を逸らす私。
「あー嘘ついた、生徒たちに言ってやろう。『佐和先生嘘ついたよー』って」
「ほ、ほんとに泣いてないもん!ちょっと、しか・・・」
私はもじもじしながら俯いた。
「泣いてんじゃん、やっぱり」
「仕方ないでしょ!
わ、私の大切な、みんなが・・・いなぐ、なっぢゃっだあぁぁぁぁ・・・」
とうとう堪えきれなくなった私は、お箸を持ったままワンワン泣き始めた。
「だ、大丈夫、佐和ちゃん」
「あー、気にしないでください先輩。前回もこうでしたから、佐和」
「前回も?」
「はい、ちょうど3年前。最初の生徒たちの卒業式の時は・・・もっと酷かったですよ」
「ひ、ひどいとか・・・ひどい」
止まらない涙を必死に拭きながら、私は優に食ってかかった。
「だってほんとにぐちゃぐちゃだったじゃない。私、大変だったんだからね」
「そんなに凄かったの?」
「はい・・・前回はあらかじめこの部屋に待機させられてたんです。『卒業式終わったらお疲れ様会して』って言われて。その時はまさかあんな事態になるとは・・・」
優は、テレビドラマのように少し冷めた声で前回の回想を始めた。
「あれは確か3年前。3月というには少し寒い、でもよく晴れた日だった・・・」
そう、そんな日だった・・・

初めての自分の生徒たちを送り終えた私は、職員室では泣きたくなるのを必死に堪えていた。
「先生、初めてとはいえ、ちょっと泣きすぎですよ」
「ずずず、ずいまぜえん・・・」
まあ、式の間中ずっと泣いていたのだけど。
「わからないでもないですけどね。自分の息子や娘みたいなもんですもんね。特に担任してた生徒たちは」
「そ、そうなんでぢゅぅ・・・」
何かを喋ろうとすると溢れる涙を抑えられないのだった。
「・・・今日はもういいですから、早く帰って休んでください」
「ずずず、ずいまぜぇん・・・」
教頭ももう無理だと思ったのだろう。私はありがたくお役御免のお辞儀をして、涙を吹きながら電車に乗ったのだった。
「た・・・たた、いま・・・ぐすん」
駅を降りてからもずっと涙が止まらなかった私は、玄関を開ける頃にはすでに瀕死ともいえる状態になってしまっていた。
「?あれ、帰ったの、佐和?」
「ゆ、ゆう・・・たた、い、ま・・・」
優の顔を見た瞬間、私は玄関にくず折れた。
「・・・おかえり。ってうわぁ・・・」
朝はもう少しちゃんとしていたんだろうメイクは、今は見る影もないほどに無残な姿になっていた。
「ま、まあ入って。ってあんたの部屋よね、ここ」
と一人でノリツッコミをしながら優は私を部屋へと運んでいった・・・

「それからがさらに大変だったんですよ。仕方ないからメイク落としてあげてスキンケアまでしてあげて、お風呂入ってる間もずーっと泣きっぱなし。挙句の果てはお鍋食べながらもずーっと泣いてるんですよ、この子」
「だだだ、だってえ・・・ひっく、ひっく・・・」
娘や息子(いえ、断じて妹や弟たち!)のことを思い出した私は、やっぱり3年前と同じようにぐずぐずの涙を流しながら、優にメイクを落としてもらっていた。
「ぜ、ぜんばいもいるのにぃ・・・」
「ってあんた、もうどっちでも変わらないわよ」
と呆れながらも手際良くメイクを落としていく優。
「そんなことよりねぇ。このまま寝られちゃったら私や先輩の方が大変なんだから」
言いながらなぜかニヤリと笑う優だった。
「ゔ、ゔん、ごゔぇん・・・」

