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生倉 湊

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「もう、10時過ぎてるんだ・・・」
改札の上にぶら下がっている大きな時計を見上げた私は、いつもよりかなり遅い時間だということに気づいて、力なく呟いた。
本当なら、とっくに家に帰って明日のデートの準備をしているはずの時間。
なのに、私は家に帰る気力もなく、これからどこに行くか考えることもできず、ただなんとなくJRの改札口の前を歩いているのだった。
ほんの数時間前の私は、同じ場所をもっとウキウキした気分で歩いていた。

・・・

「明日、久しぶりにバイト休みだって言ってたし、どこ行こうかな?」
待ち合わせの時間よりかなり早く着いてしまった私は、待ち合わせ場所近くのカフェで雑誌を開き、秋のデート特集を見ていた。
「横浜かぁ。海風ちょっと冷たそうだし、くっついてても恥ずかしくないかも」
なんて、明日、山下公園にいる自分たちを想像しながら顔を赤くしたりして。
浮かれ気分の私は、早く時間にならないかなぁと思いながら雑誌から目を上げ、なんとなく窓の外を眺めた。
車の入ってこないその道には、たくさんの人が歩いていた。友達同士や一人で先を急ぐ人。ティッシュ配りのお姉さんも受け取ってくれそうな人に狙いを定めてさっとティッシュを出していた。
「そのカップルは無理じゃない?」
なんて呑気にダメ出しをしたんだけど、そのカップルの男性を見た瞬間、私は持っていたカップを落としそうになった。
「えっ・・・見間違え、だよね?」
自分の目を疑いながらも私は、急いでカフェを出て二人を追った。

ゆっくり歩いていた二人にはすぐ追いつくことができた。
「な、尚弥・・・」
見間違いようのない後ろ姿にすっかり動揺してしまった私は、思わず彼の名前を口にしてしまった。
「あ、見つかっちまったよ。ははは」
その声に気づいて振り向いた尚弥は、私を見て薄ら笑いした。
「な、なんで・・・」
「はあ?おまえには関係ねえだろ」
汚いものでも見るような目で、尚弥は私を見た。
「えっ・・・」
私は、次の言葉が思い浮かばなかった。
「ねえ、行こうよ」
「ああ」
振り返るそぶりも見せず、尚弥は女子高生と腕を組んだままどこかに行ってしまった・・・
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