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15.優しい時間

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「あ。悠仁まだ起きてた」
 ようやくベッドルームにやってきた絋亮の手には、ペットボトルが握られている。
「明日は?俺何時までに出ればいいの」
「夜は予定があるから、夕方には支度しなくちゃいけなくて。だから昼までしか一緒に居られないんだよね」
 絋亮は申し訳なさそうにそう返すと、リモコンで部屋の電気を消して、ランプをつけたサイドテーブルにペットボトルを置き、布団の中に潜り込んで、悠仁を抱き寄せてキスをする。
「お前も忙しいんだな」
「まあ好きでやってることだし、明日のは半分趣味みたいなものだけどね」
「ん?」
「そのうち話すよ」
 曖昧に笑う絋亮に、悠仁はわざとらしく揶揄うように返事する。
「へえ、また会ってくれるつもりな訳だ」
「俺は結構粘着タイプだよ」
「おお、怖っ」
 言葉とは裏腹に絋亮を抱きしめると、悠仁はそのままキスをしてそっと髪や顔を撫でる。
 こんないじらしいことを言うくせに、変な薬を盛られるような付き合いを、得体の知れない誰かとしている。その事実に一人嫉妬して悠仁は絋亮の鼻を摘んで捻る。
「痛っ、なんだよ急に」
「適当に遊んでるだけあって、誑かすのが上手いと思ってね」
「……なんだよ。薬のこと?」
「そもそもなんで、あんなことになったんだよ。お前の交友関係が心配だわ」
「別に。ちょっと色々あって一人が辛くて適当に見つけた相手だったんだけど、そんな相手に執着心なんかないじゃん?それが気に障ったらしくて、寝てる間に仕込まれたっぽい」
「ん?だったらなんでそいつにやられなかったんだ」
「だよね。相当抜けてるやつだろ。爆睡してたし、夜中のうちに置き去りにしてきた」
「ああね」
 計画性も何もなく突発的にそうなったと言うことか。
 それにしても話を聞くだけで、いかにルーズな交友関係なのかが窺える。
「ねえ悠仁」
「ん?」
「なんか俺に質問してよ。パーソナルなこと」
「どうした急に」
「知ってて欲しいんだよ。それになんか話したい気分だし」
 甘えて擦り寄る絋亮は、どこか遠くを見るような目をしている。
 こんな自分に少しでも気を許して執着してくれるのだろうか。悠仁はそんなことを思いながら改めて抱きしめる腕に力を込めると、質問ねと天井を見上げる。
「兄弟は?」
「居ない。一人っ子。母さんの思い出はほとんど無い。俺、父子家庭ってやつなんだよね」
「へえ。親父さんはどんな人なんだ」
「気のいい人だよ。尊敬してる。母さんは病気で亡くなったんだけど、あんなに好きになれる人は居ないからって。俺が照れるくらい今でも母さん一筋」
 暇があれば仏壇に向かって話してるんだよと可笑しそうに笑う。
「愛情深い人なんだな」
「そうかもね。だから父さんに孫を抱かせてやれないのは申し訳ないかな」
「……お前の事情も知ってんのか」
「中学くらいかな。晩酌しながらさ、好きな子は居ないのかって。親子なら普通の会話であると思うんだけど。その時にもしかしたら女の子は好きじゃ無いかも知れないって」
「親父さんはなんて答えたんだ」
「少し驚いては居たけど、誰も好きになれないよりいいじゃないかって」
「そうか」
 それから絋亮の幼い頃の話を色々と聞いた。結構悪さをして地元で有名な不良だった時期もあったらしい。人は見かけによらないものだ。
 しばらく話していると、いつの間にか返事が曖昧になってきて、そのうちすぐに規則的な寝息が聞こえてきた。
「おやすみ」
 悠仁は呟いて絋亮の額にキスをすると、緩やかに沈むように眠りについた。
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