「でね、先輩。結局佐和、泣きながら寝ちゃって」
「う、うぞよ!あ、朝はちゃんとベッドで寝てたもん!」
「だから言ったじゃない、私がどれだけ苦労して、重たぁいあんたをベッドに乗せたっと思ってんのって!」
「お、おもだぐなんかないもん!」
「だからぁ、今年は真斗先輩つれてきたんじゃあん」
「ま、真斗先輩を?」
「そうそう、だから今年は寝ちゃっても大丈夫だよ」
「ななな、なんでだいじょうびゅ、なの?」
「それわぁ・・・ねぇ♡」
真斗先輩にわざとらしくウインクする優。
「先輩、もうすぐ佐和が寝ちゃいますからぁ、そしたら真斗先輩がぁ、佐和をぉ、ベッドまでぇ、運んでくださいねぇ」
「ダメダメダメダメダメダメダメダメ、だめです!」
言いながら私は、真っ赤になった顔を両手で覆った。
「いいじゃなぁい、愛しの真斗先輩にベッドまで連れてってもらえるなんて、お姫様みたいじゃなぁい」
「ぼぼぼ、僕がですか⁉︎」
うわー何この人たち一体何歳なの?中学生と変わらないじゃない・・・
なんて思ったって、後日優に聞かされました。

といつものように優のにぎやかなトークがあったあと、私たちはお鍋を食べ始めた。
私も食べ始めてしばらくは落ち着いたものだった。
成長したわね、私。
しばらくしてお酒が回り始めると、私のブレーキも徐々に外れて行った。
「女の子ってね・・・3年もあるとすっごぉく成長しちゃうのよ。
入学したてのころは、とぉってもあどけない顔だった本当に少女だった女の子がねぇ・・・いつのまにか私よりメイク上手くなっちゃって、好きな男の子を見つめる目はもう完全に女、なの。背の高さはそんなに変わらないんだけど、身体つきなんかはそう、本当にマッチ棒みたいだったのに、いつのまにか、こう、出たり引っ込んだりしてってね・・・」
手で女性の身体をかたどる私。
「男の子だってそうよ。ほっぺピンクに染めて可愛く笑ってたはずなのに・・・いつのまにか私より背も大きくなっちゃって、胸板も厚くなって体つきもしっかりしてって、顔つきだって丸っこかったのがシャープになって、気づいたら男性になっちゃってるの。
昔のことよく知ってるからこそ余計にそう感じるのかしら。
時々どきっとする視線で見つめられたりして、あぁん・・・」
気づいたら先輩の前で私は腰をくねらせていた。優は横で苦笑いしている。
「す、すいません先輩。この子ちょっとヘンタイかも・・・」
「だ、大丈夫ですよ。きっと僕も佐和ちゃんの立場だったら・・・」
ってそれ、洒落になりませんから!
「ぼぼぼ、暴走なんてしてませんよ!私は教師、あくまでも教師で、生徒とは清い関係で・・・」
いや、その考え方がやばい。
「言い合いになったり険悪になることもたくさんあったけど、でもやっぱりみんないい子たちで・・・
どうしてそづぎょうしぢゃっだのぉ・・・」
今日のことを思い出すと、どうにも泣けてきてしまうのです・・・
「いや、あんた。卒業してくれないと困るでしょ!」
「そ、そうなんだけどぉ・・・さびしいよぉ・・・だって明日から・・・誰もいないんだょ・・・」
「わかったわかった。お姉ちゃんが慰めてあげるからねぇ。佐和ちゃん、いい子いい子」
優が私の頭を優しく撫でてくれた。
「お姉ちゃぁぁん・・・」
と私は優に抱きついた。
ほんの3週間だけ、優の方が私よりお姉ちゃんなのだった。
「ほらほら、あんまり泣いてると、先輩ドン引きだよ」
「せせせ、せんぱぁい・・・わたぢのこと嫌いにならないでぇ・・・」
涙目のまま、私は先輩の方を向いて訴えた。
「大丈夫ですよ、佐和ちゃん。嫌いになんてならないから」
「ほほほ、ほんど、でずがぁ・・・」
今度は先輩にすがりつく私。
「あー、こりゃもうダメだ」
「ダメなんて。優ちゃん、そんなこと言わないでください。大丈夫だよ。佐和ちゃん」
いつの間にか真斗先輩の膝の上で泣きじゃくっている私の頭を、真斗先輩は優しく撫でてくれた。
「あららぁ、佐和、よかったわねぇ。先輩、頑張ったあんたの頭、撫でてくれてるわよ」
「・・・う、うふふ。うれ、じい・・・ひっく、ひっく・・・ぐすん」
私はいつの間にか先輩の膝の上で眠ってしまった、らしい・・・

