上 下
21 / 52

21.まさかお前だったとは

しおりを挟む
 あまりの急展開に呆然としていると、ヘドニス子に会えてそんなに嬉しいのかと、無花果の姿をしたままの慶太郎が可笑しそうに笑っている。
「ハル。なにお前、緊張してんの。顔変だよ?」
 ちなみに慶太郎が悠仁をハルと呼ぶのは、最初の出会いで悠仁をハルヒトと読み間違えたことに起因する。
「無花果さん違うのよ。HaLさんだとは知らなかったけど、アタシ、目下こちらの殿方を口説いてる最中なの。ロックオンよ、ロックオン!」
「えー!ヘドさん、そうなの?ちょっとハル、知り合いだったのー?」
 ガールズ?トークが盛り上がる中、まさか絋亮がヘドニス子だったとは夢にも思わない悠仁は、ピンヒールのせいで2メートルはあろうかと言う彼女を改めて見つめる。
「ヤダぁ、そんなに見つめないで。照れる照れるぅ」
「ヘドさん乙女だー」
 悠仁を置き去りにして盛り上がる二人をよそに、悠仁の脳内は高速回転で絋亮とのやり取りを振り返る。
 確か絋亮には同棲だか同居している彼女がいるはずだ。パートナーだの相方だのと言っていたので、絋亮がドラァグクイーンであることへの理解も深いということか。
 それなのにさっき慶太郎には、悠仁のことを口説いてる最中だと言った。社交辞令だったとしても嬉しい言葉なのでこれは聞き間違いではないと思う。
 となるとあの部屋の主である彼女とは、どんな女性なのだろうか。恋人ではないと否定はしていたが、ここに来てそれが一番モヤモヤしてしまう。
「おいハル?どしたの。難しい顔して」
「え、いや別に。ちょっと驚きがデカくて」
「あらHaLさん、それってアタシのこと?」
 楽しげに顔を寄せてくるヘドニス子に愛想笑いを浮かべると、まあそうですねと捻くれた返事をしてしまう。
「いやー。でも二人がもう知り合いだったなんて、世の中面白いよね。3人でご飯でもと思ってたけど、おじゃま虫みたいだから今日は退散します」
「そんな、無花果さん。お二人だって会うのは久々でしょ?」
「良いの良いの。ね、ハル。また連絡するから、その時に詳しく聞かせてねー」
 慶太郎は言うが早いか、そのまま搬出作業をしていた他の演者たちに声を掛けて、すぐにその場を離れてしまった。
「でもまさかHaLさんが悠仁だったとはね」
「それはこっちも同じだよ」
 頭ひとつ分背が高いヘドニス子——絋亮を見上げると、いまだにどこか信じられなくて色んな角度から見つめてしまう。
「そんなに見られたら興奮しちゃう」
「ああ、やっぱり絋亮か」
「なんでよ!」
 地団駄を踏みながらも、心底可笑しそうに笑う絋亮に釣られて悠仁も笑う。
「ここで立ち話もなんだし、ご飯でも食べに行く?」
 この辺なら個室でいい店知ってるよと、悠仁がスマホを取り出して足を進めると、その腕を掴んだ絋亮が帰ろうよと言い出した。
「ならうちに来てよ」
「いや、お前んちは彼女?が居るんじゃないのか」
「ああ、そう云うこと」
 最初はキョトンとしていたが、何かが腑に落ちたのか、クスクスと可笑しそうに肩を揺らして絋亮が笑い始める。
「なにがそんなに可笑しいんだよ。急に行ったら迷惑だろ?」
「違う違う。これ。俺の大事なパートナー。あの部屋の主」
 絋亮が自分を指差してまだ笑うので、そこでようやく悠仁も気が付いた。
「あ?……ああ!ヘドニス子さんの衣装部屋的な?」
「そうだよ」
「だったらそうだって早く言えよ。めちゃくちゃ勘繰ったじゃないか」
「いや、いきなりドラァグクイーンやってるって言うのも驚かせるじゃない……えぇ?もしかして悠仁、ヤキモチ妬いてくれたの」
「それどころの騒ぎじゃなかったよ」
「ちゃんと恋人じゃないって言ったよ?」
「でも一緒の家に住んでるとか、パートナーとか相方とか言われたら気になるだろ」
「ごめん。そこまで気にしてくれると思ってなかったから。ちょっと自惚れてもいいのかな」
 ニヤついた顔を寄せる絋亮に、しまったと思ったが遅かった。これでは好きだと言っているようなものだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由
ファンタジー
ある公爵令嬢は処刑台にかけられていた。 悪役令嬢と、周囲から呼ばれていた彼女の死を悲しむものは誰もいなく、ついには愛していた殿下にも裏切られる。 そして目が覚めると、なぜか前世の私(赤ん坊)に戻ってしまっていた……。 「また、処刑台送りは嫌だ!」 自由な生活を手に入れたい私は、処刑されかけても逃げ延びれるように三歳から自主トレを始めるのだが……。

騙され続けて、諦めて落ちて来た僕の妻

月山 歩
恋愛
「新しい街で、二人で生きていこう。」木の下で、一緒に行こうと約束した相手は現れず、待ち過ぎて、ついに倒れるセシリア。助けてくれた幼馴染のハルワルドに助けられる。あなたに私をあげる。私はいつも間違ってばかりだから。

浮気三昧の屑彼氏を捨てて後宮に入り、はや1ヶ月が経ちました

Q.➽
BL
浮気性の恋人(ベータ)の度重なる裏切りに愛想を尽かして別れを告げ、彼の手の届かない場所で就職したオメガのユウリン。 しかしそこは、この国の皇帝の後宮だった。 後宮は高給、などと呑気に3食昼寝付き+珍しいオヤツ付きという、楽しくダラケた日々を送るユウリンだったが…。 ◆ユウリン(夕凛)・男性オメガ 20歳 長めの黒髪 金茶の瞳 東洋系の美形 容姿は結構いい線いってる自覚あり ◆エリアス ・ユウリンの元彼・男性ベータ 22歳 赤っぽい金髪に緑の瞳 典型的イケメン 女好き ユウリンの熱心さとオメガへの物珍しさで付き合った。惚れた方が負けなんだから俺が何しても許されるだろ、と本気で思っている ※異世界ですがナーロッパではありません。 ※この作品は『爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話』のスピンオフです。 ですが、時代はもう少し後になります。

伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃんでした。 実際に逢ってみたら、え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこいー伴侶がいますので! おじいちゃんと孫じゃないよ!

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...