遠くで誰かの声が聞こえた気がする・・・
(先輩、重く・・・大丈・・・ありがとうございます、じゃあ私はこれ・・・早苗さ・・・あとは先輩に・・・)

窓からの光が目に入って、私は目覚めた。
「・・・ゆう?」
私の横に温もりが感じられる。
「・・・朝、だよ、ゆう・・・まだ寝るの?」
私は優らしき体を軽く揺すって見た。ん?いつもの優より・・・太った?
「・・・佐和ちゃん・・・おはよう・・・」
ん?優の声、いつもよりじゃがれてる?っていうか男のひとの声みたい。
???
どうやら寝ぼけていた私は、隣にいるのは優だと全く疑っていなかった。
「ゆうぅ。今日はお昼まで寝るのぉ?
・・・私、お風呂入ろっかなって・・・」
すると優がむくむくと動き出した。
「お、お風呂はちょっと・・・僕、帰らないと」
「ぼくぅ。優ったら男の子になっちゃったの?」
「あの・・・僕は優ちゃんじゃなくて・・・」
と掛け布団がめくられると、そこには真斗先輩の格好をした・・・
「ま。真斗先輩!!!!!」
「はい、おはようございます。佐和ちゃん」
大好きな優しい笑顔がこちらに向けられた。
「えええっ???ななな、なんで・・・」
まさかの真斗先輩の出現に、私の頭は真っ白になってしまった。
「ごめん、佐和ちゃん。本当は佐和ちゃんをベッドに入れたら帰るつもりだったんだ。でもね・・・」
と先輩はスマホの動画を見せてくれた。
そこには、ベッドに入ってからも先輩の手を両手でしっかりと握って離さない私の姿があった。
「優ちゃんが撮ってくれたんだ。疑われないようにって」
「・・・す、すいません!」
すっかり目の覚めた私は、ベッドから出ることもできないまま(私は壁側にいて先輩をどかさないとベッドから出られないのだ)布団に額を擦り付けるように謝った。
「そ、そんな気にしないでください。僕だって、勝手に佐和ちゃんのベッドに入って寝ちゃったんだから・・・
僕の方こそごめん。でも手を離してくれなかったから一緒に寝るしかなかったんだ・・・」
「で、ですよね・・・本当にごめんなさい!」
「ううん。でも、佐和ちゃんやっと元気になったみたいだね。よかった」
先輩は100万ドルのスマイルを私に向けてくれた。
なんて神々しいんだろう。なんて素敵な朝なんだろう・・・
「・・・⁉︎わわ、私、こんな格好で!」
私は慌ててパジャマ姿の自分を隠した。
どうしてだろう、私はちゃんとパジャマに着替えていた。
「それもね、優ちゃんが着替えさせてくれたんだ。あ、僕は見てないよ!本当だよ」
「は、はい・・・先輩はそんなことしない、です」
「信じてもらえるの?」
「はい、信じます」
「よかった」
「それで、あの・・・」
「あ、お風呂だよね。じゃあ僕はこれで・・・」
「だ、ダメです!まだ、帰っちゃ・・・その・・・お、お礼させてください!」
私は先輩に見られないように替えの下着とちょっと可愛く見える部屋着を持って、脱衣場に消えた。
それから急いでシャワーを浴びてドライヤーで髪を乾かして、焦りながらもなんとか見られる程度のメイクをした私は、ふうっと深呼吸をしてから先輩が待っている部屋へ戻った。
「す、すいません。お待たせしました」
「ううん。僕も佐和ちゃんに話があったから」
「そうなんですか?」
「うん。それで、佐和ちゃんは?」
「は、はい・・・改めまして、昨日はお見苦しい姿をお見せしてしまい、本当にすいませんでした」
と正座をして深々とあたまをさげた。
「ううん。佐和ちゃんの素敵なところが見られて嬉しかったよ」
「す、素敵って・・・」
先輩にそんな事言われたら・・・案の定私の顔は真っ赤になってしまった。体も熱い。
「生徒のこと、すごく愛している先生なんだね、佐和ちゃん」
「そ、それは・・・」
もう顔から火が出そう・・・
「・・・今まで僕が思ってたより、
ずっと素敵な佐和ちゃんで・・・」
先輩の声も少し緊張している・・・

「今までよりもっと・・・
佐和ちゃんのこと・・・好きになったんだ」
「・・・っ!!」
先輩、今、私のこと好きって・・・

「それでね、その・・・
ぼ、僕と、結婚して、ください!」

何?先輩今、なんて言ったの?
小さな箱を私の前に差し出して俯いていしまった先輩を、私は呆然としたまま見つめた。
「・・・あ、あの・・・
今・・・け、結婚・・・って言いました?」
「う、うん。そうだよ。
僕は佐和ちゃんとずっと一緒にいたいんだ」
先輩のキラキラした瞳が私を見つめている。
私は、さっき以上に頭に血が登ってしまい、もう何を言えばいいのかわからなくなってしまった。
うわー顔が爆発しそう・・・
「だめ、かな?」
さっきまでキラキラしていた目が、今度は心配そうに私を見つめている。
「ダメっていうか・・・その・・・」
ええっ!こういう時ってなんていえばいいの⁉︎
「ごめん。突然すぎだよね」
先輩はすっかり落ち込んでしまった。
「い、いいえ!
そうじゃなくって・・・その・・・
わ、私も、ずっと、先輩のこと・・・
その・・・す、好き、で・・・
そばに、いて、ほしくて・・・」
うわー!先輩に言っちゃった!もう先輩の顔見られないぃ・・・
「本当に⁉︎佐和ちゃんも僕のこと・・・嬉しいよ!」
チラっとしか見られなかったけど、先輩の目のキラキラが戻ってきたみたい。
「あの、これ、受け取ってもらえますか?」
先輩はおずおずと小さなネイビーの箱の蓋を開けた。
「ゆ、指輪・・・」
「うん。佐和ちゃんの誕生石、だよね」
4月生まれの私の前で、ダイヤの指輪がキラキラと輝いていた。
「受け取ってもらえる、かな?」
先輩はさっきよりもしっかりした声で尋ねた。
「・・・はい」
私は小さく頷いた。
「じゃあ、手、借りるね」
先輩が優しく私の左手を取って、薬指に指輪をはめてくれた。
「ぴったり・・・」
左手に輝く指輪を見た私の心は、幸せで一杯になっていった。
「よかった・・・実は優ちゃんに聞いたんだ」
「・・・ってことは優は知ってたんですか?」
「うん。卒業式の後がいいんじゃないかって、優ちゃんが教えてくれたんだ」
「優・・・」
ずっと先輩と計画してたんだ・・・そう思ったらまた私の目に涙が溜まってきた。
「さ、佐和ちゃん⁉︎」
「ぐすっ・・・だ、大丈夫、です」
昨日とは違う、本当に嬉しい涙が止まることなく流れていく。
「先輩・・・
ありがとう・・・大好き」
私が先輩の胸に飛び込むと、先輩は優しく抱きしめてくれた。
「僕の方こそ、ありがとう、佐和ちゃん。一緒に幸せになろうね」
「は、はい・・・」
窓からは、午前中の明るい光が差し込んでいた。
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